6月9日 その⑭
「はぁ〜、疲れた...」
ここは、チームCの寮の浴室。順番で、智恵が入った後に俺が風呂に入っていた。
裕翔と、本日は何度かやりあったもののほとんどダメージはなかった。だけど、一日で、約60kmもの移動をしたので体にはドッと疲れが来ていたのだった。
俺は、湯船を手で掬いそれを自分の顔にかけながら今日の疲れを癒やす。
「───明日は筆記試験か...」
俺は、そう口にする。できることならば、今日が筆記試験で明日が運動能力試験であればよかったのだが、どうやら現実は上手く行かないようだった。
マスコット大先生がわざと仕組んでそうしたのか、はたまた別の事情があるかはわからないけれど、今日の疲れが残ったまま試験を受けるのは免れないだろう。
マスコット大先生曰く、筆記試験はデスゲームなど関係ないお遊び抜きのちゃんとした試験のようだった。
このデスゲームという環境に来て、俺達は3年生の高等教育を受けていないが、先生としては「そんなもの天才の皆さんにとっては常識」とでも言いたいのだろう。
でもまぁ、俺だってデスゲームが無い通常の日は、図書室に行って大量に置いてある参考書とにらめっこしていたりする。だから、皆も同じでちゃんと勉強しているのだろう。
皇斗みたいな天才は、勉強しなくても平気な顔をして満点を取りそうだけれど。
「まぁ...明日も頑張るか」
俺はそう口にして、しっかり頭と体を洗った後に風呂を出た。
「風呂出たよー、次は誰?稜?健吾?純介?」
「ん、僕は今日ほとんど何もしてないし最後でいいよ」
「じゃあ、オレが入らせていただこうかな。稜?いいか?」
「オッケーだよ」
「ほーい。んじゃ、風呂入ってくるわ」
そう言って、健吾が風呂に入りに行った。
「って、純介は今日0点だったけど何かあったのか?」
「ひどいな、栄。わかってるだろ?僕が壊滅的に運動ができないのは」
「別に、壊滅的って訳じゃないだろ。『投球困窮四面楚歌』ではちゃんと投げられてたし」
「僕だって、ドッジボールくらいはできるよ。キャッチされるけども。問題は最初の崖登りだよ」
「あー、クライミングか」
「あんな高いの、普通の人間はできないんだからね?しかも、普通のクライミングは紐が付いてるから落ちても死ぬことはないけど、今回は紐なしで落ちたら一発で死ぬんだから。僕じゃ無理だよ」
純介が、珍しくグチグチと言っていた。
「じゃあ、明日でなんとか巻き返さないとな」
「うん、僕は今日ほとんど動いてないから明日で巻き返すつもりだよ。テスト範囲が公表されていないから、どこがでるかはわからないけどね」
純介の正念場は、明日だろう。
───などと、話していると一番最初に風呂から出た智恵がご飯を用意してくれたので、風呂に入った俺と最後になる純介の3人で、夕飯を食べることにした。
稜は、健吾が風呂に出た後、お風呂に入れ替わりで入るのでまだ夕飯は食べない。
そして俺達は食事を終えて、今日は早めに寝ることにしたのだった。
歯磨きを終えて、パジャマに着替えた俺と智恵の2人は、俺の部屋のベッドに一緒に入った。
「今日は疲れたね」
「あぁ、そうだな」
俺は、柔らかい智恵の手を握りながら同じベッドの上で眠る。
「明日のテスト...大丈夫かな?」
「大丈夫だ、一緒に勉強しただろ?」
「そう...だけど」
「智恵は頑張った。満点は取れなくても、ベストを尽くせばそれで花丸だよ」
「ありがと、頑張るね。明日」
「あぁ、頑張れ。俺も頑張るからさ」
───明日は筆記試験だ。
そんなころを考えていると、俺は疲労に襲われてそのまま眠ってしまったのだった。
***
───四次元。
そこにいたのは、マスコット大先生と全く同じ被り物をした4人の人物。
この中に、本物のマスコット大先生が───というか、全員が池本朗であるから、現在第5回デスゲームの担任として動いているマスコット大先生がこの中にいるとしても、他の3人は全く知らない人物───否、やはり中身は池本朗であることは確定しているのだから、まだこの物語に登場していないマスコット大先生である。
「さて、お集まりいただきありがとうございます。皆様───いえ、私」
「よろしくてよ。アナタ───いえ、私」
「何せ明後日は本番だからな!リーダー───いや、私よ!」
「生徒の為にも、我々一同───いや、私達は頑張らなければいけません」
口を開いた順に、現代第5回デスゲームの担任として勤めている池本朗、お嬢様池本朗、熱血池本朗、理系池本朗───と、伝えるべきであろう。
「とまぁ、皆さん私ですので、私の言いたいことなどわかってるはずでしょう。なので、全てを省略して今回の会議は終わりにします」
「わかりましたわ」
「了解だ!」
「理解しました」
「では、頑張っていきましょう。私───いえ、名前を授けましょう」
マスコット大先生は、そう口にしてニヤリと被り物の口角をあげる。そして───
「───では、頑張っていきましょう。マスコット代先生」
マスコット大先生ならぬ、マスコット代先生。
その3人は、マスコット大先生にそう名付けられたのであった。
お嬢様池本朗、要するにオネエ