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6月11日 その②

 

「───は」

 マスコット大先生によって用意された部屋の中に入ると、そこにあったのは8人───俺達全員がもれなく座れるような椅子と、長机であった。


 この部屋は、全て白を基調に作られており、壁も少し光を発していてどこからも影というものが作られていなかった。

「どういう...」


「あ、開かない!閉じ込められた!」

 稜が、机の上に用意されていたルールに目を通し、すぐに外に出れないか確かめるも、扉は開かないようだった。


「嘘、だろ...」

 失敗した。てっきり、チーム戦と聞いていたから仲間になると思っていた。それなのに、敵───敵なのだ。


 俺達は、8人の中で一人誰か犠牲を出さなければならない。

「はいはーい♡皆さん、座ってくださーい」

 そう言って、口を出すのは俺達を見下ろしているマスコット大先生───


「いいえ、私はマスコット大先生ではありません。マスコット大先生の代わりとなる教師───マスコット代先生です!」

 マスコット代先生。その、ピンク色のワンピースに身を包んだ、、俺達よりも5m程高いところにあるバルコニーのような小さな足場の上に立っていたマスコット代先生はそう口にする。

 というか、マスコット代先生などと言っているけれどもマスコット大先生と、マスコット先生と───俺の父親である池本朗と同じ声をしているから、結局同一人物だろう。


「もう、ゲームは開始してますよ。33分後までに誰かを殺しておかないと、皆死んじゃいますよ?」

 そう言うと、俺達が入ってきた扉の上に数字が映し出される。それは「330」という数字だった。だが、数秒も経たないうちに「329」と数が減っていく。


「───これが、脱出する際の点数...」

 別の言い方をするのであれば、このまま誰も殺さなかった際、俺達が全滅するまでのカウントダウン。


「栄...」

 智恵が、不安そうな声を出す。俺だって、怖い。俺だって誰も殺したくない。


「───智恵」

「私達...誰か殺さないといけないの?」

「違う!大丈夫だ!きっと抜け出せる!」

「いいえ、抜け出せません。私は、君達と言葉を交わすつもりはありませんから」

 マスコット代先生はそう言うと、被り物の瞼を動かしてウインクする。


「クッソ...」

「栄、とりあえず座ろう」

 そう、声をかけるのは少し冷静な純介だった。


「純介...冷静だな」

「焦ったって全滅待ったなしだよ。皆で一緒に心中するにも誰か一人を殺すにも座って話さないと」

「───冷静だな。生き残る為には、俺達の中から誰かが死なないと行けないんだぞ?」

「うん、そうだね」

「なんで!なんでそんな冷静なんだ!」

「だから、焦ったって意味がないからだよ」

「意味がないから焦らないのか?」

 俺は、純介を責めたてるような言葉を吐き出してしまう。純介を責めたくて責めているんじゃない。


 冷静だったのが、怖かったのだ。純介が冷静なのが怖かったのだ。

「栄、落ち着け。確かに純介は落ち着きすぎだが、栄は落ち着かなさすぎだ!」

 俺は、健吾にそう宥められてどうにか座る。


 俺は、智恵と稜の横。智恵の隣に席はなく、稜の隣には梨央がいる。

 智恵の前には紬がいて、その隣───要するに、俺の目の前には純介が、そのまま俺から見て右方向へ健吾と美緒がいる。


 ───俺達は全員座って、誰を殺すかの話し合いを始めるのだった。


「それで、誰かを殺す?それとも...皆で心中する?」

 今回のゲームには、時間制限が存在している。現在は「302」と言う数字が表示されていた。

 この時間が「000」になれば、俺達は全員ゲームクリアならず。そして、全員死亡───という流れだろう。

 最悪のルートだが、最後まで誰も喧嘩することはない。全滅という最悪な結末に目を瞑りさえすれば、全員幸せに終われる。


「駄目だ、全員で心中なんか許されない。全員でするなら生き残ることだけだ」

「でも、全員生き残るのなんか無理。最低一人は死なないとなんだから」

 そう、俺達8人の中で誰か一人は死ななければならない。


 俺は、誰かを殺せない。誰かを殺すことなんかできない。


 ───が、俺は生き延びたい。


 接近—回避の葛藤(コンフリクト)。俺は生き延びたいが、誰かを殺すことは避けたい。

 俺が抱えているのは、矛盾。人はその矛盾を、ワガママと呼ぶだろう。


「自殺志願者は...()()いないか」

 純介は、智恵の方をチラリと見てそう少し残念そうに口にする。


「今、お前───」

「しょうがないよね、智恵は栄と出会って幸せになっちゃったんだから。僕だってその幸せは壊しくたくない。壊してあげたくない」

 純介は、そう口にする。


「───運ゲー、する?」

 純介は、そう提案する。純介が言いたいのは、ルールの「4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する」のことだろう。


「運ゲー...」

 無作為に放てば、ランダムに誰かが射殺される。しかも、不自然に空中を周回する───とある以上、暗殺に利用することはできない。ありがたい───と言うよりも、この仕様はゲーム終了後に要らぬ対立を産むだけだ。ここも含めて、マスコット大先生は、マスコット代先生は性格が悪い。悪すぎる。


 ───俺達の中を切り裂くだけのデスゲームは、まだ始まったばかりなのであった。

ちなみに、ルール4が適用された場合は本当にルーレットを使用します。

なので、1/8で完結です(笑)

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] これは栄も揺れて当然ですよね。 誰も死にたくないし、誰も殺したくない。 人間の心理を絶妙に突いたデスゲームですね。 さてさて、運ゲーで罰ゲーム形式にするか。 頭脳戦の上で誰か生け贄にするか…
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