閑話 池本朗の苦悩
Genius Genesis1周年を記念する閑話です。
本編は大波乱ですが、そんな雰囲気ぶっ壊し。
謎が深まる一方の、池本朗の苦悩をお楽しみください。
───友情。
自分の息子を犠牲にしてしまうような人徳のない私にとって、そんなものは人間を脆弱にする物と同義だった。
なのに、それだというのに私は「友情」というものに敗北した。
第5ゲームの延長線上で突発的に行われたラストバトル『ジ・エンド』は、マスコット先生───私が死亡することによって幕を閉じた。
「私」という個体は世界中のどこを探そうが、宇宙中のどこを探そうが、三次元中のどこを探そうが四次元のどこを探そうがたった一人だけれど、「池本朗」という個体は、別の三次元中に星の数ほど存在していた。
だから、私の代わりになる人物なんて星の数ほど───いや、三次元の数ほど存在しているので、デスゲームの進行に影響はなかった。
中には、私の言っている意味がわからない人もいるだろう。だけど、卑怯で卑屈な私に、その全貌を説明する理由はない。だから、私はこの三次元云々の話を放置することにする。
今から話すのは、池本栄の過去だ。
───いや、違う。
正確に言うのであれば、今から述べられるのは、池本栄の父親の苦悩だ。
***
今から約12年前。
いや、今からと言っても皆の暮らしている時間軸ではない。私達がデスゲームを行っている2027年5月31日から約12年前だ。
池本朗───私の息子である池本栄が5歳の時の話である。
私は、一つの苦悩に立たされていた。その内容は、「四次元に行くことになった」というものである。
「四次元に行くことになった」と言われて「はい、そうですか」と飲み込める人なんかいないだろう。
背景を踏まえてもう一度話す。
私───池本朗は科学者をしている。
それは、どの三次元を見て回っても変わらない不変の真理であるようだった。
どの三次元に行っても、池本朗という名を持つ男は科学者をしているようで、決められたかのように息子に「栄」という名前を付けているようだった。
ここで苦悩である「四次元に行くことになった」というものを再度持ち出してくる。
私は別の三次元に生きていた池本朗(現在は四次元に移動済み)から、連絡が来ていたのだ。ドッペルゲンガーなんて都市伝説は全く嘘で、別の三次元───厳密には不正解なのだが、無理矢理別の言葉で表すとするのであれば「パラレルワールド」の自分に出会っても消滅することはなく、連絡を取れたのだった。
そのパラレルワールドにいる自分から声をかけられて、文字通り星の数ほどある「パラレルワールド」に存在している全ての池本朗を招集しているようだった。
私は苦悩した。
いや、私「も」苦悩したと言っていいだろう。デスゲームの運営をするために招集をされているのだ。
もちろん、四次元に行って自分の好き勝手にできる───というものには興味があった。でも、私は自分の愛する息子である栄を一人にするのが嫌だったのである。
妻である池本望も招集されているので、栄を望に任せる───ということもできなかった。
だから、私「も」非常に悩んだ。
───他に誰が悩んだかって?
そんなの、「パラレルワールド」にいる私に決まっている。私が悩むということは、パラレルワールドの自分も悩むということ。
───そして、皆が皆栄を一人にするという無慈悲な選択をしているということ。
私は栄を置いていくことと、パラレルワールドを生きる自分への無慈悲さに苦悩した。私こそは、慈愛を持って栄を愛する───そんな気概だって合った。
だけど、この世を動かしているのは───否、この次元を動かしているのは慈愛ではなく自己愛だった。
結局、私も今では覚えてもいないような舌先三寸の言い訳を次から次へと並べた挙げ句にこうして四次元に行くことを選択していた。私もそうなのであれば、他の「パラレルワールド」に存在している私だって、同じ選択をする───と。
そうして、四次元に行くことを選択した私は、栄にこう別れの言葉をかけた。
「栄、愛してる。またどこかで会おう」
そう言って、私は齢5歳の栄を置いて四次元に移動した。
───こうして、俺はデスゲームの運営のメンバーとなったのだった。
と、ここで話を混乱させたり現在デスゲームに参加している栄のことを混乱させないように言っておく。
現在デスゲームに参加している池本栄は、池本朗の息子であるが、「私」の息子ではない。
私とは別の「パラレルワールド」で生まれた私の息子とは別の栄なのである。だけど、栄は栄。私の───俺の息子だ。
愛していた。愛しているつもりだった。愛そうと思っていた。
───それだというのに、俺は栄を殺そうとした。
自分が怖かった。そして、直感で理解した。俺は自分の息子であろうと、自分が生き残るためになるのであれば殺そうとする残虐で冷酷な心を持つ人物だということを。
だから、俺は栄が生きようが死のうが、自分も死ぬために池本朗の間で───GMの間で取り決められたルールを破った。そう、その世界線で死んだ靫蔓と大和をパラレルワールドから連れてくるという行為を行った。
そして、その後皆が死ぬように完全に栄の友情に敗北して死亡したのだった。
これが人の心を持たない俺の───いや、私の人生であったのである。
***
───友情。
自分の息子を犠牲にしてしまうような人徳のない私にとって、そんなものは人間を脆弱にする物と同義だった。
なのに、それだというのに私の息子は「友情」というものを使って私に勝利した。
だからこそ、私は考え改めることにした。
私は過去に、自分の息子を───池本栄を捨てた。
だから、死んで悔い改めた私は栄を応援することに決めた。栄を応援することに決めた。
───だからどうか、いつか私の心が綺麗になった時は、その友情の輪の中に私を入れてくれないだろうか。
【よくある質問】
Q.パラレルワールドってどういうこと?
A.三次元には数え切れないほどの二次元が存在するように、四次元には数え切れないほどの三次元が存在する。
Q.どのくらい三次元があるの?
A.1つの選択につき、世界がその選択肢の数だけ増えています。
ex)「お菓子食べる?」の質問に「Yes」か「No」のどちらかで答えるとする時、世界は2つに分割する。
Q.どうして池本朗以外の人は四次元にいないの?
A.池本朗が、「池本朗以外の人が四次元に行く世界」を全て削除したから。今生きている世界で四次元に行くことができない理由もこれ。
Q.[コンプライアンス違反]
A.[プライバシー保護]
まだまだ質問、お待ちしております。