5月29日
───翌日。5月29日。
俺は、純介と共に練った作戦を実行に移すことにした。
この作戦、純介が生徒会であったら俺の真意がバレてしまうので元も子もなくなってしまうが、俺は純介を信じることにした。
俺は、昨日と同じようにグラウンドに皆を集めた。
「皆、集まってくれてありがとう。今回、雷人達4人を殺害及び誘拐した犯人がわかった」
「本当か?」
俺の発言により、どよめきが生まれる。
「今回の犯人───それは」
俺の言葉によって沈黙が生まれる。俺は、沈黙を感じたらすぐにこう続けた。
「───綿野沙紀だ」
俺の推理では、茉裕だと言うことになった。だけど、俺はここであえて綿野沙紀の名前を出した。
───俺の作戦はこうだ。
まずは、俺の茉裕が生徒会である───という仮説が正しいことを前提に話をする。
きっと、生徒会側は俺が「茉裕が生徒会だ」と当ててくる推理をする───と踏むだろう。
これまでの俺の行動を自分自身で省みてもその推理を皆の前で発表するのは間違いなかった。
もし、その推理が成り立つ上で生徒会側が行動を行ってくるとするのであれば、疑われている状態から「茉裕が生徒会ではない」という確証は俺達に出してこようとしているのであれば、俺は皆を騙してでも頓珍漢な推理をする。
───この時の、生徒会はどう動くか考えてみる。
俺が推理を披露したことにより、「綿野沙紀が犯人である」ということが全員に行き渡り茉裕は完全に怪しまれない存在となる。また、沙紀に危害が加えられることがあるだろう。
この状況で、人質が全員解放されたとするのであれば、この時点で茉裕が黒だと言うことになる。疑われたならば、そう安安と出てこないからだ。
───まぁ、生徒会もそこまで馬鹿ではないだろう。
だから、誰も出てこない───もしくは、誰か一人だけが解放される可能性もある。
そもそも、茉裕以外の全員が殺されていれば話は変わってくるけれど、生徒会も数人だけ誘拐したというのであれば何か作戦があるのかもしれない。
俺の推理によって、沙紀以外の2人が解放されれば「沙紀は隠れた」と言ったことになる。そして、沙紀と茉裕だけが出てきたときは「茉裕が黒」ということになる。理由としては、自分が疑いから逃れたと認知するからだった。
だけど、問題は沙紀と茉裕が出てこなかった時だった。沙紀が殺され茉裕が隠れている───と考えるのが妥当だけれど、それだと俺の「確信のある疑い」の余地からは抜け出すことができない。完全に茉裕が「黒」だと認定することはできないのだ。
───だから、できれば俺は沙紀と茉裕が一緒に解放されるか、監禁された人物が全員解放されることを望んだ。
「根拠は何だ?」
「それはだな───」
俺は流言飛語で、根拠を騙る。そして、皆の中では「沙紀が生徒会メンバー」であるという考えが根付いたのだった。
***
───更に翌日。5月30日。
「───は」
俺が寮の外に出て、新鮮な空気を吸おうと思ったとき、俺はそれを見つけた。そこにあったのは───
───肉を削ぎ落とされて、バラバラにされた何者かの死体だった。
「───嘘...だろ?」
嫌な考えが頭をよぎる。何が起こっているのか。
「なんで...」
そこに転がっていたのは、1つの生首。明里のものだった。
見事に、沙紀と茉裕の2人だけを残されてしまっている。生徒会メンバーが、行ったのだろう。
雷人は、もう既に死体処理班に回収されてパーツは残っていないのだろうけれど、監禁していたであろう明里は違った。
生かされた後に、今回利用されていたのだった。
「おいおい...嘘だろ...」
俺は、生徒会というものを甘く見ていた。
生徒会メンバーといえども、クラスメイト。どこかに慈悲は残っている───そう思っていたのだ。
だけど、違った。沙紀と茉裕の2人を生かし、今後どう足掻こうとも「沙紀が生徒会である」という俺の嘘を皆の中で確定させたのだった。
ここから、茉裕が生徒会メンバーだと俺が言い張っても誰も信じてはくれないだろう。だって、沙紀が生徒会であると推理をした次の日に明里の死体が送られてきたのだから。
「───いや、まだ訂正は可能だ。生徒会にバレること覚悟でそれを語れば...」
俺は思考を逡巡させる。茉裕の死体が送られていないということは、茉裕が生徒会であると確定した。だけど───
”サク”
「───は?」
その刹那、俺の背中から突き刺さるのは一筋の痛み。俺は、痛みを覚えたために振り返ると───
「───私が生徒会だって、よくわかったね。園田さんってことにしようと思ったのに」
「───んな」
───俺の推理は、間違っていたというのか。茉裕だと思って沙紀にその罪を擦り付けたが、俺のその大本にある沙紀が犯人という推理が間違っていたというのだろうか。
そうでないと、これは話にならない。だって、こうやって目の前にいる沙紀は偽物じゃないのだから。
「ク...ソ...」
俺は、数歩前に出てどうにかナイフを抜こうと試みる。だけど、奥深く刺さっていてもう抜けないようだった。
「ここで殺したら怪しまれるから───君も監禁させてもらうね」
「やめ───」
俺が抵抗しようとした刹那、寮の中からドタドタと音が聞こえてきて、一人の女性が沙紀にタックルする。
そして───
「栄を傷つけないで!」
俺を襲いに来た沙紀に攻撃を仕掛け、俺を守ってくれたのは智恵だった。