6月6日 その㉑
───こっくりさんの討伐を終えて、寮に到着した頃には時刻は深夜の3時を周っていた。
「四次元に移動したのが12時だったからそんなに時間が経っていたのか...」
などと、俺は口にする。いや、そもそも四次元が三次元と同じスピードで時間が流れているのかわからなかった。
「いやぁ...かなり疲れたな...」
「そうだね。こっくりさんにボコボコにされたし...」
稜と健吾はそんな感想を言い合っていた。
「んじゃ、今日はもう遅いし風呂入って寝るか」
「あぁ...沸かすのかよ...面倒だな」
などと思っていると、リビングにあったのは一つの置き手紙。
「僕が寝ている間に帰ってきていたのなら、お疲れ様です。お風呂は沸かしておいたし、ご飯は簡単なものだけど冷蔵庫の中にあります。レンジで温めてください 純介」
「純介...」
どうやら、俺達が好き勝手している間に純介がなんとかしてくれていたようだった。
俺達は、純介の厚意に感謝して精一杯休んだ。
「俺は最後でいいから、健吾と稜と智恵は先に入っちゃいなよ」
「うん、ありがとう」
「んじゃ、オレが先に入らせていただくよ」
そう言って、健吾は先に風呂に入っていく。その間に、俺達3人は純介が用意してくれていた食事を食べる。
───そして、俺がその日、智恵と一緒に眠ったのは明朝の5時だった。
───その後夕方に起床して愛香から、茉裕が生徒会であることの確信と茉裕の持つ「特異な能力」の話を聴いたのだった。
七不思議其の弐で生徒会が2人も確信に変わった。これで、判明している生徒会メンバーは園田茉裕・山本慶太・綿野沙紀の3人であった。
「───と、栄。茉裕の特異な能力のせいで判明した生徒会メンバーが本当の生徒会メンバーかどうか判別することができなくなったぞ」
「そっか。誰かを操れるというのならば、生徒会だと嘘をつかせることもできる───というわけか」
「そういうことだ。妾は茉裕に賛同しなかったから操られなかったものの、賛同してしまっては操られてしまう───という条件ではかなり強い能力になっているな」
「そうだな。心の何処かで納得してしまえば操られてしまうって言うのならば最強っていいかもな」
もしかしたら、愛香が判明できなかった条件があるのかもしれない。「賛同する」の他にも色々と条件がある中で、茉裕が唐突に賛同しやすい質問をしたから「賛同する」だけが能力発動条件だと思っているという可能性もある。
「───まぁ、ともかく賛同しないほうがいいかもな」
「そうだな」
───と、そんなこんなで長かった6月5日・6月6日の休日は終りを迎えるのだった。
***
「痛たたた...いやぁ、助かったよ。マスコット大先生」
「いえ、いいのですよ。茉裕様が助けを求めるのであればいつでもどこでも登場して助け出します」
「ありがとう、マスコット大先生」
茉裕は、操っているマスコット大先生に向けてそう口にする。
この四次元には、数え切れないほどの、まさに三次元の数だけマスコット大先生が存在している。その内の、一人のマスコット大先生は茉裕の操り人形と化していたのだった。
だからこそ、愛香に殺される直前に助けてもらうことができたのだった。
───と、ここで茉裕の持つ「人を心酔させる体質」について再度話しておいた方が良いだろうか。
茉裕の「人を心酔させる体質」は、自分に共感するか、恋心を芽生えさせるか、心惹かれること等の行動をした場合に発動する。他に必要な条件としては、相手も自分も意識できるような距離にいる───というところだろうか。
愛香を操ろうとした時や、慶太を操ろうとした時などの2人だけの空間だったり、敵対している時に、意識しなければいけない場合には体質が発動する。
だけど、有象無象が声を上げている中で、大きな声で不特定多数の人間に演説をする───というのは、目の前にいる数人に対してならば発動するけれど、数メートル先にいる人物に対しては使用不可能だ。他にも、SNSで呟いていいねを貰う───程度では操ることはできない。
「お互いに意識している中」で「心酔させる」ような行為をすれば、体質の効果が発揮される。これが、「人を心酔させる体質」の使用可能条件だった。
茉裕を「敵」として認識していれば、意識せざるを得ないので能力発動の条件の1つが埋められることとなる。もっとも、その中で「心酔させる」ような行為ができるかは不明だけれども。
「───と、茉裕。大丈夫だった?」
「いやぁ...駄目だった。失敗しちゃって」
生徒会メンバーである少年が、茉裕に声をかける。
「そっか、情報を吐きそうな慶太は殺した?」
「うん、殺したわ」
「オッケー。慶太と沙紀に関しては生かしておいてそれほど利点は無いからね。失敗したら沙紀も殺しちゃっていいよ」
「何度も釘を刺さなくてもわかってるわよ。次のデスゲームで沙紀には動いてもらう予定よ」
「───わかった。今週は第一回試験だから、沙紀の活動は18日だね」
「そうね」
その少年は、今後の予定を確認すると茉裕の後方へゆっくりと移動する。そして───
「沙紀が失敗したら...わかってるよね?」
その少年の優しい恫喝に、茉裕は唾を飲み込んだ。
───第一回試験は、刻一刻と近付いていた。