6月9日 その⑬
「試験一日目、終了です!」
マスコット大先生のその言葉で、錯乱していた俺の頭は現実に引きずられる。
『ファイブアスロン』に参加していた俺達は全員、マスコット大先生の不思議な力によって学校にあるプールサイドに転移させられたのであった。
「妾を無視するなと言っているだろう!」
刹那、つい数秒前まで溺れかけていた───否、溺れていた俺の腹部に2発目の蹴りを入れるのは愛香であった。
「ごへっ...ごめん...蹴らないで...」
「愛香、栄を蹴らないで!」
「ふん、妾を無視するのが悪い」
愛香の蹴りにより、俺は体の中に溜まっていた水が体外に排出された。口から、鼻から水が出てきて痛いし気持ちが悪い。
───と、『ファイブアスロン』が終了していなければ、俺は裕翔に敗北して溺れていたかもしれない。
命拾いした、なんとか九死に一生を得た。俺は、ゴホゴホと咳込み水を吐き出しつつ、体をゆっくりと持ち上げた。目眩が体を襲うが、俺は目を瞑ってその目眩を耐えきる。
───ここに愛香がいてくれるのであれば、裕翔も襲いかかってくることはないだろう。
愛香は、裕翔よりも強いのだ。裕翔だって、勝てない勝負をするような馬鹿じゃない。
俺は、目眩が収まったのを確認して目を開ける。そこには───
「ぎょッ」
そこにいたのは、蹲踞の姿勢をして体を起き上がらせた俺に顔を近づける愛香だった。
「あ、愛香...何?」
「───」
愛香は、何も言わずに鋭い眼差しで俺のことを見てくる。
「な、なんだよ...」
「どうして死にかけておった?質問に答えろ」
「裕翔とちょっと喧嘩した」
「喧嘩...か。水中で喧嘩とは随分と元気のいい奴め。ダークブルームーン戦か」
「───え?」
「んで、その様子だと負けたようだな」
「───まぁ、な」
裕翔に敗北したのは、あまり認めなくないけれど、負けたのは事実であるので躊躇いつつもそう口にする。
「ふん」
「なんだよ、負けたことに文句あるのか?」
「別にない。妾だって前にマスコットに負けたから笑えないしな。それに、栄は逃げれる時は逃げるだろうよ。だから、今回はそれなりに仕方ない理由があったのだろう。それにケチなんか付けれるか」
「───」
「腹を蹴って水を吐き出させてやったんだから貸し1つ───と言いたいところだが、妾を昏睡から覚ましてくれたのとチャラで赦してやる」
「どこがチャラだ!」
「妾の水着姿を見せてやっているのだから、栄は妾に借りがあると行っていいかもしれない」
愛香はそう言うと、俺から数歩距離を取り俺の方へ顔を向ける。フリルのついた黒いビキニに身を包む愛香の全身が俺の目に写った。愛香は、腹部や足は痩せているが出るべきところはしっかりと出ている女性として完璧な体型と言えるだろう。
「どうした、栄。そんなに妾の体をマジマジと見て。妾の腰の形でも覚えるつもりか?」
「んな訳ないだろ、理不尽に貸し付けられて驚いてるんだよ!」
「冗談だ、チャラでいい」
「チャラなのは譲らないんだ...」
俺はただ蹴られただけだし、蹴られて喜ぶような人種でもないのだけれども、ここで色々文句を言っても無駄だろう。
「栄、大丈夫だった?」
と、俺のところにやってくるのは競泳水着に身を包んだ智恵だった。
「うん、なんとかな。危なかったけど助かった」
「よかった...」
「───と、皆さん!ご注目を!皆様がどれだけ進んだか───要するに、本日時点での点数の計測が完了しました!それでは、この表を御覧ください!」
そう言って、マスコット大先生は表を俺達に見せた。尚、点数は進んだ距離÷200であり、最高点が333点である。
1日目の点数
1位:森宮皇斗 333点 (4時間3分17秒)
タイ:森愛香 333点 (4時間58分47秒)
タイ:安土鈴華 333点 (5時間13分38秒)
タイ:竹原美玲 333点 (5時間49分03秒)
タイ:西村誠 333点 (5時間50分22秒)
タイ:東堂真胡 333点 (5時間58分49秒)
7位:山田稜 330点
タイ:結城奏汰 330点
9位:安倍健吾 324点
10位:宇佐見蒼 321点
11位:細田歌穂 319点
12位:村田智恵 310点
13位:池本栄 309点
タイ:渡邊裕翔 309点
15位:中村康太 305点
16位:柏木拓人 300点
17位:津田信夫 297点
18位:奥田美緒 214点
タイ:斉藤紬 214点
20位:佐倉美沙 192点
タイ:秋元梨花 192点
22位:橘川陽斗 173点
23位:田口真紀 118点
24位:岩田時尚 65点
25位:菊池梨央 0点
タイ:成瀬蓮也 0点
タイ:西森純介 0点
現在の、デスゲーム参加者で生きているのは29人だけど、生徒会メンバーであることが確定している園田茉裕と綿野沙紀は休んでいるので、27人までしかない。
「やはり、66.6kmを6時間で完走するのは天才の皆さんには簡単でしたか...」
マスコット大先生は、そう口にする。どうやら、水泳ゾーンは6.6kmもあったようだった。拓人の順位から、それがわかってくる。
「この点数は、皆様のスマホでも確認できるように配信しておこうと思います。本日は、これで解散にしようと思っていますので!」
───これにより、第1回試験1日目『ファイブアスロン』は幕を閉じたのである。
表作るの面倒ー!