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6月6日 その⑱

 

 体育館に入ってくるのは、鈴華であった。他にも───というか、体育館には入ってきていないけれど、体育館の入口にある鳥居から体育館に顔を覗かせているのは美玲であった。

 どうやら鈴華と美玲の②人で、こっくりさんの相手をする───ということになったのだろう。


 それにしても、嬉しい援軍だ。協力こそできないけれども、鈴華がこっくりさんの気を引いてくれればその舌を切り落とすこともできるだろう。

 もしくは、そのまま鈴華がこっくりさんを鳥居の方まで連れて行ってくれればいいのだけれど。


 まぁ、そんな都合よく事が運ぶことはないので、こっくりさんは鈴華に殴られて、その動きを少し止めるだけであった。

「───って、どうして鈴華はこっくりさんに攻撃を与えられているんだ?」


 皇斗の話によると、三次元から見たこっくりさんは───否、三次元から見れないこっくりさんは、一方的に攻撃してくるだけの怪物だったという話だ。そこには何も存在しないのに、ただ攻撃だけしてきて、攻撃の質量だけを加えてくる怪物───それが、四次元から三次元へ干渉するこっくりさんの、三次元での捉え方だったのだ。

 皇斗ほどの天才が攻撃できていなかったというのに、鈴華のパンチは通る。


 ───と、俺はその時に気付いた。


 鈴華が殴っているのは、こっくりさんに付いた10円硬貨であった。

「まさか...」


 そのまさかだろう。

 こっくりさんは、10円硬化を介すれば、三次元からでもこっくりさんに攻撃することができる。


 皇斗は、負傷した稜や健吾がいたために防戦一方だったために見つけることができなかったけれども、今回は違う。鈴華は、こっくりさんに攻撃する時に10円硬化を狙ったのだ。それはなぜか。答えは簡単だ。


 そう、三次元にいる鈴華にこっくりさんの全貌など見えてなどいない。鈴華にしてみれば、こっくりさんの大きさというものは未知数なのだった。

 少なくとも、俺が目にしたような異形の怪物だとは思わないだろうし、想像もつかないだろう。


 他にも、タチウオのような感じでめちゃくちゃ細い生物だと想像する可能性もある。姿が見えない鈴華にとって、こっくりさんに確実に攻撃を与える方法はただ一つ───10円硬化を媒介にして攻撃することだった。


 そこに10円硬化が含まれようと含まれなかろうと、次元の壁があろうとなかろうと、鈴華のその破壊力に変化はない。だから、鈴華はこっくりさんにダメージを与えることができるのだった。


「ならッ!」

 ならば、俺は補佐に回る。


 無理に俺が目立つ必要も、無理に俺がとどめを刺す必要もない。俺よりも鈴華の方が戦力としては強いのだ。俺がこっくりさんを鳥居に連れて行くよりも、鈴華がこっくりさんを鳥居に連れて行くことの方が話が早いのだ。


 ───だから、俺は徹底的に鈴華の補助をする。


 鈴華が攻撃したことで、こっくりさんの気は鈴華に向けられている。一瞬、ノーマークになった俺は動きを止めた4本ある舌の内の1本に出刃包丁を振るって、どうにか切り落とす。


 非常に大きな触手のような舌だった。思い切り振り下ろして無ければに、出刃包丁の刃は途中で止まっていただろう。この舌を、いとも簡単に切り落としていた鈴華に俺は驚きが隠せないけれども、とりあえず3本にまで減らすことができた。


 ───と、その時だった。


 ”ブオンッ”


 こっくりさんの背中にある無数の顔の一つから叫び声が響き渡っている中で、俺は空を切る音を聴いた。

「───あぐッ!」


 鈴華は、そんな声をあげ、横に吹き飛ばされてゴロゴロと転がる。

「クッソやっぱ一筋縄じゃいかねぇか...それにしても、これが文字を奪われる感覚か。いい気はしねぇ...」

 鈴華は、こっくりさんに吹き飛ばされてそう口にした。


「鈴華、大丈夫?!」

「あぁ、大丈夫だ!すぐにそっちに連れて行く!だから美玲はそこで見てろ!」

 鈴華は、やはりその強靭な肉体のおかげかピンピンしているようだった。


「よかった...」

 俺がそう安堵するような声を出すと同時、俺の目の前に飛んできたのはこっくりさんの舌だった。


「───とっ!」

 俺は、こっくりさんの攻撃が飛んできたがためにそれをどうにか避ける。もし、ここで生半可にしゃがむなどをしていたら当たっていただろう。しっかりと伏せて正解だった。


「よかった...危ない───ってうお!」

 俺が伏せて攻撃を避けると、次は上から舌がやってきた。俺は、その場をゴロゴロと転がることで攻撃を避けると同時に距離を取ることに成功する。転がりながら移動するのは、些かダサいけれども、気にしている場合じゃないだろう。


 俺は、数メートル程離れたところでムクリと起き上がっては、鈴華の方へ移動した。依然として、こっくりさんの体から発せられる叫び声は止まずに、戦場に響いていた。


「全く、これだけ叫びやがって...アニメ化にはできなさそうだぜ」

 俺はそんなことを口にして、目の前の怪物に鈴華と一緒に立ち向かう。


 見えている俺とは違い、鈴華は見えていないので俺よりも恐れを知らずに進んでいく。そして、こっくりさんの背部に付いている10円硬化を殴り、再度ダメージを加えた。


 そして、再度鈴華に注目が行っているところを、残り3本の舌の内の、もう1本をも切り落としたのだった。


 これで、こっくりさんの舌は2本にまで減らすことができた。このまま舌をゼロにすれば、こっくりさんの攻撃方法は突進だけになる。そうすれば、鳥居に突っ込ませることができるだろう。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 鈴華、パワーだけでなく機転も利きますね。 三次元と4次元の協力バトルというのも 斬新で良いですね。 皇斗や愛香以外のキャラが活躍するのも良いと思います。
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