First Genesis その⑤
マスコット先生の持つ不思議な力はいくら考察を深めても俺達の常識の外にあるので全くわからなかった。
時間を戻す云々だったり、三次元の改変云々予想できるけれど、それを証明する術は無い。
だから俺は原因究明を諦めて、残された休暇をゆっくりと過ごすことにした。
そうは言っても、俺が退院したのはマスコット先生とのラストバトルが行われた日から6日程がたった20日のことだった。
ちなみに、誠は俺の3日前に。鈴華は昨日退院していた。
鈴華は、あれだけ怪我をしていたのに俺より先に治してしまうとは驚きである。
というか、どういう体の仕組みなのだろうか。開いた穴がすぐに塞がる?
なんだか、鬼のような生存能力だなぁ、などと思いつつ俺は家に帰った。
すると───
「「「栄、おかえりなさい!」」」
そんな言葉と同時に、クラッカーが鳴る。
玄関でお出迎えをしてくれていたのは、智恵を始めとするチームFの女子4人と、俺と同じチームCである稜達3人であった。
俺は、唐突なクラッカーにびっくりして動けなくなってしまう。
「びっっくりしたぁ...まさか、退院祝いがあるだなんて思ってないからいいサプライズだったよ」
俺は、素直に驚きを口にした。
「んじゃ、リビングに行くぞぉ!」
健吾の声を先頭に、俺は智恵に手を引かれてリビングに向かう。そこに用意されていたのは「栄 退院おめでとう」という天幕と、1つのホールケーキだった。ケーキの上には、赤くて大きなイチゴが乗っており、形も整っていた。
「ケーキなんて用意してくれたの?」
「うん!私達で作ったんだ!」
「智恵達が作ってくれたのか、ありがとう」
俺は、智恵の頭を撫でる。すると、智恵は嬉しそうに笑った。これだけキレイなケーキを作れるとは、女子の女子力の高さに驚いてしまった。
「───じゃあ、これ以上することもないし、ケーキをもう食べようぜ?」
「あぁ、そうだね」
俺達は、一つの机を8つの椅子で囲んでケーキを食べることにした。俺の左に隣には智恵が。右隣には稜がいた。そして、ケーキは8等分にされて、俺達に分配された。
「「「いただきます」」」
お皿に乗ったケーキを、俺は口に運ぶ。生クリームは甘く、スポンジはフワフワで非常に美味しかった。
「ん、美味しい」
「そうだね」
「───ラストバトルとかがあって色々と聴けてなかったけれど、健吾と美緒の2人はどうなの?」
「どうって聞かれると答え方に困るんだが...」
「別に、問題なくやっていけてるわよ」
「あぁ、そうだな。美緒にはお世話になってる」
「いつも甘えてくるもんね」
「うるせぇ」
どうやら、第5ゲーム本戦の際に行われた告白で付き合い始めた健吾と美緒は上手くやっていけてるようだった。
「なんだか、カップルが増えてくると僕達も早く作らなきゃって気持ちになるよね」
「そうだね。俺も栄や健吾みたいにデスゲームのクライマックスでズバッと告白してみてぇなぁ」
稜は、ケーキを食べつつそう口にした。
これまでの稜の活躍を見れば、色々と告白できそうなところはあっただろうけれどそれらを全て逃してしまっている。それこそ、第3ゲームの時にでもしておけばよかっただろうに。
「僕は...ゲームみたいな波乱じゃなくてしっかり静かなところでしたいかなぁ...」
純介もそう口にした。
「お、じゅんじゅんに好きな人いるの?誰々?」
純介の言葉を嗅ぎつけて、好きな人の詮索を使用とする紬。純介は「話さないよ」と、頑なに誰かを口にしようとはしなかった。
───と、俺は和気あいあいと平和を楽しんで、ケーキを食べ終えたのであった。
「「「ごちそうさまでした」」」
「美味しかったな」
「うん、そうだね」
「美味しかったし、また今度作ろっか」
「うお、楽しみ」
そんな会話をして、俺の退院パーティーは終了する。
「───そうだ。智恵、同居の件はどうする?」
パーティーが終わり、俺と智恵の2人は俺の部屋に移動していた。俺と智恵は、ベッドに腰掛けて同居の話をすることにした。
「私は栄と一緒にいたい。でも、栄が嫌ならこれまで通りでいいよ」
「じゃあ、同居しよう。色々と大変かもしれないけど...智恵はいいんだね?」
「うん、私はどんな障害でも乗り越えるよ」
智恵はそう口にして、頬を赤らめる。もちろん、部屋に別途にベッドがあるわけ無いのだから、俺と智恵は必然的に同じベッドの上で眠ることになる。
だけど、智恵の過去を聞いた夜、俺は智恵と一緒に寝たのだから、別に問題ないだろう。智恵のトラウマを刺激しないように気をつけながら、眠ればいい。
「じゃあ、皆に報告しないとね」
「そうだね。美緒や梨央・紬も心配するだろうしな」
───と、言うことで俺達はチームCとチームFの計6人に同じ部屋で暮らすことを話した。
全員、快諾してくれた。中にはニヤニヤと笑みを浮かべる人たちもいた。その笑みが表すのはなんだろうか。
まぁ、いい。
そんなこんなで、チームCの寮にある俺の部屋で、智恵と一緒に暮らすことが決定したのだ。