4月2日 その⑯
生徒会室にいるのは、集められた生徒会立候補者の生徒が数人とマスコット先生。そして、死んだはずの松阪真凛だった。
「真凛さんは、私達先生とあなた達生徒会の仲間です。GMとも、もちろん知り合いっていますしね」
「えぇ、そうね」
真凛は、自らの金髪をたなびかせる。
「───どうして...」
「これよ」
真凛は、生徒会の一人に赤い液体のパックを投げつけた。
「うおっ!」
生徒会の一人は、それをキャッチする。
「これは...輸血パック?」
投げられたのは、口の中に仕込めるような輸血パックであった。
「えぇ、そうよ。これを口に含んでいて死んだふりをしたのよ。勿論、本物の私の血液を使ってね」
生徒会室は、沈黙に包まれてしまう。無理もないだろう、これほどの手の込んだ工作でデスゲームが行われているのだから。
「はいはい、真凛さんが行きていたというネタバラシは終わりにしてそろそろ本題に入りましょう」
マスコット先生は、手を叩き説明を始める。
「生徒会には、大きな役割があります。それは、真の天才を作る手伝いをすること」
「質問だ、{真の天才}ってのは何なんだ?」
生徒会の一人は、そう質問する。
「そうですね...皆さんには話してしまってもいいかもしれません。真の天才の意味を知ってしまっては、真の天才にはなれなくなってしまいますが...まぁ、皆さんは高校と、帝国大学まで卒業しても私達の元で働いてもらいますので真の天才にならなくてもいいので話すことにしましょう」
マスコット先生は、そう決心をつける。
「真の天才とは、感情を捨てた者───すなわち、機械のような人間と言うことです」
「真の天才」の意味を聞かされた生徒会のメンバーは全員黙り込んでしまう。それが、驚きなどの沈黙ではないことは一目瞭然だ。彼ら彼女らが黙っているのは何か思案しているから。
「感情を無くした天才───それを、この国の平和のために利用するのです。感情がなければ、我々に逆らうこともしませんし。意志や意思を抹消します。そして、私達の思想に染め上げます。感情を捨てるのに、最適なのは『死』なんです」
マスコット先生は、ツラツラと説明を行う。
***
感情を捨てるのに重要なのは、「死」だ。
「死」と隣り合わせの生活に慣れてしまえば「恐怖」が消える。
人類にとって───いや、全ての生物にとって最大の恐怖は「死」なのだ。
我々人間は、いつも何かを恐れている。
例えば、他人から暴力を振るわれる事だったり。例えば、恥ずかしい話を広められることだったり。
それは、いずれも「死」を恐れているのだ。前者は物理的───肉体的な死亡で、後者は社会的な死亡である。
その、「恐怖」を取り外してしまえば他の感情の排除も容易になる。
デスゲームという人間の本性が蔓延る場で、人を疑い、人に騙ってしまって喜怒哀楽を無くすのだ。
他人の「死」に触れ合い続ければ「喜」も「怒」も「哀」も「楽」も無くなっていく。
───原初的な欲求さえも、不必要になっていく。
生存本能は、生物誰もしもが持つ欲求だ。マズローの欲求5段階説で言うと、下から2番目から上が不必要となる。
マズロー欲求5段階説の最下段───生理的欲求は、食欲・排泄欲・睡眠欲などだ。
なお、ここに所謂「性欲」などが一部入ってくる。言葉で無理に説明するならば、「愛のない交尾」とか「形だけの後尾」と表現すればいいだろうか。要するに「子供を作るための儀式」でしかないという訳だ。
そして、このデスゲームで生理的欲求は全て満たされる寮となっている。
食事は、日替わりで提供されるし、トイレもベッドも用意されている。
生理的欲求さえ、満たされれば「真の天才」になれるのだ。
───いや、生理的欲求しか満たされなければ「真の天才」にはなれない、と表現したらいいだろうか。
「真の天才」になるには、誰からも愛されず、誰も信じずに誰からも認められずに行きていく事が必要不可欠なのだ。
そして、感情の無くなった生理的欲求のみっで動く知識の塊が「真の天才」という訳だ。
「真の天才」はコンピュータのようにデータが盗まれるなんてこともないし、いつでも最適解を出してくれる。
だから、GMは日本中から天才を集めたのだ。
***
「いいですか?皆さん、私達にご協力お願いしますね?」
生徒会メンバーは全員、マスコット先生の言葉に頷いた。誰も、反論などしていなかった。それには理由がある。
───なぜなら、彼らは皆、十人十色の過去を乗り越えてきたが全く同じ思想にたどり着いたからだ。
───「こんな平凡な人生ではつまらない」と言う思想に。
「では、生徒会メンバーの皆で親睦でも深めておいてください。部屋の鍵の答えを教えようと思いま───したが、皆さんなら必要ありませんよね?」
先生はそう言うと、部屋の外に出ていった。
「んじゃ、ちょっと皆でお喋りでもする?それとも、今後の作戦会議だったり?」
真凛はその濁りのない金髪を揺らし、顔をほころばせた。
「───そうだなぁ...クエスチョンジェンガなんて、どうかな?」
生徒会メンバー一人の提案。他のメンバーもそれに頷いた。
***
俺は、リンク先にあった問題文とにらめっこを続けたままだ。
もう一度、問題の内容を確認しよう。
以下の文字を入れ替えてできる文の答えが部屋の鍵の解除ナンバーである。
i h u d r a r y w s h i t b n y o e
hint1:4月2日20時に配信
hint2:4月3日15時に配信
答え _ _ _ _
「これって、推理じゃなくてもはや総入れ替えでは?」
そんな脳筋な行動に身を委ねるよりも、少しは自力で考えたほうがいいだろう。
「入れ替えか...まず、これが日本語になることは...」
母音はi u a i o eの6個。
対する子音はh d r r y w s h t b n yの12個だ。
「きゃとかしとかが連続するならいいけど、それも無さそうだから英文になるのか?」
そう、考察を立てる。英文だと推測したならば、次推測するのはこれだ。
「文の答えとあるから、きっと疑問文だ。さて、何が使われているのか...」
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