6月9日 その⑥
俺は、マンションのことをハズレの道だと思ったものの、まだリカバリーすることが可能であることを見極めた。
───そう、ここはマンション。
ならば、どこかに非常口のような避難できる場所がベランダにもあるはずだった。隣に繋がる扉は防火扉で遮られているが、この硬そうな防火扉はフェイク。
「これは、防火扉じゃない!避難壁だ!」
そう、マンションの隣同士が防火扉で繋がっているわけがない。開閉可能ならば、いつでも侵入できるはずだった。
だからこそ俺は、その防火扉のような避難壁を蹴り破って道を作り出す。
そして、俺は隣の部屋の前までやってくる。
「こっちならば、開くか?」
俺はタックルを試みるけれども開くことはない。こっちも、先程の部屋の窓と同じ材質のようだった。
「しょうがない...ならば次だ!」
俺は、こうして避難壁を何枚か蹴り破って、角部屋までやってくる。
「あった...」
角部屋の床に用意されていたのは、避難はしご───下層に移動できる屋根裏へ移動する際に必要なはしごと似たようなはしごだ。
「下層に行くと降りることになるけど...」
「窓は割れないんでしょ?なら、降りてみようよ。マンションならエレベーターもあるだろうしさ」
「そうだね」
俺と智恵は、避難はしごを出して一つ下の階へ移動する。3回の屋根から飛び乗ったのだから、ここは高さを考えると4階だろう。
───そんなことを考えつつ、俺達は3階分の階段を降りて1階───要するに最下層まで移動した。
1階は、高い塀ができており外からは侵入できないようになっていた。もしかしたら、皇斗がジャンプすれば登れるかもしれなけど、少なくとも一般人には入れない高さだった。
「あ、栄。ここの窓開いてるよ!」
智恵が、窓が空いていることを確認してくれたので、俺達はその窓の中を通って通路の方に出る。
「とりあえず、上に登れそうな階段はあるね」
「でも、このマンションは結構高そうだからエレベーターもありそうだよ?」
「そうだね、エレベーターに乗っていこうか」
俺と智恵は、マンションの中心辺りにあるエレベーターに乗り込み最上階であろう13階のボタンを押した。
そして、俺と智恵はエレベーターの中で2人きりとなる。
でもまぁ、最近は俺の部屋で一緒寝てるので、2人きりであるのが珍しいことではない。
だが、男女のカップルが密室の中で2人きり、何も起きないはずはなく───
「う、うわぁぁぁ!」
突如として、足元から地面が消えたような浮遊感がやって来て、俺達の乗るエレベーターは、13階に到着するまで落下する。
「な、何が起こってるの?」
「わからない!」
俺は、落下している最中に智恵を抱きしめて、智恵が怪我をしないようにする。
───と、中々落下は終了しない。
「あれ?」
違和感があった。外に違和感が。
本来、落下しているのであれば他の階を通るのだからその景色がほんの一瞬だが映るはずだ。だけど、エレベーターの外にあるのは暗黒。何も映っていなかったのだ。
「まさか...」
俺達が落下しているのは、地上を通り越して地下にまでやってきているようだった。いつ着地するかわからない状況で、智恵を抱きかかえつつ俺は衝撃を待つ。
───と、思っていたら。
”チーン”
そんな音がなる。
別に死亡した訳じゃない。そう、エレベーターは、まるで何事も無かったかのように制止して、少しオレンジがかった場所に俺達を降ろしたのだった。
「ここは...どこだ?」
わからない、どれだけ落下したかはわからないけど、ここは確かに地上ではないだろう。
俺達は、今地下にいる。
「とりあえず...進んでみる?」
「そう...だね」
幸い、エレベーターが着いたところが一番端だった。きっと、真っ直ぐ進めば問題ないだろう。
「行ってみるか...」
「そうだね」
俺達は、進むことを決心する。ここで止まっていても、エレベーターはもう既に動かさそうだし止まっていても時間が無駄だった。
もし、これを進んでゴールと垂直の場所だったり、逆方向へ進んでいるのならば悲劇だけれども一か八かに賭けるしかない。
俺達は、地下鉄の通路のような雰囲気が少しある、オレンジがかった光で照らされている謎の空間を進み続ける。
「ここはなんなんだろうね?」
「さぁ...でも、マスコット大先生のことだからこういう道を作っててもおかしくはないよね...」
───と、15分ほど走って見つけたのは、一つのトロッコのような乗り物だった。
「乗ってみるか?」
「うん、乗ってみよっか」
トロッコは、2人で乗ってもまだ少し余裕があったくらいなので、俺達はゆったりと幅を取って乗った。
───そして、そのトロッコは動き出す。
「線路がないからどこを走るんだろ───ッ!」
その直後、トロッコはまるで砲弾のような感じで上に飛んでいった。
「上ェェェェ?!」
俺は、道を進んでいくかと思っていたから、上空に打ち出されたことに驚いてしまう。
トロッコの形をしているのに上に動くのは反則だろう。
地球の自然法則とか、色々無視したトロッコは、そのまま遥か上空へと飛んでいき、最終的に俺達を最高層のビルの上へと運んでくれた。
地上から、50───いや、60mはありそうなビルの上にあったのは、駐輪場。
「もしかして...」
今回の『ファイブアスロン』の最高高度であるこの場所から開始するのは、本家トライアスロンにも登場する競技───サイクリングなのであった。
『ファイブアスロン』第四ステージ───サイクリング。
残り距離:42.195km
残り時間:3時間ジャスト
今日の話を書くために、わざわざマンションの資料をネットで探した。