6月6日 その⑳
「───紫陽花...」
俺は、俺のことを助けてくれたその少女───いや、自分より10歳も年上の人物を「少女」と形容するのは不正解だろう。俺のこと助けてくれた女傑の名を呼ぶ。
「助けに...来てくれたのか?」
「あぁ、愛香からの命令だからな。靫蔓を取り戻すために栄は必要な材料になりそうだし、ここで助けておけば貸しができるだろう?」
「貸し」や「借り」と言う言い方は、4月初旬の愛香のような口調だった。
靫蔓を取り戻すために俺が必要な理由としては、マスコット大先生───というか、GMが俺の父親であるのと、靫蔓が俺を「主人公」だと認めたからであろう。
「───俺は、もう動け無さそうだ...」
「そうか。ならば、妾がこの怪物を倒してしまえばいいか?」
「構わない」
俺は、紫陽花にそう口にする。
「───さて、本気を出すのはいつぶりだろうか」
そう言って、紫陽花は首を回す。そして───
”ドンッ”
数個の音が重なる。目の前にいる紫陽花は、瞬きする間に俺の目の前から消えて、こっくりさんに拳をぶつけていたのだった。
地面を蹴った際に鳴った音と、こっくりさんに拳をぶつける音が重なっていた。
そして、10秒も経たないうちに、こっくりさんは紫陽花に楽々持ち上げられて、そのまま地面に叩きつけられていた。
「───そんなに強かったのか?」
「あぁ、ラストバトルの時は靫蔓が殺されて力を出すのが厭だったから出していなかったが...妾の本気はこの程度だ」
紫陽花はそう口にした。靫蔓がマスコット先生の手で殺されたこともあり、マスコット先生に怒りを持っており、彼には渋々協力していたようだった。
───が、今回は違う。
マスコット先生に敵対する今ならば、本気を出してくれるようだった。
「それにしてもこっくりさんを軽々と...」
俺があそこまで苦戦した怪物を、ここまでボコボコにされるとなると、どこか来るところがある。
「別に、おかしいことじゃない。こっくりさんは人間が軽い代償で簡単に使用できる生物だからな」
「───え?」
紫陽花の言葉に、俺は驚いてしまう。
「こっくりさんは、狐───だとか言われているけれど、本当は違う。このような生物なのだ。皆が楽しんでいる『こっくりさん』と呼ばれる占いは、この異形の生物を呼び寄せて行っているのだ。人には見えないから、それに驚くことも無いけれどな」
「でも、暴走とかするんじゃ...」
「しないしない。これは、お前の父親である池本朗が不当に凶暴化させただけだ」
「嘘でしょ?」
「嘘ではない。本当だ、池本朗は、もはや何でもありの人物だ。死者を生き返らせる───それに近い行為を、いとも簡単に行う。朗曰く、厳密な死者蘇生以外ならばなんでもできる───そう言っていた」
「そう...なのか?」
「あぁ。でも、あの男のことだからどこまで本当かわからないけどな」
こっくりさんが、その場に横たわっている中で、紫陽花はそう解説してくれた。
「───と、これで終わりだな」
「いや、まだだ。俺の父親───池本朗がGMだとするならば、このこっくりさんをしっかりこの体育館の入口にあるあの鳥居に連れて行くまでクリアにならない」
「───そうなのか。では、連れて行こう」
ヒョイと抱えて、意識を失っているらしいこっくりさんを持ち上げた。そして、鳥居の前にこっくりさんを置いて、俺にこう告げる。
「マスコット大先生───っていうかまぁ、お前の父親には内緒でここまで来たから、ゴールはそっちがしてくれ。これが七不思議なのであれば妾が四次元に来たことがバレる」
「バレちゃマズいのか?」
「愛香がいない状況で、マスコット大先生との戦争はマズい」
「───そうか、了解した」
俺は、こっくりさんを押し込んで鳥居を潜らせる。これは誰がクリア判定になるのだろうか。
───などと思っていると。
「───うおっ!」
「おかえりなさい、七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』に参加した皆さん!」
「───皆...」
「栄!」
俺は、後ろから智恵に抱きつかれる。
マスコット大先生が俺の目の前にいて、他には七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』に参加した人物───稜と健吾に鈴華・美玲・康太・蒼・裕翔などのメンバーもいた。
「では、現在時刻を持って七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』が終了したことのご報告です!」
マスコット大先生が、真夜中なのにそんな声を張り上げてそう宣言した。
「途中離脱をした人もいますが、その方には先に帰ってもらったのでこのメンバーで終了を宣言しようと思います。それで、賞金の12万コインを手に入れたのは安土鈴華さんと竹原美玲さんです!」
「───え?」
「ワタシ達?」
「一体目のこっくりさんは柏木拓人君・東堂真胡君・山本慶太君・結城奏汰君の4人が討伐して、2体目がその2人です。おめでとうございます!」
「拓人達に横取りされちゃったピョン...」
どうやら、こっくりさんに最後に三次元で引き付けたのが鈴華だったから、この2人のようだった。
「あ、それともうこっくりさんの取られた文字は話すことができますので、ご安心ください」
───と、そんなこんなで紫陽花の力があって七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』は終了を迎えた。
そして、俺達はそれぞれの寮に戻ることになった。俺と智恵は、手を繋いで寮に帰った。