閑話 三橋明里の過去
監禁事件の中で、茉裕に殺害された三橋明里の過去です。
「出して...ねぇ、ここから出して!」
三橋明里───私は、私を幽閉しようとしている少女───茉裕に飛びついた。
「嫌、出さない。アナタは今日からここで過ごすの」
「嫌...嫌、嫌!私を縛り付けないで!せめて、窓のある部屋にして!」
私のトラウマが掘り起こされる。自分の顔から血の気が引いてくことを感じる。
「うるっさいなぁ...」
そう言って、茉裕は私を突き飛ばしてはその閉塞的な空間から出ていってしまう。扉が閉められて、私は監禁される。
「───嫌...やめて...やめて...」
私の声は、外には届かない。自分の意志で出れない部屋が、私にとって、一番怖いものだった。
───そして、私はその閉鎖的空間から逃げることもできずに、後に茉裕に殺されて、いいように利用されるのであった。
それが、惨めな私の惨めな人生で、卑屈な私の卑屈な人生であった。
───これは、私の過去回想だ。
***
私は、閉所恐怖症だった。
同じクラスメートである森愛香が暗所恐怖症であるのと同じように、私は閉所恐怖症だった。
その名の通り、私は閉じ込められるのが嫌いだったのだ。怖かったのだ。
───その恐怖の濫觴は、私と親との関係にあった。
これは、私が幼い頃の話だった。
私の親は、世間一般で言う「毒親」と言われるような親らしかった。
「何度言ったらわかるの?とっとと飯食えって言ったよね?」
幼い私を、そうやって厳しく怒るのは、親としての義務だ。理解できる。きっと、他の家庭でもこのような怒りというのは日常茶飯事だっただろう。
だけど、私の親は罰を与えた。
そう、言えの押し入れに閉じ込めたのだった。私を押入れの中に入れては、外につっかえ棒を付けて外に出れないようにする。
そして、私を長い時間押入れの中に閉じ込めるのだった。
だから、私は暗くて狭い押し入れが怖かった。
あの、呼吸が重くなるようなホコリ臭い押し入れを思い出すだけで、今でも涙目になってしまう。
そんな過去があったからこそ、私は閉所が嫌いだった。
これが、私の人生だった。
卑屈なのも、人を上から目線で評価しようとするのも、私の過去には一切関係のない、私の素の正確だった。
───私だって、私を育てた毒親と同じで性格が悪かったのだろう。
蛙の子は蛙だったのだ。親がクズなら子もクズ。
もう、これ以上自分の恥を曝け出したくない。話すのはこれくらいにしておく。
───私は私が嫌いだった。
───皆が妬ましかったのだろう。
───本当に、救いのない人物である。
───本当に。