4月2日 その⑫
階段を登りB棟の3階に向かう途中。俺と智恵は、純介に話しかけた。
「なぁ、純介。さっき貰った夜の騎士を見せてくれよ!」
「あ、うん。わかった」
純介は俺と智恵に紙切れを見せる。本当に、ただの紙だった。表面には、トランプのJQKのような感じで騎士が描かれているだけ。裏面は空白だ。
「本当に、こんなので効果あるのかなぁ...」
智恵が、そんなことを言いつつ階段を登る。
「わからないけど、帰ったら誰かの名前を書いてみるよ。優勝したのは僕なのに、僕の名前を書けないことだけが残念極まりないけどね...」
純介がそんな事を言って、少し肩をすくめた。
「ここがB棟の3階です!」
B棟の3階には、教室があった。見た感じ、実験室や美術室など特定の科目をする教室では無いみたいだ。
「ここは、空き部屋となっております。あれ、わざわざ説明する価値なし?」
マスコット先生が、そんなことを言う。
「空き教室ですので、まぁ好きなように利用してください。あ、A棟2階───私達の教室の隣も基本は自由に使っていいですので」
「空きがあるなら作らなくてもいいのに...」
健吾のそんな言葉。
「あ、俺を仲間外れにして皆ここで固まってたの?」
その時、稜が俺達に声をかけてくれる。先程までは、純介と共に見ていたらしいが純介が俺と健吾の方に来てしまったために来たようだ。
「あはは、ごめんごめん」
「全くもう、仲間はずれなんて酷いなぁ...」
「それでは、4階に行きましょう!最後の教室です!」
俺達が、そんな楽しげな会話をしていると空き教室だった3階の説明はすぐに終えてゾロゾロと4階に登る。
「はい、4階にございますのは生徒会室です!」
「───ッ!」
俺は、思わず驚いてしまう。そして、わざわざB棟の1階から紹介した理由を理解した。
───生徒会室は、裏切り者のアジトだからだ。
「本日の17時に、生徒会になった人は来てくださいね!本人は自覚していると思いますので」
先生が、そんな説明をする。
「なぁ、栄。今日の17時にこの部屋に来てみない?」
「───裏切り者がわかるってこと?」
「あぁ、そういう事。俺らの目で確認したらよくない?」
「2人共、それはしないほうがいいよ」
俺は、稜と生徒会室まで来る約束をしていると純介に止められる。
「え、どうして?」
「どうしてって、2人が疑われる可能性が高くなるからだよ」
「───あ、そうか」
俺達が、生徒会室前まで移動すると「生徒会」と疑われることになる。
いくら、写真を撮ったからって「偽造」と疑われる可能性は大いにあるのだ。
「それに、生徒会が自分が怪しまれないように写真をあえて流出したみたいになるでしょ?」
「そう...だな」
学校生活は、命がかかっているのだ。無闇に疑われてしまうと後々困ってしまう。
「うーん、じゃあスマホでも置いておくか?」
「それが、無難じゃないかなぁ...」
「では、皆さん!生徒会室の中に入りますよ!」
俺達は、そう言われて生徒会室の中に入る。生徒会室は、俺らのいる教室とほとんど作りは変わらなかった。
「えっと、カメラを起動して...」
稜はそう言うと、机の中に自らのスマホを隠した。これで、姿はカメラに撮れなくても、音声だけは撮れるだろう。
「生徒会に入らない皆さんには、特にこの部屋と関わりは無いかもしれませんが、一応場所だけ確認しておきます」
そんな事を、マスコット先生は言う。
「ここは、名前の通り生徒会の仕事を行います。一般生徒も立ち入りは許可しているので、たまに覗きに来るのもいいでしょう」
そんなことを言っている。
「それでは、次はグラウンドの方に行きましょう」
俺達はそう言って、生徒会室の外に出る。すると───
”ジリリリリリ”
「うおっ!」
突如として、ベルが鳴り響く。
「なんの音だ?」
”ジリリリリリ”
鳴り止まないでいる、非常にうるさいベルの音。
「これは、消火器?」
近くにあったのは、赤い火災報知器だった。どの階層にも変わらずにあったので特に目に入っていなかったがなっていたのはこれだ。
「火なんてついてないぞ?」
俺は、轟音の中辺りを見回す。周りから、火事特有の煙の匂いも火の気もしない。
───つまりは、誰かがイタズラで押したのだ。
「誰が?こんな時に?」
いち早く思いついたのは、スマホが隠されたことを防止しスマホを没収するために”生徒会の誰か”が押したと言う案。
───そして、2個目に思いついたのはスマホを隠すための時間稼ぎをするために押したと言う案。
「うーん、イタズラですか...」
マスコット先生は、困り顔をしている。被り物で表情は本来変わらないはずなのに。
「ちょっと、退いてください!」
先生が、生徒たちを押しのけて「火災報知器」の前にまでやってくる。
そして、「強く押す」と書かれている場所の上にある「火災報知器」という文字のところが開いた。
”タァァン”
そんな音が響いた後、警報も止まった。
「さて、警報器も止まったわけですし、今度こそグラウンドに行きましょう」
俺達は、グラウンドに行くために階段を降りていく。





