6月5日 その⑨
皇斗の首に、深く深く刺さるのは、山本慶太の手の中にあった包丁だった。
きっと、家庭科室に行って用意してきたのだろう。その包丁を、ブスリと皇斗の首に刺したのだった。
「───あ、が...」
流石の皇斗でも、こっくりさんの相手をしながら慶太による唐突な攻撃は避けられなかったようだ。
───が、流石の皇斗だ。こっくりさんの相手をしながらでも、慶太による唐突な攻撃を予測することはできていた。
だからこそ、首を刺されて尚、一発で致命傷には至らなかったし、こっくりさんの攻撃を受け止めきれなくなることもなかった。
「なんで倒れないの?」
慶太は、そんな驚きの声を出す。首に包丁を突き刺したのだから、瞬殺とまでは行かなくても意識を落とす───もしくは、こっくりさんの攻撃を受け止めきれずにそのまま階段に叩きつけられるということはされるだろう。
それだと言うのに、失神も階段に叩きつけられることもされない皇斗を前にして驚きが勝ってしまったのだ。
「まさか慶太、お前が生徒会だったとはな。思ってもいなかったよ」
そう言って、皇斗はバレーボールのトスのようにしてこっくりさんの攻撃を受け流す。そして───
皇斗のすぐ後ろに立っていた慶太に首に包丁が刺さった状態で回し蹴りを食らわせる。それを食らった慶太は、その強力な蹴りに耐えられず後ろの壁に激突してしまった。
「今すぐにでもコテンパンにしてやりたいが、生憎こっくりさんがいるからな。見逃さざるをえない」
そう言って、皇斗は、壁に激突して2階と3階を繋ぐ階段の踊り場で倒れている慶太を踏んづけて、そのまま下の階層へ向かっていった。
───そして、一人残された慶太。
慶太は、その場にいたこっくりさんに攻撃されて───。
***
俺は、純介・愛香の2人と救護室を抜け出して学校の校門までやって来ていた。幸い、俺の怪我はほとんど治っていて明日抜糸の予定だったから、ほとんど動きに問題はない。
「デスゲームの会場...行ってみるか」
「栄、本当に行くの?」
「あぁ、だって智恵が中にいるんだぞ?助けにいかなくてどうする」
心配そうな声を出す純介に、俺は正論で返す。智恵を助けに行かずしてどうするのだ。
「全く、栄は本当に智恵バカなんだな。妾は見ていて恥ずかしいぞ」
「当たり前だろ、カップルなんだから。俺は智恵が大好きだ」
「そうか...」
「別に、2人は協力したくなければしなければいい。俺は一人でも行く」
「そうだぞ、純介。チキンのお前には似合わない場所だ。チームFの寮にでも行って紬に膝枕をされながら頭でも撫でてもらえ」
「んなッ!どうして...いや、なんで紬が出てくるのさ!」
純介は、あくまで「紬のことをなんとも思っていない」という意思を貫くようだった。でも、「どうしてそれを知っているの?」と口にしようとしていたし、もう遅い。
「と、とちあえず僕も付いていくよ!」
「無論、妾も同行する。このバカは智恵を前にすると周りが見えなくなるからな」
愛香が誰に対しても失礼なのはいつも通りなので、俺は愛香の発言には寛容になるつもりだった。まぁ、智恵への悪口は許さないけれど。
───っていうか、俺は智恵を前にすると周りが見えなくなるのは、案外間違いでも無さそうだった。
と、俺のことはおいておいて。
俺達3人は、校舎の方へ近付いた。そこにいたのは───
「智恵!」
校舎の中にいたのは、智恵だった。智恵は、鈴華と美玲の2人と一緒にいた。
「栄、栄!」
智恵は、俺のことを見ると安堵したような顔をする。俺は、数日ぶりの智恵を目の前にして、抱きしめようと体が動いていた。が───
”ガンッ”
「───ッ!」
言葉で言い表せないような痛みが、俺の額を襲う。何かにぶつかった。そう、何かにぶつかったのだ。
「痛い...」
「栄、大丈夫?!」
俺は、智恵を抱きしめることができずに何らかの壁───そう、透明な壁に阻まれてしまった。
「何が...何が...」
「がっはっはっはっは!栄、おま...お前ェ!はっはっはっはっは」
そうやって、俺が透明な壁に激突したのをさも面白いものかのように笑うのは鈴華であった。俺にとっては面白くなかったが、傍から見ればとても滑稽だったのだろう。
「なんで透明な壁があるんだよ!」
「えっと、それはね...」
すると、智恵が七不思議其の弐について解説してくれた。
どうやら、学校の外に出れないように透明な壁が用意されているようだった。説明を聴くと、どこからも侵入できないらしい。非常に面倒だった。
「目の前にいるのに...どうして智恵とハグができないんだ」
「栄、元気出して」
そう言って、透明な壁に手を当てる智恵。俺の頭を撫でるようにして、励まそうとしてくれているらしい。その行動に、俺は再度惚れてしまう。ていうか、普通に可愛い。
───と、その時だった。
「なんだ...ここに何人も集まって」
そこに登場したのは第5回デスゲーム参加者の中で、最強の人物───皇斗であった。
「───んなッ!」
「ふん、最強のお前が首の後ろに包丁を刺すとはな、どんなジョークだ?」
俺は、その皇斗を見て気付く。皇斗の後ろの首に、包丁が突き刺さっていたのだ。
「栄、余のことはいい。七不思議に参加していないだろ?」
「妾のことを無視するな」
「人の怪我を笑うとは、どんなジョークだ?寒いぞ」
「───んだとッ!」
”ガンッ”
愛香が、透明を何度も叩くけれども音がするだけで壊れそうな様子はなかった。
「───と、栄。聞いてくれ。大事な話が2つほどある」
「なんだ?」
「1つ。このゲームに登場するこっくりさんは四次元にいる。2つ、山本慶太は自分が生徒会だと、口にした」
───俺は、皇斗に生徒会の情報を渡されるのだった。
【絶対に今じゃない補足】
栄・稜・健吾・純介・美緒・梨央・智恵・紬の8人グループのことを「Blueruler」と俺は呼んでいます。
短縮系として「ruler」が使われることもあります。