5月30日 その③
───俺が綿野沙紀に奇襲を受けて、救護室に運ばれた数時間程経った後。
俺の元に集結しているのは、様々な級友だった。
背中の傷を縫い合わせる手術を終えた後に俺に、様々な心情を持って押しかけてきたのであろう。
同じ寮である稜や健吾・純介は、俺が刺されたことを知って駆けつけていたし、康太や皇斗は俺に危害を加えた人物のことを歌穂から聞いて、俺にその詳細を聞きに来たようだった。愛香は、俺のパーテーションの取り除かれた右側のベッドに腰掛けて冷やかすように俺のことを見ていたし、鈴華は俺の目の前にあるベッドに寝っ転がっていた。
「───栄、怪我をしたのにも拘らずこれだけの大人数で押し寄せてしまったことについてはすまない」
最初にそう謝罪をしたのは、康太であった。
「大丈夫だったか?」
「急に刺されてビックリしたんだぜ?」
稜や健吾は、俺にそんな言葉をかける。
「殺されそうになったけど、歌穂に助けられた。歌穂に何か聞いたのか?」
「あぁ、細かい部分は聴けていないけれど、沙紀が栄を襲いに来た───って話は聞いた」
「まさか、妾と同じ部屋の歌穂が生徒会メンバーだったとはな。青天の霹靂だ」
俺がした質問に答える康太と、その会話に言葉を挟む愛香。随分と、俺達らしい空間だった。
「俺もちゃんと情報は話すから、先に質問をいいか?」
「あぁ、大丈夫だ。別に、栄は今死ぬかわからぬ状況じゃないから猶予はいくらでもある。誰が攻めてこようと、皇斗や愛香・鈴華がいるから戦力としても十分だ」
「妾は栄を冷やかしに来たのであって、貴様らの護衛としてここにいるわけではない。妾の目の前から消え去れ」
康太の言葉に苛立ちを見せる愛香。康太は、その愛香の言葉を無視して話を続ける。
「それで、質問ってのは?答えられるようなものならば、答えるよ」
「智恵は?智恵はどうなってる?」
「智恵は大丈夫だ。オレ達の代わりに今は美緒や梨央・紬が行ってくれてる」
「───本当か?」
「あぁ、家に叩きつけられたことによって脳梗塞を起こしたようだから一概に大丈夫───って言えるかはわからないけど、死ぬような状態じゃない」
「よかった...いや、よくないけれど。怪我の功名だ」
「不幸中の幸いだろう?怪我の功名じゃ、結果的に良いことになってしまっている」
「あ、そっか」
「余は言葉の使い間違いを指摘するといった役不足な仕事のために呼ばれてきた訳では無い。生徒会のことを聞かせろ」
「わかった。今日の出来事を話すよ」
───と、言うことで俺の身に起こった不運を、その場にいる7人に話した。
「そんな戦闘があったのか。気付かなかった...」
「まぁ、朝だしね。それこそ、歌穂が駆けつけてくれたのが奇跡だったよ」
歌穂は「悲鳴」が好きなようだったから、俺の悲鳴を聞いて駆けつけたのかもしれない。だから、叫ぶことは正解だったのだ。
まぁ、叫び声に対する歌穂の異常な嗅覚に称賛するべきだろう。まぁ、嗅覚ではなく聴覚なのだけれど。
「栄は、沙紀が生徒会だと思っているのか?」
「───え?」
皇斗からかけられる唐突な疑問。
「沙紀は生徒会確定だろ?だって、栄を刺したんだぜ?」
皇斗の言葉の真意を理解できていないのか、健吾はそう皇斗に意見する。皇斗は、俺に問いかけているようです健吾の言葉をスルーして、その冷たい双眸で俺のことをジッと見ていた。
「───俺は、最初は沙紀のことを生徒会だとは思ってなかった。昨日、俺は沙紀が生徒会だって推理して発表しただろう?だけど、その時は沙紀が生徒会だとは思っていなかった。俺は、茉裕が怪しい───そう睨んでいた」
「やはりな」
皇斗はそう口にした。
「───どういうことだ?わざわざ嘘をついたのか?そこに本人がいないのに?」
康太は、俺にそう質問してくる。確かに、疑問に持つだろう。
「作戦があったんだ。茉裕が生徒会だって証明するためにあえて沙紀が生徒会だって弁論をした」
「だが、沙紀が出てきた為に失敗に陥った───ということか」
「あぁ、そうだ」
「余がツラツラと話してもいいか?」
「俺は構わないよ。皆は?」
俺が皆に聞くと、全員が頷いた。どうやら、皇斗が全てを考察してくれるようだった。
「実は余も茉裕が生徒会なのではないか───と、第3ゲームが終了した時辺りから睨んでいた。余は、茉裕が生徒会だということは間違っていないと思っている。だから、余はこれから茉裕と沙紀の2人が生徒会であることを前提に会話を開始する。生徒会側も、余や栄が茉裕が生徒会───だと考えていることは勘付いていただろう。そして、余や栄は沙紀についてノーマークだった。まぁ、栄は虚言を皆の前で吐いていたがな。それでだ。どうして、沙紀が襲撃に実行させたと思う?誘拐された2人が知っている情報は、余や栄が茉裕を怪しく思っているということだけだ。栄の沙紀を怪しむ弁論は知らないはずなのだ。それならば、わざわざ沙紀が姿を現さずに茉裕が行動を行った方が、怪しまれる人物は少ないはずだ。それなのに、わざわざ沙紀を行動に移させた理由。余は、こう考える。生徒会は、何らかの方法で情報を共有している───と。もちろん、携帯ではないことは確かだ。何故ならば、茉裕のスマホが発見されて手元にないことはもう既に証明されているからだ。もっとも、スマホを2台持っている───という可能性もあるけれどな。以上が俺の意見だ。総括すると、沙紀と茉裕は生徒会メンバーで、何らかの方法で別の生徒会メンバーと連絡を取っているということだ」
500文字を超える考察の末、皇斗はそんな答えを出してきたのだ。
確かに、俺は2人共生徒会と考えることはしていなかった。比較してどっちが怪しい───と行っていたのだ。
「───じゃあ、当分の敵は沙紀と茉裕の2人ってことでいいのか?」
そう口にしたのは、康太であった。
「あぁ、そうだ。それで、この話は誰にも口外は禁止だ。生徒会メンバーには茉裕が生徒会ということが確信まで迫っている───ということがバレるのは避けたいからな。ここで、生徒会側に情報が流通していることがバレたら、余はここにいる全員との敵対を選択する」
皇斗はそう告げたのであった。全員、密告しないことの口約束を行い今日はそれで解散になった。
───登校日である6月1日は、もう目前にまで近付いてきている。
明日は、何かの閑話を投稿します。