6月9日 その①
───6月9日。
思ったよりも早く、第一回試験というものはやってきてしまった。
正直に言うと、テスト勉強などはしていないのだけれど学校のテストでは置いてかれたことは無かったし、問題ないだろうか。
朝のHRを待っている教室で、俺達はいつもとは若干違う雰囲気を持ちながらマスコット大先生のことを待っていた。
今日は体育の実技らしいのだが、どういうことをするのだろうか。もしかしたら、シャトルランなどかもしれない。
───そんなことを考えていると、マスコット大先生が教室に入ってくる。
「皆さん、おはようございます。本日は第一回試験一日目。運動能力を測る試験です!」
マスコット大先生はそう口にする。
「ということで、今回のテストを行う為にも、皆さん体操服───いや、更衣室を用意しますので、そこにある水着を着てから体操服を着てください」
どうやら、今回は水着が必要らしい。泳がされるのだろうか。
───などと、考えていると教卓の後方にある白板に、2つの扉が用意される。
右側に「男」と書かれた青い扉が、左側に「女」と書かれた赤い扉が現れたのだった。
「皆さんの名前が書かれている半個室がありますので、そこで着替えてしまってくださいね」
どうやら、運営側も今回の第一回試験には力をかけているようだった。まさか、こんな部屋を用意してくれるとは。
───そんなことを考えながら、俺達は扉の中に入って着替えることになった。
「これは...」
俺の名前が名札が書けられた部屋に入ると、そこに置かれていたのはいつも俺が着用していると体操服とメンズの競泳水着であった。
太ももの半分ほどまで布がある黒に近い紺色の競泳水着。俺は、それを履いた後に上から体操服を着用した。
「トライアスロン...かな」
水着を着ることと、運動能力を測る───この2つから導き出せる競技はトライアスロンであった。
長距離走・水泳・チャリ走の3つがあるトライアスロンならば、様々な動きをする。
そんなことを思いながら、俺は更衣室を出た。
───というか、競泳水着のサイズがピッタリだった。
もしかして、マスコット大先生は把握しているのだろうか。もし女子のも把握しているのであれば───
「このド変態がッ!」
「ぐへぶっ」
更衣室を出た俺は、マスコット大先生の頬を───正確には、被り物を殴る。
「殴ったね…!」
頬を殴られたマスコット大先生は、俺のことを恨めしそうな目つきで睨む。
「殴って何故悪いか。競泳水着のサイズがピッタリだった」
「当たり前です!試験を行うならば最善の状態で!生徒個人個人の体に合わせた競泳水着を用意するのは教師として───デスゲーム運営として当然の職務です!」
「女子のもピッタリなのか?職務だと言い訳をして、女子の体を把握したのか?」
「あ、それは個人の趣味で腰の形を見ただけで誰だかわかる程度に把握しています」
「キモいッ!」
俺は、マスコット大先生の───父親の、最低な発言に再度頬を殴る。
「ぶったね…二度もぶった…!!親父にもぶたれたことないのに!!!」
唐突に挟まれるガンダムのパロディ。マスコット大先生───俺のクソ親父は、ノリノリで息子に殴られていた。
「───んで、実際は?」
「実際のところ、女子生徒はマス美先生───私の妻に任せていますので、心配しなくて大丈夫ですよ」
「そうか、よかった」
マスコット大先生───俺の父親は、JKの体を弄って興奮するような変態ではないことは知っている。
「───それで、池本栄君。どうして先生を急に殴ったんですか?」
「ん、あー。気にしないでください」
「はぁ...別に、殴られた程度でやり返すほどキレ性じゃないのでいいですけれど...」
マスコット大先生はそう言うと、頬を擦った。
「ん、栄。どうかしたの?」
更衣室から出てきたのは、体操服に身を包んだ智恵だった。
「いや、なんでもないよ。ちょっとマスコット大先生と話ししてただけ」
「そうなんだ」
俺が席に戻ると、智恵も俺についてくる。どうやら、話があるようだった。
別に無くても、俺のそばにいてくれて構わないけれど。
「テスト、運動と勉強でしょ?勉強は普通の筆記試験らしいからさ...成績、マズいんだよね」
「そっか、智恵は勉強が苦手だもんな」
智恵は、あまり勉強が得意ではない。だから、明日の試験で難問が出てしまってはかなりピンチに陥ってしまうのだった。
「だからさ、今日のが全員で行うような競技だったらさ。ペースメーカーとして一緒にいてくれない?」
「うん、いいよ」
別に俺は、マラソン大会によくいる「一緒に走ろうぜって言った癖に、途中から先に行ってしまう」みたいなことはしない。それに、智恵もそんなことはしないだろう。
「じゃあ、決定。ありがと、栄!」
「個人競技だったら頑張ろうね」
「うん」
───と、話をしていると全員着替え終わったようだった。
「それでは、全員着替え終わったようですね。みなさんに起こってもらうのは『ファイブアスロン』です!」
マスコット大先生は、そう高々と宣言する。
「「「『ファイブアスロン』?」」」
その場にいるほぼ全員が、マスコット大先生にそう聞き返した。
「はい、『ファイブアスロン』です。トライアスロンは、競技が3つ。ですが、皆さんに取っては物足りないでしょう。ですので、私は5つの競技を用意しました。直線距離で66.6kmあるコースを皆さんには走ってもらいます。333点満点ですので、200m進めば1点を皆さんにあげますよ」
どうやら、ゴールしたら───ではなく、進んだ量だけポイントが貰えるようだった。これならば、前進するだけでも有意義だ。
「ゴールすれば最高の333ポイントです。制限時間である6時間の間に進めるところまで進んでください!ポイントに小数点以下はございませんので、そのところはよろしくお願いします」
マスコット大先生が、そうルールを説明してくれる。まぁ、ポイントの最低は1点ということだろう。
「では、皆さん。是非奮ってゴールを目指してください。それでは早速、スタートです!」
その言葉と同時に、俺達は同じ場所に転移させられる。そこにあったのは───
「───んだよ、これ...」
俺達の目の前に現れたのは、高さ200mはありそうな巨大な崖。そこには、ボルダリングのようなカラフルなホールドが多数付けられていた。
───第一回試験、1日目。
『ファイブアスロン』第一ステージ───ボルダリング。