6月5日 その⑩
俺が、首に包丁を刺された皇斗から聴いた情報は以下の2つ。
1.このゲームに登場するこっくりさんという怪物は、四次元にいる。
2.山本慶太は生徒会。
「───本当に...慶太は生徒会なのか?」
ゲームに参加していない俺にとって、こっくりさんの情報はさほど重要ではなかったから、慶太の方へ反応してしまう。
「あぁ、慶太が嬉々として話していた。そして、余の首に包丁を突き刺してきた」
「痛くないのか?」
「最強は包丁で刺されても全然平気───な訳ないだろう。正直に言えば、痛いし安静にしておかないと多量出血で意識を失うかもしれない」
やはり、最強だろうと人なのだ。刃物に刺されれば、死亡する可能性はグッと上がるようだった。
でもまぁ、ここで「死ぬ」ではなく「意識を失う」という発言をするのが、最強だろう。
───いや、これは第3ゲームで廣井大和に腹を刺されて尚、生存している俺への当てつけかもしれない。
「───まぁ、皇斗には休んでいてくれ」
「あぁ、そうするつもりだ。首が刺されてもまだ、戦線離脱しない選択は、余にはできないからな」
皇斗は、これ以上戦えないようだった。でもまぁ、首が刺されている皇斗に、これ以上の戦闘をお願いするのは可哀想だし、俺も何も言えないだろう。
「───それで、生徒会ってわかったんだろ?慶太はどうしたんだ?」
「余が、何もなしに首の後ろを刺されるお間抜けだと思っているのか?慶太にはこっくりさんをぶつけている。ボコボコにされているだろうよ」
「こっくりさんを?意図的にか?」
「こっくりさんとの戦闘中に後ろから攻撃されたんだ。攻撃の標的を余から慶太にズラしただけだ」
「そうなのか。でも、生徒会は狙われない───みたいな設定があったらどうするんだ?」
「その場合、余を追いかけてきてるだろうよ。それがされていない以上、安心だ」
「そっか。慶太が狙われていない場合、攻撃の対象がズラされてないからまだ皇斗が狙われたままなのか」
俺と皇斗は、そんな会話をする。
「とりあえず、慶太が生徒会であることを共有して欲しい。自分から口にして、首を刺された以上信じる以外の何も無いからな」
「あぁ、了解してくれ。ゲームに参加してない人達には俺達が報告しておく」
「いや、栄には別件で動いて欲しい」
「別件?」
「あぁ、退院してすぐに悪いんだが───いや、まだ6月5日だから退院すらしてないのか?」
「退院してないけど、明日抜糸するだけだ。動こうと思えば動ける」
「では、愛香もいるし2人に頼む」
「妾が貴様のお願いを承諾すると思っているのか?」
「聴くだけ聴け。お前達には四次元に行ってこっくりさんの討伐を頼みたい」
「こっくりさんの...討伐?」
「あぁ、こっくりさんは先程も言った通り四次元にいる。だから、四次元でこっくりさんと直接対決をしてもらいたい」
「こっくりさんと...直接対決?できるのかよ、そんなこと!だって、強いんだろ?」
「強い。だけど、栄ならば任せられる。栄だから、任せられる」
「それは...どうして?」
「これまでの栄の活躍を見て───だ。廣井兄弟に勝利し、靫蔓に負けを認めさせて、マスコット先生を退けた。毎回、大怪我を負っているがしっかり勝っているだろう?だからこそだ、栄に任せたい。栄にしか任せられない」
「───わかった。任せてくれ」
俺は、皇斗と壁越しに約束する。
どちらにせよ、こっくりさんを倒さないと智恵を学校の中から解放することはできなさそうだし、こっくりさんを倒すしかないだろう。
「智恵を解放するためにも、俺はこっくりさんと戦う」
「何を言っているんだ?」
俺が、そう意気込むと皇斗がそんなことを言う。
「何を言ってるって...智恵は壁のせいで外に出られなくなってるだろ?だから...」
「マスコット大先生に頼めば出してもらえるだろうよ。ゲーム不参加なのだから」
「あ、え、そうなの?」
俺は、見えない壁を挟んだ先にいる智恵に問う。
「そうなの...かな?私もよくわからない」
智恵もそう答える。でもまぁ、智恵が中にいる状況だということは、まだマスコット大先生から何も伝えられていないということだろう。わからなくて当然だ。
「じゃあ、早くマスコット大先生に伝えないと。四次元に行くにもマスコット大先生の話は必要だろうし...」
「そうだな。余もこれ以上は戦えない。どうにか、外に出して治療してもらわねば」
皇斗がそう口にする。
「───って、七不思議としてはそれはいいのか?誰もコインが手に入らないだろ?」
「そうだな...その時はマスコット大先生の判断を任せよう。報酬が無くなることは無いだろうけれど...」
「っていうか、そもそもゲームの崩壊赦されないんじゃ栄達は四次元に連れて行ってもらえないんじゃないかしら?」
「それもそうだな。マスコット大先生が四次元に連れて行ってくれたのなら、特例が用意されている───と考えたほうがいいだろうよ」
皇斗が、俺の疑問にそう答えを出してくれた。
───と、その時。
話し合いをしている俺達のところにやって来るのは、2人の青年───稜と健吾であった。
「あれ?皆!集まってどうしたんだ?」
「栄がいる」
「あ、本当だ。あれ、智恵もいるじゃん?ゲームに不参加と違くて?」
そんな、不思議な喋り方をしている健吾。もしかしたら、言葉を奪われているのかもしれない。
「───と、そうだ。体育館は安全だ。こっくりさんは入ってこれない」
稜は、皇斗達にそう教えてあげる。
「そうか、体育館は安心なのか。校舎にいるこっくりさんは侵入不可能だもんな」
皇斗も、納得したような素振りを見せる。皇斗が納得するということは、その理論は間違っていないのだろう。
「───じゃあ、とりあえず余達は体育館に移動する。栄達は戦闘の準備を任せるぞ。慶太の問題よりも先に、こっくりさんの問題だ。四次元に行くのは、日にちが変わる時───要するに、6月6日0時でいいだろう。それまで準備をしておいてくれ」
「あぁ、わかった」
───こうして、勝負の時が決まった。
俺と純介・愛香の3人は救護室に戻っていったのだった。