6月6日 その⑯
茉裕は、自分自身の正体を生徒会だと愛香と歌穂の前で明かす。
その場には拓人と真胡・奏汰の3人もいたけれど、失神しているのでその言葉は届いていないだろう。
「慶太や沙紀と共に策謀し、妾達を殺そうとしていたのか?」
「えぇ、そうよ。生徒会全員が一丸となって、皆を殺しに行くわ」
「何が望みだ!デスゲームのバランス崩壊か?」
「違うわ。マスコット大先生は───GMは、平等が好きだもの。ただ、デスゲームをより面白くするために生徒会というものは存在しているわ」
「面白く...」
愛香は、そう口にする。
「デスゲームによりスリルを、謎を、物語性を、策謀を、懐疑心を、疑念を、疑惑を、絶望を、裏切りを、友情を作り出すために私達生徒会は存在しているの」
茉裕はそう言うと、愛香の方へ向き直し笑みを浮かべる。
「愛香も、私に協力してくれない?」
「嫌に決まっているだろう。妾はマスコットが嫌いだ」
「私も嫌いよ。生徒会に協力してくれない?もっと詳しく言うと、私に協力してくれない?」
「───愛香」
歌穂が、愛香の名前を呼び愛香の方へ近付こうとする。が、愛香は手を伸ばしてそれを制止した。
「嫌な予感がする...できれば遠くに。離れろ」
「───」
歌穂は、その言葉に従って後ろに離れていく。
───ここで、愛香が歌穂を離したのは正解だったと言えるだろう。
茉裕の「人を心酔させる体質」は、男性ではなく女性にも適用する。「心酔」させることができるような感情であればなんでもいいのだから、ここで少しでも「友人として好き」だと思ってしまえばもう茉裕の操り人形と化してしまうのだった。ここで少しでも「生徒会に共感」してしまえば、もう茉裕の奴隷になってしまうのだった。
失神している拓人達は、好意を持つ脳が動いていないため、茉裕の能力は適用されない。そして、愛香は既に確固たる意志を持っているので聴かないけれど歌穂はまだ不透明であった。
愛香は、茉裕の「人を心酔させる体質」を知らないけれど、それを何らかの感覚で理解していた。天才でも言葉にできないような、不思議な感覚から理解していた。
もっとも、茉裕の持つ体質は非科学的なもので、話しても理解されないであろうものだし、確証も無かったから愛香は口にすることは無かったのだけれど。
「妾は、生徒会なんぞに寝返らない。とっとと妾に殺されろ」
「───じゃあ、勝負をしましょう。さっき、慶太としていたような殺し合いを」
「受けて立とうじゃないか。貴様なんぞ、瞬殺してやる」
茉裕は、ゆっくりと歩いて首元にナイフが刺さっている慶太に近付く。もう慶太は死亡しているだろう。
慶太の死体から、茉裕はナイフを抜いてそれを手に持った。
「随分と、余裕そうだな」
ナイフを抜いて、立ち上がった茉裕の後方に接近していたのは鋭い眼光で茉裕のことを睨んでいた愛香であった。
愛香は、茉裕にナイフを振るわせる間も待たずに、その頭を狙って蹴りを放った。そして───
”ゴンッ”
茉裕の頭に、愛香の蹴りが激突して茉裕は、5m程吹き飛び転がっていく。
「───痛たたたた...ひどいなぁ、私を蹴るなんて」
そう言って、茉裕はゆっくりと立ち上がる。常人がくらえば、脳震盪を起こしてしまうような強烈な蹴り。
茉裕は、それを「痛い」で終わらせたのだった。
「私、マスコット大先生のことが嫌いなの。あの飄々としていて、素っ頓狂なことしか言わないから嫌い」
茉裕は、そう口にする。現在、戦闘に全く関係ないマスコット大先生のことを口にしたのだった。
「妾もマスコットなど嫌いだ」
そう言って、愛香は茉裕に接近する。そして、再度愛香は茉裕の頭を蹴り飛ばそうと動き───
「───止まれ」
「───」
愛香の足が、茉裕の頭に接触するギリギリで止まる。そして、茉裕はニヤリと笑みを浮かべた。
「───勝ったわ」
茉裕はそう呟いた。
茉裕は、これで愛香と言う手札も手に入れる。これで、操ることが可能な第5回デスゲーム参加者は、鈴華・沙紀に加えて愛香も追加される。
「じゃあ、愛香。ナイフをあげるからさ、歌穂のことを殺してきて。私のお願い、聴けるよね?」
「───はい」
そう言うと、愛香はナイフを受取歌穂の方を向く。そして、歌穂の方へ一歩一歩歩んでいった。
「え、嘘...嘘でしょ、愛香...」
歌穂は、そんな声を出して一歩ずつ後ろに下がる。だけど、途中で尻もちをついて転んでしまった。
「嫌、愛香...やめて───」
「愛香、歌穂のこと。殺して」
愛香は、尻もちをついた歌穂を尻込みせず殺して───
「たわけが」
”ブオンッ”
「───ッ!」
愛香は、持っていたナイフを歌穂に突き刺すのではなく、茉裕の方へ投げる。そのナイフは、正確無比に茉裕の方へ飛んでいき茉裕のおでこに突き刺さったのだった。
「妾が、貴様なんぞの言いなりになるわけがないだろう!図に乗るな」
「嘘ー、私の体質が破られた?」
「不正解だ。私は最初から、貴様になんぞ操られていない。操られているフリをしていたのだ」
愛香は、そう口にする。先程も言った通り、愛香は茉裕の体質になんとなく気付いていたのだった。
「貴様に共感したら貴様に操られる───と言った感じだろうよ」
「マスコット大先生は嫌いって───」
「あぁ、あれは嘘だ。妾はマスコットは嫌いじゃない」
愛香は茉裕に接近する。そして、茉裕の顎に蹴りを放ち───
「妾はマスコットのことが大嫌いだ。貴様と同じくらいな」
茉裕は顎を蹴られた後に、四次元に消えていく。
───とどめを刺すことこそできなかったが、茉裕という脅威について理解できたのだった。
茉裕の体質は「茉裕のことを好意的に思う」人物に発動するので、過度に共感された場合にも発動します。
弱点が無いようにも思えますが、茉裕の体質にもしっかりと弱点はあり───。