閑話 橋本遥の過去
2話連続の閑話ですみません。
明日は本編を始める予定です。
橋本遥───私は極度の心配性だった。
即断即決することができず、危機に直面すると蛇に睨まれた蛙のように動かなくなってしまうようなそんな人物だった。
その因果か、私は誰に死ぬところを見られることもも殺されることもなくただ無様に死体だけを利用されてしまったのだった。
自分の禁止行為『学校に遅刻したら死亡』を犯してしまった死亡した───だなんて、誰にも口が割けても言いたくなかったのに晒されてしまうのだった。
晒す───それは、私の人生においてのトラウマだった。
心配性の私を更に心配性にして、人間不信に陥れたのが、その「晒す」という行為だったのだ。
これは、臆病者の少し悲しい過去である。
***
今から2年前。長野のとある高校で事件は発端は起こった。
「───ごめんね、遥。もう健人君はワタシのものだから」
「───え?」
橋本遥───私の、親友であったはずの人物───烏間瑠璃は私にそう伝える。
健人君というのは、私の恋人であった人物である。
たった2人だけの放課後の教室には、私の素っ頓狂の疑問符だけが宙を泳いでいた。
「え、え...どういうこと?」
「まぁ、つまり?健人君は遥じゃなくてワタシにもうメロメロだから、もう遥とは付き合わないんだって」
「取った...ってこと?」
「えぇ?取ったって...人聞き悪いなぁ。私は何もしてないよ?ただ、遥に魅力が無かっただけ」
そう言うと、机に座っていた瑠璃は立ち上がって、ヒラヒラと手を取り振りながら教室から出ていった。
私は、瑠璃を問い正すことも怒ることもできなかった。ただ、その場で茫然自失するしか無かったのだ。
「どう...して...」
はらり、私の目から涙が溢れる。
私は、親友だと思っていた人物に恋人を取られたのだった。これまで、親友だと思っていた人物に裏切られたのだった。
私と瑠璃の間に、友情なんてものはなかったのだ。
───もしかしたら、健人君は瑠璃に近付くために私と付き合っていたのかもしれない。
私は、絶望の末にそんな答えに行き着いた。そうなのであれば、全て納得が行くのだった。
これまで愛だと思っていたものが全て策謀だとするのであれば、全て納得が行くのだった。
私は、健人に話を聞く選択をした。だけど、それが間違いだった。
サッカー部に所属している健人に声をかけると、健人は私を見て少し気まずそうにしながらも、まるで平静を装うような感じで声を発した。
「どうしたの?遥」
「話があるの」
「何の話?」
「健人、瑠璃と付き合い始めたってホント?」
「───え?あ、え?えっと...何の噂かな?」
「瑠璃から聴いたの!健人は瑠璃にメロメロだから私とは付き合えないって!」
「後ででいいか?部活中で...」
「嫌!別れるから今すぐに話すよ!どうせ、瑠璃がいるんだから!別れようよ!」
私は、健人にそう強い言葉をかける。次第に、私の声も大きくなる。
周りでは、他のサッカー部の男子が、私と健人の口喧嘩を興味本位で覗いていた。そして、こちらを見ては指を指して笑っていた。私は、そんな野次馬なんか気にせずに言葉を荒げて感情を健人にぶつける。すると───
「あァもう、あーだのこーだのうるっさいなぁ!」
健人が逆ギレする。理不尽にキレられたのだった。
「俺は瑠璃と付き合うことをサッカー部の奴らには黙ってようと思ってたのにどうしてそんな馬鹿みたいに騒ぐかなぁ?自分勝手なんだよ、お前は!」
「───それは...」
「世界の中心はお前じゃねぇんだよ!自分を特別だなんて思うな!別れるのには賛同してやるからとっとと帰れ!」
そう汚い言葉を浴びせられて、私は帰らされた。
このままでも、随分と胸糞悪い話だろう。だけど、この話には続きがある。
───そう、健人が私の人には見せられないような写真を流出させたのだ。
この写真は、私が自ら撮ったのではない。健人が、撮らせてくれと懇願してきたから人に渡さないことを約束に撮らされたものだった。
───なのに、別れた今健人は約束を破って私の写真を流出させたのだ。
もう、ここからは想像の通りだろう。私は、心配性から人間不信へと代わり、それをこじらせて人間嫌いにまで繰り上がっていた。
まあ、これだけ酷いことをされて尚、人間が好きでいられる人なんていないだろう。
私は、人間嫌いだったけれど人間に復讐しよう───などとは考えなかった。
だって悪いのは健人だったのだから。瑠璃だったのだから。
私は、デスゲーム会場に連れて行かれて、できるだけ仲間を作らないようにしたし人と関わらないようにした。
もう、痛い目を見たくないから。もう、苦しい思いをしたくないから。
───だというのに、私は無様に死んだのだった。
誰とも関わろうとしなかったから、誰にも知らないところで殺されたのだった。
───もしかしたら、ラストバトルの最中に死体を吊るし上げられたことは、よかったことなのかもしれない。
そうでもされないと、皆私のことを思い出すこともなく、死んだことすら気付かれないまま終わっていたような気がして───。