4月1日 その①
お待ちかねの1話です。
予約投稿なので、プロローグから、1話投稿まで、時間に差はありません(笑)
───2027年4月1日木曜日。
”ピピピ”
”ピピピ”
”ピピピ”
”チャッ”
朝の6時。いつも通り俺は起床する。いや、いつもは5時半に起きているから少し遅い起床だろう。
ベッドから出て、伸びをする。
「この家とも、しばしの別れか」
そう、呟いた。今日から始まるのは、新学期。
階段を降りて、1階にあるリビングにまで移動する。
「おぉ、栄。おはよう」
「浩一おじさん、おはようございます」
ダイニングテーブルの前に置いてある椅子に座って、新聞を読みながらコーヒーを嗜んでいるのは、俺の叔父である浩一さんだ。
両親が失踪し、一人だったところを保護してくれたのが、俺の父親の弟である浩一おじさんであった。
「今日からだな」
「はい」
今日は、待ちに待った新学期だった。昨年度の11月に届いた一枚の封筒。
そこには、帝国大学附属高校で生活する旨が書かれていた。
俺は、浩一おじさんに迷惑はかけれないと一度は断ったが、浩一おじさんは俺の拒絶を拒絶した。
俺の「勉強したい」という好奇心を汲み取ってくれたのだ。
血の繋がっていない───といえば、叔父と甥の関係なので嘘にはなるが、親戚にここまでお金を払ってくれるのは、浩一おじさんしかいないだろう。
大手の会社の社長や中世ヨーロッパの貴族などならば、話は別なのだけれども。
浩一おじさんは一般の大企業の一般社員だ。外食なんて、月に5度出来れば嬉しいくらいの給料だ。
「今まで、ありがとうございました」
俺は、深々と頭を下げる。
「おいおい、まだ出発じゃないんだし。それとも、パジャマのまま出発するの?」
「まだ、朝ごはんも歯磨きもしていないので、まだですよ。ただ、感謝を伝えたくて」
「子供が、金銭面で大人に頭を下げるんじゃないよ。アルバイトもしてないのに」
浩一おじさんは、コーヒーを啜る。
「それに、勉強は悪いことじゃないんだから。学校、楽しんできなよ」
「はい!」
浩一おじさんの、優しい言葉。
帝国大学附属高校は完全な寮生活だ。お正月も、お盆も家には帰らない。
それが、伝えられた条件の内の一つだ。
届いた手紙にかかれていた電話番号に電話し、参加の旨を伝えたら後日、帝国大学附属高校に通う条件が書かれたメールが送られてきた。
1つ。 1年間、家に帰ることは不可能。
2つ。 4月1日の7時に迎えの車が来る。
3つ。 一度参加を表明したら取り消しは不可能。
それを聞いた時、浩一おじさんは料理ができないから食べるものが無くなってしまうのではないかと心配したが、それは杞憂だった。
浩一おじさんも、料理の練習を積んで日常生活に困らない程度の料理は作れるようになったのだ。最も、揚げ物はまだできないのだけれど。
───俺は、朝の支度をテキパキと済ませる。
「浩一おじさん、今日...仕事は?」
「栄の見送りをしたいから、今日は有給を使ったよ」
「新年度の一番最初から...大丈夫なんですか?」
「前年度の有給を特別に使っていいよって言われたから。今年度の業務に影響はないよ」
「いや、休みの方じゃないです。会社、繁忙期ですよね?」
「大丈夫、俺の会社の同僚は有能だから。俺が一日いなくたって、なんとかなるよ」
「そうですか、なら俺のせいで会社に影響がなくてよかったです」
「別に、栄が抱え込む必要はないでしょう。───って、そろそろじゃない?」
俺は、自らの左腕に付けた腕時計を見る。時刻は、6時54分。いや、たった今55分になった。
「後、5分ですね」
俺は、白いキャリーバッグを持つ。そして、家の外に移動した。
「大丈夫、忘れ物はない?」
「はい、大丈夫です」
ちゃんと、荷物の確認は昨日の内に行った。生活必需品は用意できている。
「本当に、この12年間ありがとうございました」
浩一おじさんの家に来てから12年間。その分の感謝を込めて頭を下げる。
ここまで育ててくれたことへの感謝。
「その感謝は、独り立ちするときにしてくれよ...」
そんな声を、浩一おじさんは出す。俺は、まだ顔をあげない。まだ、あげてはならない。
「でも、栄。俺も、ありがとうって言わせてくれ」
「───え?」
俺は、浩一おじさんの口から溢れた言葉に驚いて頭を上げてしまう。
「妻が死んで、色褪せた日常をもとに戻してくれたのは他でもない栄だった。だから、ありがとうを言うのは俺の方だ」
「でも...」
「栄、俺に言わせてくれ。ありがとう。妻が死んで、悲しみの深淵に堕ちていた俺を救ってくれてありがとう。生きる希望になってくれてありがとう。学校、楽しんでくれよ」
「浩一おじさん...」
一筋。重力に従って下へ下へと少しずつ落ちていく涙が、空へ空へと昇っていく太陽の光を反射させる。
「浩一おじさん、俺...帝国大学附属高校でも頑張ります」
「あぁ、頑張ってくれ。それで、帝国大学に行って名前をこの世に轟かせてくれ」
「浩一おじさん...それはまだ気が早いですよ」
「ははは、そうだね」
そんな話をしていると、俺達の前に一台の黒い車が到着する。
そして、自動で後部座席のドアが開く。
「池本栄さん、ですか?」
「はい、そうです」
「それでは、乗ってください」
「はい、わかりました」
「栄、元気でな」
「浩一おじさんこそ、お元気で」
俺は、車に乗り込みシートベルトを閉める。目の奥で液体を溜め込んでおくダムが決壊し、俺の目からは液体が流れ弾けた。
浩一おじさんは、ずっと手を振っていた。車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
───そして、そのまま眠くなり。
***
「36名、全員車に乗りました」
「───そうか」
「ゲームマスター。ゲームの開始の合図を」
「わかった」
ゲームマスターと呼ばれた人物。それは、返事をしてから、大きく息を吸い込み───、
「───これより、帝国大学附属高校を舞台にデスゲームを開催することをここに宣言する!!!!」
2月28日の10時に2話を更新します。