6月6日 その⑪
拓人と真胡・奏汰と慶太の4人が七不思議其の弐をクリアして学校の外にマスコット大先生のGMパワーで転移させられる。
拓人が、最後にこっくりさんを連れて行ったことによって抜け駆けのような形で、勝利して、同じチームである4人にコインが配布されるのだった。
同じくこっくりさんを誘導した康太達は少し可哀想だけれども、ルールはルールなのだから仕方がない。
そして、奏汰と慶太の2人に至ってはこっくりさんを誘導すらしていないのにコインを貰えることができる。
少し、ズルい感じもするが、七不思議はチームで参加できるのだから納得するべきルールだった。
クリアと同時に、4人にはコインが配布される。
12万コインを山分けということになっているので、一人辺り3万コインである。
───その時だった。
”ドンッ”
「───かはっ」
奏汰が、慶太に蹴り飛ばされる。命を軽々と奪うような、友人に放つものではない迷いなき蹴りであった。
奏汰が、ガードすることもできずに一瞬で後方に飛ばされてしまった。
「まさか...」
「ここで慶太の破壊衝動?!」
慶太と同じ部屋である拓人と真胡は知っていた。慶太には、毎晩深夜に破壊衝動が出てきてしまうことに。
2人は、急いで慶太を取り押さえようと行動する。
───が、今日の慶太は違う。
自らを生徒会だと皇斗に明かした慶太は、目の前にいる2人じゃ───友達を助けようとしている2人じゃ勝てない程残酷な暴力を振るうのだった。
「慶太、落ち着け───」
”ガンッ”
「───ッ!」
慶太をいつものように取り押さえようとした拓人の頭を襲うのは慶太の強烈な蹴り。
死を予感させる程に強力な蹴りは、拓人の平衡感覚を奪うのには十分だった。
「た、拓人!」
慶太に蹴られた拓人を心配し、拓人を支えるのは真胡であった。
───そして、2人はすぐに今日の慶太は一筋縄ではいかないことを理解する。
そう、2人は己の肉体で死の予感を感じたのだった。目の前の慶太は、いつもの破壊衝動とは違う。
───ここで、慶太が自分のことを「生徒会だ」と言っていれば話は変わっていたかもしれない。
だが、慶太は2人の前ではそう名乗らない。だからこそ、話がこんがらがってしまう。
「もう、こっくりさんから奪われた文字は帰ってきていますので。お好きなように」
マスコット大先生は、そう言葉を残して姿を消していった。
「慶太、落ちつい───てっ!」
真胡の腹部を襲う、慶太の2発の蹴り。それで、真胡はその場に尻もちをつくようにして倒れてしまう。
また、拓人も支えがいなくなってしまい真胡と共に倒れる。
「慶太、やめて!」
「嫌だね」
”ゴンッ”
「───っが」
真胡の頭を手に持ち、慶太はそれを地面に叩きつける。グラウンドの地面にはヒビが入り、叩きつけられた真胡は失神してしまっていた。
「───クソ、慶太...どうしちまったんだよ...」
拓人は、いつもと違う慶太にそう声をかける。
「どうしたもこうしたもない。俺様は、愛する者を手にするならば何でもするんだぜ」
「───は」
”ガンッ”
それと同時、拓人の顔面に慶太の拳がぶつかり、拓人は意識を落とす。
***
第3ゲーム『パートナーガター』では、臨時教師である廣井大和相手に、大活躍した真胡であったが、今回慶太に一発も攻撃できなかったのは理由がある。
それは、簡単だ。
───慶太は、友達だから。
あまりにも簡単な理由。1+1の答えが2であることよりも簡単な理由だった。
真胡は、敵だと認識した人物であるならば、仲間を傷付けるような人物であれば思う存分ぶん殴る事ができるし、本当の強さも見せつけることができる。
だけど、今回相手だった慶太は友達であった。
そして「破壊衝動」というものがあったから、真胡は躊躇ってしまったのだ。
慶太の持つ「破壊衝動」は危険なものだったけれど、慶太は友達であるから本気で殴れない───だからこそ、真胡はなすすべなく敗北したのだった。
もし慶太がノリノリで「自分は生徒会だ」などと言っていたならば、真胡も慶太に反抗する踏ん切りが付いただろう。
だが、今回の慶太には従来通りの「破壊衝動」も混じっていた。
要するに、生徒会として「誰かを殺す」命令を貰っていた状態と「破壊衝動」が混じって完全に感情で動いていい状態が出来上がっていたのだった。
───と、慶太の「俺様は、愛する者を手にするならば何でもするんだぜ」の意味がわからない人もいるだろう。
だからこそ、ここで説明しておく。これを機に説明しておく。
これは、七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』が始まる前。
「お...お前は!」
慶太の部屋に現れたのは一人の人物───たった一人だけ明かされている生徒会メンバー、園田茉裕であった。
「慶太、好き」
「───ッ!」
「急でお願いだけど、私と付き合ってよ?」
「───状況が飲み込めない...君は今監禁されてるんじゃ...」
「付き合ってよ。話はそれから」
「───わかった、付き合うよ」
「ありがとう、大好き」
そして、茉裕は慶太に抱きつく。
───この時、慶太は茉裕を好きだと思ってしまった。可愛いと思ってしまった。
そして、茉裕の持つ「心酔させやすい体質」に飲み込まれ、茉裕の操り人形とされてしまったのだ。
───要するに、慶太は"自称"生徒会であって、生徒会メンバーではない。