4月2日 その⑬
俺達は、そのままB棟の階段を降りて、A棟で外履きの靴を履いてからグラウンドに出る。
「ここは、グラウンドですね。まぁ、もう小学生じゃないんだから遊具は無いです」
マスコット先生は、そのまま校門の方に移動する。
「───って、B棟に行ったなら先に体育館に行けばよかった。まぁ、最後に行くことにでもしますか」
先生は、グラウンドのA棟はB棟を挟んで反対側の位置にある体育館を指差す。
「それでは、次は室内温水プールに行きます。温水プールはスペースの事情から学校の外になってしまいましたが、ご容赦ください。皆さんも、グラウンドは広いほうがいいでしょう?」
そんなことを言いながら、俺達は校門の外に出てチームG・H・Iの寮がある方向に移動する。
校門を出て、左にUターンだ。そこには、大きな室内プールが見えていた。
「───そうだ、皆さんには説明していませんでしたね」
先生は、遠くを指差す。指差した方向には、何も見えない。
「何があるんですか?」
「何もありませんよ?」
「え、じゃあなんで指を指してるんですか?」
「何もないから、指を指しているんです」
「え、は?」
先頭で先生の行動に驚いているのは渡邊裕翔であった。
「皆さん、疑問に思わなかったんですか?ここは、どこかって」
───そうだ。言われるまで、疑問に思わなかった。
周りの風景には、全くを持って目が行っていなかったのだ。まるで、それが当たり前かのように。
トイレで用を済ましたら、水で流すくらいに。雨が降ったら、傘を差すくらいに。
辺りには、広がっていた。大空が。
ただ、大空だけが広がっていた。
「どういうこと?」
「浮いて...いるのか?」
俺達は、下を覗き見る。
───だが、下は見えない。
いや、そもそも下なんてものは無いのかもしれない。
「ここは...どこなんですか、先生?」
「I don't know」
マスコット先生は、ニヤけながらそう答える。
「いいですか、私は先生ですが全智全能な訳では無いのです。全てを知っている訳ではない。だから、ここがどこかなんてわからないのです。いや、わかっているが体がわかろうとしていないだけかもしれませんが...なんてね」
マスコット先生は、そう言って右手の人差し指をピンと自らの顔の前に立てる。
「まぁ、知りたければこの一年間生き延びてください。いつか、知る機会はあるでしょう。この場所のことも、私達のことも」
先生は、そう言うとズケズケと室内の温水プールまで歩いて行った。
───そう、俺たちはまだ何も知らないのだ。
GMの正体から、望むことまで。マスコット先生がなんで何人もいたかもわからない。
それに、デスゲームを開催する理由だって曖昧だ。もし、デスゲームを行って「真の天才」が現れなければどうするのか。
俺は、自らの掌を握りしめ力を込める。この幻想的な風景を見て決めた。
───皆と一緒に生き延びる、と。
誰も死なずにデスゲームを乗り越える。そう、決めた。
もしかしたら、それは難しいかもしれない。もう、金髪の少女は死んでしまったというのも事実だし、生徒会がいる時点で全員が生き延びる事は不可能だと悟っている。
故、全員は生き延びれることができないかもしれないが、チームCの3人───安倍健吾・西森純介・山田稜とチームFの4人───村田智恵・奥田美緒・菊池梨央・斉藤紬の4人とは必ず一緒に卒業すると決めた。
───全員は守れないかもしれない。ならば、守れる範囲の仲間を確実に守る。
俺は、そう心に決めた。
「落ちたら、ひとたまりもないですから落ちないでくださいね!」
先生は、皆に大声でそう伝える。もう、先生は温室プールの扉の前まで移動してた。
「そうだ...」
俺は、大空と、地面のある境目───落ちるか落ちないかのギリギリにまで立ってみる。
「───落ちたら...どこに行くんだろう?」
さらさら落ちる気は無いが、そう呟いてみた。そう、呟いてみたくなった。
と、そんなことをしていると隣に智恵がやってくる。
「キレイだねぇ」
「あ、あぁ。そうだな」
「ここからなら、夜でも太陽が見えるのかな?」
「そうだな、見えるかもしれないな」
俺は、この大空と地面の境を、世界の境と呼ぶことにする。
「なぁ、智恵」
「何?」
「辛くなったら、一緒にこの景色を見てくれるか?」
智恵は、一瞬キョトンとした顔になる。そして───
「もちろん!」
そう言って、微笑んだ。
「おーい、栄!智恵!行こうぜ!」
稜の声が聞こえる。どうやら、俺達は2人だけで残されてしまったようだった。
「あ、今行く!」
智恵が、稜にそう返事をすると俺の手を握る。
「ほら行こ、栄!」
「おう!」
智恵に手を引かれながらも、俺は室内の温水プールのところまで走っていった。
───こんな、小さな幸せが俺は嬉しかった。
───だが、こんな幸せは長く続かないこともわかっていた。
───では、デスゲームに強制的に参加させられてるのにも関わらず俺は絶望せずに生きていられるのだろうか。
───答えのない疑問に、残酷な真実。「考えても無駄だ」と、諦めるにはまだ早かった。
感動回の終わりみたいな、感じにしたかった。なお、内容は全く感動できるものじゃない。
───学校ツアー、全く進んでねぇ!





