表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

404/746

6月9日 その③

 

 智恵は蒼の発言にどうようしてしまったのか、ホールドを持つ手を滑らせてしまう。

 俺は咄嗟に手を伸ばそうとしても届かなかったし、蒼は智恵が落ちるとは思っていなかったのか、驚くだけだった。


 ───と、智恵は、3m程落ちた後に、すぐにホールドの出っ張りに手と足をかけたので完全に落下は免れた。


 ───死亡は、免れた。


「よかった...」

「本当によかったピョン、話を跨いだから死んだかと思ったピョン...」

「何の話をしてんだ。そんなことより先に智恵に謝れ!智恵が...智恵が死ぬかもしれなかったんだぞ!」

「え〜、僕は悪く───ごめんなさい、ピョン...」

 蒼は、反論しようとしたけれどすぐにシュンとなって智恵に謝罪した。


「べ、別に大丈夫だよ。結果としてなんとかなったし」

「なんとかならならなったら死んでたんだぞ?」

「まぁまぁ、栄きゅん。智恵が赦してくれたんだし、これ以上の話は辞めるピョン!」

「お前なぁ!」

 俺が、蒼に向かって苛立ちをぶつけようとする。


「あー、聴こえない!聴こえないピョーン」

 蒼は、俺の声を遮るようにしてそんなことを言葉にしながら、ドンドンボルダリングを登っていってしまった。


「───アイツ...」

 俺は、少々苛立ちがあったけれど、ここでイライラして落下するのもバカバカしい話だろう。


「智恵、本当に大丈夫だったか?」

「───怖かった」

 智恵はそう口にした。


「ちょっと休憩するか?ここなら安定してるし」

「───うん」

「わかった、じゃあ智恵の高さに合わせるよ」

 俺は、数メートル下にいた智恵の右側に移動した。手を離せば落下してしまうだろうけれど、手さえ離さなければ耐えれそうだった。

 これだけの崖を、一気に登るのは危険だし、ここで休憩を挟むのも悪くない。


「ごめんね、栄。これは試験なのに...」

「いいんだよ、俺は試験なんかより智恵の方が大事だ。試験も智恵がいるから頑張れる」

「───ありがと」

 智恵はそう小さく呟く。そして、5分ほどしたら、智恵が「行ける」と言ったので、俺達は再度崖を登りはじめた。


 俺が、進みやすい道を探して、智恵がそこを通る。基本的には縦に登っていくだけだけど、稀に登りにくいところが存在していたから、智恵のためにもそこは避けて通ったのだった。


 ───そして、休憩を終えてから10分ほどが経ち、俺達は約130m地点に到着する。


 後、20分もあればこの地点は乗り越えられそうだった。最初に見た時は、2時間かけても登りきれ無さそう───などと考えていたが、登ってみると1時間とちょっとで登れたのだから相当いいペースだろう。


「智恵、もうちょっとだ。頑張ろう」

「うん、頑張る」

 智恵はそう言うと、柔らかい笑顔を俺に見せてくれる。俺達は登るのを再開して、70m上に存在する第一ステージのゴールを目指す。


「上位層は、続々と第一ステージを突破しております!現在1位から順に森宮皇斗選手、森愛香選手、安土鈴華選手、結城奏汰選手、柏木拓人選手です!第一ステージを突破し、第二ステージに入っているのは、上位5名に加えて、東堂真胡選手と竹原美玲選手!そして、ちょうど今第一ステージ最後の関門を西村誠選手が乗り越えようとしております!」

 どうやら、速い人はかなり速いようだった。でもまぁ、上位にいるのはいずれも運動神経が人並み以上ある人物ばかりだ。


「智恵、俺達は焦らないで行こうな。1位じゃなくてもゴールさえすれば満点だ」

「うん」

 そう言って、俺達は登る。俺達の20m程上には、稜の姿も見えていた。


 ───皆、頑張って登っているようだった。


 そして、15分ほどかけて、俺達は最後の5m地点までやってくる。ここまで来ると、かなりホールドの量も形もまばらになっており、かなり登りづらかった。


「だけど、やっとここまで...」

 そして、俺は気付く。


 ───最後の3mは、ホールドが一切ないことに。


「最後の最後でこれかよ...」

 ホールド無しで登る。素手で、この崖特有の出っ張りを登れということらしい。

 少し怖いが、ここからじゃ下に戻るのも一苦労だ。


 ───試験もあるし、ここはチャレンジしてみるしかない。


 ***


 ───一方、こちらは『ファイブアスロン』スタート地点。


 そこに座り込んでいたのは、梨央と蓮也の2人だった。

 純介は、5m位のところまで登ってみたものの、それ以上登ることも降りることもできなくなってしまい、ホールドの上で止まっている。


「蓮也君は登らないの?」

 梨央は、登る素振りすら見せない蓮也にそう声をかけた。


「え、あ、うん。僕は運動が得意じゃないから。純介みたいになるのも嫌だし...」

「僕だってもうちょっと登れると思ったんだけどなぁ...」

 純介は、自分が5mちょっとしか登れていないことにかなり不服そうだった。


「菊池さんの方こそ登らないの?」

「うん、ワタシは生まれつき握力が弱いからさ...ボルダリングはできないの」

「そうなんだ...」


 どうやら、2人はもう完全に諦めているようだった。

 だが、登りきらなければ0点のこの崖にトライして、途中で落下死て死亡する───というのも本末転倒で馬鹿馬鹿しい話だから、ここは登らなくて正解かもしれない。


 他のテストで挽回すれば、最下位は避けられるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨城蝶尾様が作ってくださいました。
hpx9a4r797mubp5h8ts3s8sdlk8_18vk_tn_go_1gqpt.gif
― 新着の感想 ―
[良い点] やはり皇斗と愛香は別格ですね。 そしていつものようにウザ絡みする蒼。 ある意味、この作品の風物詩ですね。 後、筆記試験もあるから、 このファイブアスロンをやらなくても 最下位が確定でないの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ