First Genesis その⑧
四次元。
栄が入院している間のある日、第5回デスゲームの生徒会メンバーは招集をかけられた。
「私達に何かようかしら?」
「もしかして、マスコット先生に強力しなかったことを怒っているのか?」
そこに集められた生徒会メンバーの内の2人が口を開く。彼ら彼女らの前にいるのは、マスコット大先生だった。
「いえ、別に私はアナタ達を糾弾するつもりはございません。実際、池本栄君の言うように校則がなくなったので問題ないですしね。それに、あそこで名乗りを上げられては今後のことで困ってしまいます」
「それもそうだね。僕達の判断は結果的にはよかったと言うわけだ」
「まぁ、マスコット先生は死んじゃったけどな」
「別に、マスコット先生のことなんて気にしなくていいんですよ。今は私が、その代わりを勤めているんですから」
マスコット大先生は、生徒会メンバーの言葉を否定する。マスコット大先生にとって、マスコット先生はもうどうでもいい存在になってしまったのだろう。
「───それで、マスコット大先生。僕達を呼んだってことは何か本題があるんでしょう?なんですか?」
「そうですね。そろそろ本題を話すことにしましょう。校則が無くても、君たちは動いてくれるでしょう?」
そこにいる生徒会メンバーは、素直に頷いた。
「ふふふ、君たちは本当に生徒会メンバーにピッタリですね」
そう言って、マスコット大先生は被り物の口角をあげる。いつまで経っても、口角が上がる理由はわからない。
「───この休みの期間の間に、誰か一人を殺してください」
マスコット大先生のその言葉を聴き。
全員が全員、笑みを浮かべた。まるで、待ってましたと言わんばかりの笑みがそこには存在していた。
「───珍しいね、誰かを殺せなんて命令は」
「別にそうでもないですよ。ただ、現在第5回生徒会メンバーは気が抜けているので、戒めるだけです」
マスコット大先生は、そう口をする。
「ギャフンと言わせてあげてくださいよ。過去の生徒会メンバーのせいで埋もれてしまった現在の生徒会メンバーだって凄いんだって教えてあげてくださいよ」
マスコット大先生の言葉に、皆が奮い立つ。
───そして、第5回生徒会メンバーである4人は、各自の部屋に帰っていったのだった。
***
場は変わり。
深夜、森愛香は栄が退院した後の病室に入る。この部屋で、現在入院しているのは、まだ目覚めていない第3回生徒会メンバーである柊紫陽花であった。
「───貴様は目覚めないのか?」
愛香は、こうやって目覚めずにずっと保健室のベッドで眠っていたであろう自分の姿を、柊紫陽花に重ねていた。起きる素振りの見せない紫陽花に、少し同情している人物がいたのだ。
愛香は、自分の唇に触れて「栄にキスされた」という事実を思い返しては、舌打ちをした。
「不愉快だな。全く、どうして妾が栄とキスをして目覚めなければならなかったというのだ。迷惑も甚だしい」
そう口にした後、愛香は目を覚まさない紫陽花にこう問いかける。
「貴様の恋い慕う人物はもう死んでしまったようだが...貴様は誰のキスで目覚めるんだ?」
もう、紫陽花の王子様は死亡している。マスコット先生に殺されてしまっている。
「───もう、貴様に生きる理由はあるのか?」
愛香の問いかけ。
紫陽花は、何発もの銃弾に体を蝕まれた今でも、奇跡的に生存している。紫陽花は、生まれながらにしての「豪運体質」だったのだ。自分が望まぬ程の運を背負い、運命を背負っていた。一人では背負いきれないほどの運を持っていたのだった。
じゃんけんで勝ち続けるのは悪いことじゃないがいいことでもない。何が起こっても死ねないということは、決して素晴らしいことじゃない。
「敵ではないし、敵でも無くなったようだが、貴様は妾の好敵手だ。だから、安っぽい同情なんか妾はしない。悔しいなら、意識の深淵から這い出てこい。妾は、いくらでも貴様のことをサンドバッグにしてやる」
愛香は、意識のない紫陽花にそんな言葉をかける。これは、正直になることに自分のプライドが許さない愛香なりの優しさだった。
「次に貴様の言葉と拳を交わせるときを楽しみにしてる。妾の機嫌を損ねたくなければ、早う起きることだな」
愛香が、ライバルと認めた紫陽花。
決して、主人公の花嫁として隣に立つことのできない2人の悲劇の負けヒロインは、言葉では言い表せないような友情で結ばれていたのだった。
愛香は、今この時栄が智恵を抱きしめながらグッスリと眠っていることを知らないように、誰一人として今後巻き起こる、デスゲームの先にあることなんて知らなかった。
ただ、一つだけハッキリと言えることはある。
負けヒロインは恋愛において勝つことなんかできないし、負けヒロインは本当に意味で主人公に愛されるなんてことはありえないのだった。
───愛香の悲劇的な運命は、非情にも非常に残酷だった。
そして、いくら豪運でも、最低限の幸せしか掴むことのできない彼女達に、涙は似合わなかった。
愛香、かわいそー。