6月5日 その②
「今回の七不思議『トイレのこっくりさん』の説明に入っていく───その前に」
マスコット大先生はそう言うと、1枚の紙を取り出す。A4くらいの大きさであり、横が長くなっている。
その絵の中心より少し上の所には神社にある鳥居のマークが書かれていて、その左右に「はい」と「いいえ」の文字がある。そして、その下に「あ」から「ん」までの五十音と、「1」から「0」までの算用数字が並べてあった。
「皆さんはこっくりさんというものをご存知でしょうか?天才である皆さんであれば、こっくりさんくらい名前を聴いたことはあるでしょう。こっくりさん、こっくりさん南の窓からお入りください───なんてセリフは有名じゃないでしょうか?」
「先生、それこっくりさんじゃなくてキューピットさんだと思いまーす」
「あぁ、そうでした。黒◯女さんが通る!!なんて懐かしいですね」
「懐かしいってか...先生の方が知ってるのが珍しいでしょう」
美玲とマスコット大先生で、そんな会話が繰り広げられる。
「閑話休題。正確にはこっくりさん、こっくりさん、おいでください───ですね。聴いた質問に答えてくれるこっくりさんですけれども、その起源はテーブルターニングと言われているものだったり───と、ここからは完全に余談になってしまうでしょう。一先ず、こっくりさんは視認できずとも質問に答えてくれる霊であると考えられております。そして、トイレの花子さん───というのも知っていますでしょうか?こちらも学校の怪談としてはお馴染みかもしれませんね。女子トイレの手前から3番目の扉を3回叩いて花子さんいらっしゃいますか───なんて聴くと、返事が聞こえて扉を開けるとトイレに引きずり込まれる───なんて話です」
トイレの花子さんも、コックリさんも有名な話だろう。
人の心がないマスコット大先生はコックリさんをして「私に乗り移ってください」みたいなことを言っていそうだった。
「まぁ、引きずり込まれて帰ってこないのならば、そんな具体的な方法が残るわけがないので完全な都市伝説でデマなんですけれどね」
マスコット大先生は根も葉もない噂の夢までをも無くしてしまった。やはり、人の心がない。
「───と、概要はここまででよろしいでしょうかね。それで、本題『トイレのこっくりさん』について話を戻しましょう。えっとですね...こっくりさんが暴走しました」
「「「───はい?」」」
マスコット大先生の言葉に、皆は理解できない。コックリさんが理解できないとはどういうことなのだろうか。
「こっくりさんが暴走して、学校中を歩き回っています。ちなみに、こっくりさんは透明でどこにいるかは目視ではわかりません」
「どういうことだ?こっくりさんは実現するのか?」
マスコット大先生の発言の意味がわからないので、康太は質問をする。
「静かに聴いていてくださいよ。今は七不思議其の弐の説明をしているんですから」
「はい、すみません...」
「透明なこっくりさんが暴走しています。そいつは困った───ということで、皆さんには暴走したこっくりさんを鎮めてもらいたいんです。まぁ、鎮めるって言ってもどうやればいいかわかりませんよね。なので、それは教えてあげます。こっくりさんは、体育館の前に設置した鳥居を潜らせれば力を鎮めて霊界だか天界だかに帰っていきます。まぁ、要するにどんな手段を使ってでもこっくりさんの力を鎮めさせてください」
皆は、マスコット大先生の言葉で「こっくりさんが暴走した」というのが、今回のゲームの設定であると理解する。こっくりさんが暴走したから、それを抑える───それが、今回の七不思議の内容であるようだった。
「見えないこっくりさんをどうやって認識するか。それは、これです」
マスコット大先生が取り出したのは、10円玉であった。何の変哲もない10円玉だったけれど、2ヶ月ぶりの硬貨は皆に、どこか懐かしさを与えてくれた。
「この10円玉は、こっくりさんの方へ引き寄せられていきます。こっくりさんに接触すると激しく震えますので、それで場所を認知してください」
こっくりさんは透明だけど、10円玉があれば場所がわかるようだった。
「まぁ、この10円玉は皆さんに配布する───ってわけではないんですけれどね」
そう言って、マスコット大先生は自分のポケットにそれをしまった。
「では、残るルールを開示します。詳しくはそれを読んでください」
七不思議其の弐『トイレのこっくりさん』のルール
1.こっくりさんが鳥居をくぐった瞬間にゲーム終了。こっくりさんに鳥居をくぐらせた人物が優勝となる。
2.こっくりさんは透明でいかなる方法を使用しても視認できない。
3.こっくりさんの場所は「10円硬貨」でわかる。「10円硬貨」は、こっくりさんに引きつけられるように動いて、こっくりさんに触れると振動する。
4.こっくりさんの攻撃を食らうと「あ」から「ん」の五十音か「1」から「0」の算用数字のどれかを失う。どの文字を失ったかは、本能で理解できる。
5.全てを文字を失った人物は、こっくりさんに意識を乗っ取られて死亡する。
「おいおい、こっくりさん攻撃してくるのかよ...」
「そりゃあもちろん、暴走していますからね。ちなみに、安全地帯はありません。こっくりさんの攻撃で学校が壊れる───なんてことはありませんが、怪我には気をつけて。では、ゲームを開始します」
マスコット大先生が、そう宣言する。
───その刹那、学校全体が揺れる。どうやら、暴走したこっくりさんが現れたようだった。