6月11日 その③
第一回試験デスゲーム『友情の天秤』
1.ゲームが行われる部屋には、ゲームの参加者の数だけ椅子と1発だけ弾の入った銃が与えられる。
2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない。
3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する。
4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する。
5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能。その場合は、銃弾を避けることも可能である(避けれるかどうかはその人の身体能力に依存する)
6.試験は、部屋を出た時を終了とする。
7.試験のポイントは、333点満点から6秒毎に1点ずつ減少する。
8.1998秒(33.3分)経った時点で部屋から出ていない人物は全員死亡する。
純介が提案した運ゲー。
それは、完全なランダムであるために誰かが責められる可能性のない───と一見すると思われるが、そうではない池本朗が用意した、最低な仕様であった。
───そう。
誰かが責められる可能性がない訳が無いのだ。
結局、これを行うには誰かが引き金を引く必要がある。そうなると、結局はその引き金を引いた人物が責め立てられる可能性があるのだ。
もし純介が引き金を引きそれが智恵に当たったら、きっと俺は純介のことを心のなかで恨むだろう。
だから、このランダムは何もハッピーを生まない。もちろん、意図して引かれる引き金よりかは恨まれる可能性が低くなるのは確実だけれど。
「───ランダムは、嫌...」
そう声に出すのは紬だった。死の恐怖に体を震わせながら、紬は運否天賦に任せることを拒絶する。
「わかった。じゃあ、ランダムはやめよう」
「───」
純介は、紬の意見を聞きそう口にした。俺はその早すぎる撤回に驚き純介の方を見る。
「どうして...」
「ランダムは、理由もなく命を奪う。僕だって使いたくはない」
純介はそう口にする。
「一人でも反対意見があるならやめよう。これは生死に関することだ。人生に関わることだ。これを使うのは、全滅を避けるために時計の数字が一桁になったら。それで問題ない?」
「全滅は得策じゃないからな。最後の最後で犠牲になるならオレは文句ないぜ」
「俺もだ」
「ワタシは死にたくないから...確実に死ぬよりかは1/8を乗り越えるよ」
健吾と稜・梨央の3人は純介の意見に承諾する。
「───反対意見はないみたいだし、半数の同意は得られたからそうしよう。栄も問題ないだろ?」
「俺か?」
「あぁ、栄の意見も聴きたいんだ。もし断るのであれば、最悪全滅を選択しても悪くないと思うよ」
純介は、俺にそう意見を求めてくる。
随分と嫌な質問だ。ここで断ったら純介は本当に全滅を選びそうである。
「───わかった。最後の最後の切り札として取っておこう」
「───よし、栄も納得してくれたし過半数だ」
純介はそう言うと、微笑む。その冷静さが、俺を恐怖させる。
「───と、まあ僕も本当の最後の最終手段という決定になってよかったよ。もし今すぐにランダムで銃弾を放つ───だなんて言われたら栄のことを疑ってた」
「どうしてだ?」
俺は純介の言葉の真意がわからなかったので純介の腹を探る。
「だって、もう点数は関係ないんだ。1点だろうと満点だろうと最下位で死ぬ───なんてことは避けられる。だって、各部屋1人ずつ───要するに最低3人は死亡するんだから」
そうか、最低でも3人は確実に死亡するのだからマスコット大先生がいつか言っていた「最初の質問に関しては試験開始時と試験終了時の人数を比べた際、変動が無かった場合のみ───要するに、今回の試験期間中に誰一人として死亡する人物がいなかった場合のみ、最下位の人物が死亡します」という発言はもう関係ないのか。
「栄ならば、最後まで話し合うと思ったよ。できる限り被害の少ない道を選べると僕は思っているしね」
「被害の少ない道?」
「あぁ、誰がここで死ぬのが最適か───だよ。この話が終わった後、この8人の中で行われる話し合いの主題になるものだ」
「───」
純介の言葉に喉が詰まる。だけど、実際にランダムという選択を捨てた以上誰が死ぬのか話し合う必要があるのだった。
「じゃあ早速、話に入ろうか。正直に指を指して答えよう、誰が死ぬのが一番被害が少ないと思う?」
「───」
純介のそんな問いかけ。俺は、唾を飲み込むことしかできなかった。
***
栄達が、ランダムに放たれる銃弾を選択しなかったのは、得策だったと言えるだろう。
───と、先にこの試験の顛末の内の1つを話すのだが、今回のデスゲームで3班全てがランダムを使用することはなかった。
要するに、全班話し合って───もしくは、強行突破で誰か一人を射殺するor誰も彼もを殺すことができずに全滅することでデスゲームが終了するのであった。
これ以上の顛末を語ってしまうと、味を落としてしまうので語ることはしない。
───と、顛末を話したがあまり話が横道にそれてしまった。
どうして、栄達がランダムを選ばなかったのが得策か。
その理由としては、そこにいるメンバーに関係していた。
この部屋にいるのは出席番号順に、安倍健吾・池本栄・奥田美緒・菊地梨央・斉藤紬・西森純介・村田智恵・山田稜の8人。
中でも、問題なのは西森純介と村田智恵の2人であった。
まず、西森純介は第4ゲーム『分離戦択』の第4ゲーム+αで行われた2箱のトランプを使って行う『限界ポーカー』でジョーカーを4枚全て引き当てる───という、悪魔的な運を見せた。
全部で108枚ある中で4枚しかないジョーカーを全て引き当てるという悪魔のような運があれば、1/8を引き当てることなど余裕だろう。
そして、村田智恵はラストバトル『ジ・エンド』で九条撫子を退けた際に、「七つの大罪」の全てを保有しているという人間らしからぬ人間であることが明かされた。
もし、2人のその負の力が今回発揮されたら、たった1発の銃弾で3人が殺される───などという不本意な奇跡が起こったとしてもおかしくないのである。
───我らが主人公、池本栄を取り巻く人物には負の力を知らず知らずのうちに背負っている人物も多い。
───いや、違う。常人からしてみれば、栄の持つその「主人公」ということさえも負の力だと言えるだろう。
主人公は、デスゲームを生き残ることができるのか。その答えは、主人公が主人公をやめるときまでわからない。