6月6日 その⑩
───こちらは、三次元。
歌穂に背負われ、愛香は現在皇斗もいる救護室に移動して行ったのだった。
そして、数時間前まで───いや、数十分前まで栄が眠っていたベッドの上に愛香を寝かせる。
「少し待ってて、マス美先生を呼んでくる」
「その必要はない」
そう言って、歌穂を止めたのは愛香───ではなく、皇斗だった。
「呼ばずとも、すぐに来る。四次元から余達は監視されているのだから」
「監視だなんて失礼ね」
皇斗の言葉を返すようにして、外から救護室の中に入ってきたのはマス美先生であった。
「そんな失礼なことを言う子には、治療してあげませんよ」
「道具さえくれれば自分で治療くらいできる」
「可愛くない、栄を見習ったらどう?」
「親バカめ」
「親バカで結構親バカ上等」
マス美先生は、皇斗とそんな会話を繰り広げながら愛香の治療を行う準備を行う。
「あちゃー...結構骨がやられちゃってるね...」
「治るのに時間がかかりそうか?」
「えぇ、最低でも全治半年はかかるだろうね...」
「貴様らGMパワーでなんとかならないのか?」
「なんとかなるっちゃなんとかなるけど...なんとかしなけりゃいけないと言われるとなんとかかんとか...」
マス美先生は何やらブツブツ言い始めたので愛香は嫌気が差したような顔をしてその説明を聞き流す。
そんな態度じゃ、いつか刺されるぞなどと、歌穂は思うけれども愛香は後ろ指を指されることなど気にしていないだろうし、何を言っても反論されて終わるから何も言わなかった。
「対価があればいいのか?」
「対価?そんなの無くても、別に治して欲しいというのならば治すけれど...」
「じゃあ、治して───」
「あ、そうだ!じゃあ、栄とチュウしてよ!」
「チュ...はぁ?!」
愛香の口から、驚きの声が出る。そして、みるみる愛香の顔が赤くなっていた。
「んな...な、何故妾が貴様の馬鹿息子とチュ...キスなんかしなければならないんだ!」
恥ずかしがってチュウと言えない愛香を見て、歌穂はニタニタ笑ってしまう。
「何を笑っている歌穂!お前はとっとと四次元に戻れ!」
「残念、マスコット大先生はこっちにいないからもう四次元には戻れませーん」
「クソッ!皆して妾を弄びやがって!」
そんな声をあげる愛香。
「妾とキスさせて、栄と既成事実を作りたいだけだろう?何が望みだ」
「うーん、愛香さんには話してもいいのかなぁ...」
「もしかして、妾の両親が理由か?妾の両親がデスゲームに協力しているのは聞いている!」
「あ、栄は愛香さんにそこまで話したんだ。じゃあ、話ってもいいかなぁ...」
「話せ、隠したり嘘をついたらタダじゃおかないからな」
体の骨が折れていて尚、愛香はこうして元気に押し問答できている。どうしてこんなに元気なのかは歌穂にもマス美先生にもわからない。
「───私は、栄と愛香に結婚して欲しいと思ってるんだ」
「け...結婚?!」
「妾と栄がか?」
マス美先生の発言を聞いた愛香の顔がリンゴのように赤くなってくる。それを隣で聞いていた歌穂も、びっくりしたような表情をしていた。この話を聞いて、眉一つ動かさないのは皇斗であった。皇斗は、マス美先生の発言を受けて口を開く。
「栄は現在智恵と付き合っているのは知っているだろう?」
「えぇ、知ってるわ」
「じゃあ...」
「だから、智恵さんには死んでもらうの。今回の七不思議でね」
「───んな」
マス美先生が───否、池本栄の母である池本望はそう口にする。
「愛香さん、治してあげる。その代わり、栄と許嫁になってね」
マス美先生がそう言うと、愛香の体の傷がまるで魔法のようにして回復する。この現象は、ラストバトルで下敷きになった智恵と同じ回復方法だった。そして───
「断る」
「───ッ!」
愛香は、マス美先生の顎を蹴る。マス美先生の顎が砕ける音がして、マス美先生はその衝撃で後ろに倒れた。
「妾が貴様らデスゲーム運営の言いなりになると思うか?妾の両親がどう関わってくるのか知らんが、貴様らに未来を決められたくない!」
「でも───」
「黙っていろ、ババア。妾は未来を自分の手で掴む」
───そこにあったのは、愛香のプライドだった。
───そこにあったのは、負けず嫌いの負けヒロインのプライドだった。
***
「───よし、もうすぐだ」
俺は、康太達に手伝ってこっくりさんを神社へ連れて行くことに成功していた。
「───よし、ここからはッ!」
「こっちだよ、こっくりさん!」
拓人に呼ばれて、こっくりさんはその方向へ突き進んでいく。
なぜ、拓人が最後の囮に選ばれたのかと言うと、あの5人の中で一番足が速いからであろう。
「よし、これでッ!」
「ちょっと、これで僕たちはコインを貰えるのかピョン?!」
蒼のそんな声が響く。だけど、そんなことを気にせずに拓人は体育館の中まで走っていった。
───そして、拓人と真胡、そしてこっくりさんがその場から姿を消して七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』終了───
───とはならない。
「───なんでだ?」
俺はそう思い、体育館にある鳥居に近付く。そして、俺が見たのは───
「───まさか、もう1体!」
体育館の中にいたのは、2体目のこっくりさんであった。そう、最初から体育館の中にもう一匹潜んでいた。
***
───栄が2体目のこっくりさんに気付いたと同刻。
「皆さん、七不思議其の弐のクリアおめでとうございます!」
マスコット大先生のいるグラウンドにまで瞬間移動のような形で連れ出されたのは、拓人と真胡。
そして、2人と同じチームである奏汰と慶太であった。
───それと同刻、慶太の暴走が開始する。
まだまだ七不思議其の弐は終わらない!
敵は2体目のこっくりさんと山本慶太!





