6月6日 その⑲
鈴華の乱入により、俺とこっくりさんのタイマンが行われていた体育館に、パワーバランスの拮抗に亀裂が入った。
最初から、パワーバランスが等しかったか───と言われると、俺は避けることしかできていなかったから、パワーバランスは最初からあったかはわからない。
───と、まぁパワーバランス云々の話は放っておいて。
鈴華の参戦により、こっくりさんの主力武器である舌を2つも減らすことができ、残りは最初の半分の2本であった。俺は四次元に、鈴華は三次元にいるために会話をして情報を伝えることだったり作戦を伝えることはできないけれど、思いの外上手く行っている。
これならば、後2本切り落として攻撃方法を舌による鞭打のような攻撃から、突進の攻撃方法に変えられる。突進に変えてしまえば、こっくりさんに鳥居を通らせることができて無事にクリアすることができるだろう。
「───さて、残り2本...」
俺は、舌を切られたことに憤慨して残る舌をブンブンと振り回しているこっくりさんの攻撃を、飛んだりして避けた。もし、俺に刀剣の技量があれば、出刃包丁を使用して受け流す───と言った方法も使用できたのかもしれないけれど、悲しいことに俺にはそのような技量は無い。だから、カッコつけることはせずに堅実に全てを避けきっていた。心なしか、少し舌の動くスピードが早くなっているような気もするけれど、まだまだ避けれないほどではない。
鈴華の方は、ヒットアンドアウェイの戦法を使用しているのでこっくりさんからの攻撃はくらっていなかった。
やはり、ある程度の猛者になると攻撃をされそうな感覚───などというものはあるのだろうか。
「───っと」
俺は、こっくりさんの攻撃を避けきった後に鈴華がこっくりさんの背部に───現在、10円硬貨が引っ付いて、そこで叫び声をあげている顔のあるところへ移動していた。
鈴華は、その10円硬化が置かれている場所以外の場所は、見えていないからそこ以外での攻撃は避けているのだった。
10円硬貨が当たっているところから、耳が破壊されるような叫び声を走っていた。
「───今かッ!」
鈴華の攻撃がヒットして、こっくりさんがそちらに意識を向けた瞬間に、1本の舌をバッサリと切り落とした。鈴華の攻撃にこちらが合わせる───といった感じだけれど、十分に戦えていた。
「───うがっ!」
俺が、舌の最後の1本を切り落としたと同時に、鈴華のそんな声が聴こえる。
「まさか───」
───鈴華に、もう片方の舌が攻撃しに行ったのか。
俺がそう口にしている間、俺の目の前に現れたのは鮮やかなピンク色をした質量を持つ物体───こっくりさんの最後の一本の舌だった。その舌は、俺の発言を遮って、そのまま俺の顔面にビタンとぶつかる。
俺はそのまま、後方に吹き飛ばされる。そのまま、体育館の───いや、俺がいるところは四次元なので、ここは厳密には体育館ではなく、体育館を模した建物なのだけれど、そんな細かいことを気にしてる場合ではなかった。俺は、壁にぶつかったのだ。
「───見きれなかった...」
俺は、そう口にする。舌がぶつかったところが痛むけれど、他の舌を切られてこっくりさんも痛むのか、攻撃が少し弱くなっているような気がした。だから、痛むだけでどこか折れているわけでは無さそうだった。
「鈴華は───ッ!」
俺が立ち上がろうとしたその刹那、伸びてきたこっくりさんの舌が俺の腹を突く。舌であり元は柔らかいので俺の腹を穿ち臓物をばら撒くことは無かったけれど、それでも鳩尾が殴られた痛みはやってきた。
───遠隔から、俺はこっくりさんに攻撃されていたのだった。
その時、俺の視界の遠くでゆっくりと立ち上がったのは鈴華だった。まだ、鈴華は立っていた。
流石は鈴華だ───と思ったが。
”ドンッ”
「───かはっ」
鈴華は、こっくりさんの姿を見えていない。だから、見えていれば避けられたであろう舌の攻撃にぶち当たる。そして、再度その場に倒れてしまった。
「クソ...鈴華ッ!」
俺は、鈴華の名前を呼ぶ。もちろん、俺は四次元にいるので鈴華にこの声が届きはしない。
「鈴華!」
鈴華が吹き飛ばされたのを見て、体育館の鳥居近くで見ていた美玲が、鈴華の方へ移動する。だが、こっくりさんがその行動を見逃すわけもなく、美玲の腹部にも舌による攻撃がぶち当たった。
「美玲、馬鹿野郎...」
鈴華はそう声に出して、どうにか動き出した。だけど、こっくりさんは無情にも鈴華の頭上に攻撃を入れて、体育館の壁まで吹き飛ばした。鈴華は、三次元にいるので体育館の壁で正解だ。
「クソ...俺がなんとかしない───グフッ!」
俺が動こうとすると、こっくりさんの舌がめり込む。1本にまで減ったのに───いや、1本にまで減ったからかこっくりさんの舌の動きが早くなったような気がする。いや、絶対に速くなっていた。
「どうすれば...」
鈴華は、立ち上がらない。きっと、頭を打って脳震盪でも起こしているのだろう。いくら強靭な肉体を持っていようと、それを動かす脳がダウンしていては駄目だ。
「───俺がなんとか、しないとッ!」
智恵を守るためにも、俺が動かなければいけない。七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』で、皇斗は首を刺されて、愛香はこっくりさんの骨をボロボロにされた。他にも、稜や健吾・鈴華に美玲がこっくりさんに攻撃されている。
智恵の為にも、皆の為にも俺がこっくりさんを倒さねければいけない。
───が、どう足掻いても不可能。
ここまで速い相手では、もう俺では相手できない。もし対応できるとしても、三次元にいるのであれば見えないのだから避けられない。流石の皇斗でもこのスピードでは無理だろう。
というか、皇斗は怪我をして動けない。もし、四次元に来ても戦闘ができそうにはない。
愛香も皇斗と同じように戦えはしないだろう。
援軍が無ければ勝てないけれど、援軍は期待できない。そもそも、例えばここに信夫が四次元に援軍として来ても俺と同じようにコテンパンにされるだけだろう。
皇斗と愛香のツートップが撃沈している中、第5回デスゲームメンバーの中で援軍として誰かが来ても勝つことはできないだろう。
───死亡。
俺の頭の中にその文字が過る。こっくりさんは、俺の方へ歩いてきていた。
舌を3本も奪った俺から殺すつもりなのだろう。
そして、俺は舌に軽く抱かれるような感じで捕まり口の中に運ばれて───
「───愛香の命により、助太刀だ。無論、太刀は持っていないがな。どうだ、たちが悪いだろう?」
「───」
俺がこっくりさんに食べられる寸前に、こっくりさんの口から俺を引きずり出してくれたのは、一人の小柄な金髪少女───第3回デスゲーム生徒会メンバーであったが現在は愛香と協力関係を築いてマスコット大先生と敵対している柊紫陽花であった。
歌穂が寮に帰り、「愛香からの命令だ」などと言って派遣してくれたのだろう。
紫陽花、「6月1日 その⑤」から約1ヶ月半ぶりの登場。
仲間になっていること自体、忘れている人も多そう。





