6月5日 その⑦
───第5回デスゲーム参加者の怪物・皇斗vs見ることのできない透明の怪物・こっくりさんの戦闘が激化し始めたのとほとんど同刻。
すっかり辺りが暗くなった頃に、現在救護室にいる俺のところに訪れてきたのは、第5回デスゲーム参加者の傑物・愛香と、第5回デスゲーム参加者の豪物・純介であった。
「ピンピンしているか?栄」
「あぁ、俺はもう元気だ。それにしても2人してどうしたんだ?」
「栄に話があるから救護室に行こうとしたら、救護室の前で愛香がソワソワしてるから一緒に入ってきただ───って痛ッ!」
「貴様は黙っておれ。妾の話などしなくていい」
状況を説明してくれた純介の頭を打つ愛香。俺は、眉をひそめて愛香を注意する。
「愛香、純介を打つな。友達は大切にしないと駄目だぞ」
「別に妾はこんな小僧となど友達になった覚えはない」
「てかまずそもそも人を殴っちゃいけない」
「ふん、デスゲームに参加している癖に何を言っている」
そう言って、愛香は俺の隣のベッドに腰を掛けた。
「───んで、純介。話ってのは?」
「えっと...七不思議が始まったよ」
「七不思議───か」
前回の七不思議其の壱で、俺は死にかけた覚えがあった。というか、前回の七不思議では皇斗がコンマ一秒でも遅かったならば、俺と時尚の2人はあの時死亡していた。
「それで、稜と健吾の2人が参加してるんだ」
「そっか。純介は?」
「僕は運動が苦手だからさ。前回の階段を登るやつでも相当キツかった───ていうか、翌日かなり筋肉痛になったから今回は不参加にしたんだ。」
「そうだったのか。他に誰が参加してるかとかわかるのか?」
「えっと...そうだな...」
───と、俺は純介から七不思議其の弐の概要を少しだけ知った。
純介は、遠くから学校の校舎の中へ入っていく七不思議の参加者を見たらしい。七不思議のゲームの内容こそ知れなかったけれど、学校を舞台に行われる───ということは、理解することができた。
「───じゃあ今、保健室にいる智恵はどこにいるんだ?」
「───あ」
「妾は見ておらんぞ。誰かが移送されてくるところは見ていない」
「僕も智恵がいる場所に関しては知らない...」
「───え、じゃあ、もしかして...」
───智恵は、七不思議が始まった今でも、保健室の中に待機しているというのだろうか。
***
栄が抱いた憂慮。その憂慮は杞憂であった───
───訳がない。
「どうして...智恵がここに?」
智恵のいる保健室に入ってきたのは、一度上階に行ったけれどもすることもなく1階までやって来ていた鈴華と美玲の2人だった。
「あ、鈴華───さんに、美玲」
「おい、オレのことは別に怖がんなくてもいいぜ。オレはお前に危害を加えるつもりはないけれどよ」
「ワタシだけ呼び捨てなのも、小物感がでて嫌だわ」
智恵のいる保管室に入ってきたのは、第5回デスゲーム参加者の小物・美玲と───
「ワタシは小物じゃないわ」
智恵のいる保管室に入ってきたのは、第5回デスゲーム参加者の偽物・美玲と───
「ワタシは偽物でもないわ!ワタシはワタシよ!」
智恵のいる保管室に入ってきたのは、第5回デスゲーム参加者の難物・美玲と───
「誰が難物よ!そろそろ、物がゲシュタルト崩壊してきたわよ!」
「何を一人で騒いでいるの?」
「なんでもないわ」
まるで、小説の話の冒頭のような書き出しで、いじられる美玲のことを純粋な疑問の目で見る智恵。美玲は、キリッと表情を変えて暴言へのツッコミを無かったことにした。
「───んで、智恵。お前は七不思議なんて参加してないよな?なのに、何故ここにいるんだ?」
「七不思議?なにそれ」
「まず、そこからか...」
「えっと、5月の最初くらいに七不思議其の壱ってのがあったでしょ?今回は、それの続きなの」
「あー...そう言えばそんなのもあったね。結構前の話だから忘れちゃった。半年くらい前だっけ?」
「いいや、違う。1ヶ月前だ。智恵もそんなボケをするとはな。驚きだぜ」
「別にボケた訳じゃないけど...」
「んで今、その七不思議其の弐が行われているの。智恵は参加してるの?」
「いや、参加してるつもりはないよ。私は、マス美先生に言われて保健室にいるだけなんだけれど」
「───え、じゃあ...ゲームに参加しているけれど保健室に───ゲームのステージである学校にいるってこと?」
「そう...なのかな?」
どうやら、智恵が置かれている状況は智恵自身もわかっていないようだった。
「まぁどちらにせよ智恵がここにいるのはマズいんじゃないか?早急に保健室に出ていったほうがいい」
「そうだよね。七不思議が行われてるってことは、邪魔しないほうがいいだろうし」
「てか、保健室にいたって事は怪我してるんだろ?大丈夫なのか?」
「うん、もうほとんど日常生活を行えるような状況だよ。マス美先生曰く、明日の昼にでも退院できそう───だって」
「そうか、ならば外に出てもいいかもしれないな。智恵は特例で外に出してもらえるだろうよ」
「ワタシ達は七不思議をしているから着いていけないけど、栄は参加してないはずだから栄のところに行きな」
「うん、そうする」
───そう言って、鈴華と美玲の2人は智恵を七不思議の会場である学校から逃げることを推奨する。が───。
「───あれ、出られない...」
七不思議に参加していない智恵も校舎の外に出られないようだった。