First Genesis その④
───ここからは、ラストバトルを終えた俺達の後日談となる。
蒼と智恵の2人は、マス美先生の診断を終えた後に、すぐに退院となった。智恵は落下してきた体育館の屋根に潰されてしまったが、マスコット先生の───いや、今はマスコット大先生のだろうか。まあ、どちらでもいいしどちらかはわからないのでGMの不思議な力だとしよう。
智恵は、GMの不思議な力で瓦礫でひしゃげた時の怪我が治ったのだった。今の俺では原因解明なんかできないので、これ以上の考察はほとんど無駄だろう。
───と、そんなこんなで智恵と蒼は退院となり、この病室に残されたのは俺と誠・鈴華に柊紫陽花の4人だった。猫又一心不乱も怪我をしていたようだけど、あれは入院とかではなく目に関するものだから病室が違うのかもしれない。
俺は主に背中の傷を、誠は全身の打撲を、鈴華は棒切れに裂かれた全身を、紫陽花は銃弾に穿たれたその体躯を治療してもらっていた。
最初の1日ほどは意識があるのは俺だけだったが、次の日には誠と鈴華は目を覚ましていた。
誠はわかるが、鈴華が目を覚ました理由に関してはわからない。全身をやられているのに、ピンピンしているのだ。ゴキブリ並の生存能力があるのかもしれない。
そして、俺は入院している中で様々な人物から過去の生徒会メンバーの話を聞いた。
あ、俺達が泊まっている病室は校舎・寮に近いところに新たに増設されたので寮から徒歩1分ほどで来れるようだった。
だから、過去の生徒会メンバーと戦闘した時の話を聞いたのだった。
継続して戦い続けていたのに怪我が無い皇斗は大神天上天下のことを「余を超える強敵。手加減されていた」と説明し、俺と同じく入院していた鈴華は鼬ヶ丘百鬼夜行のことを「これまでに見たことがない強敵だった。今回は負けたが次は勝つ」と意気込み、退院した蒼は猫又一心不乱のことを「30代の猫のフリをしたおばさんだったピョン」と揶揄し、唯一言葉で戦いを行い勝利した純介は深海ケ原牡丹のことを「不思議な人だった。強いけど弱かったよ」と語った。
全く掴みどころ無いような存在だったけれど、今回はどうにか難を乗り越えたようだった。
唯、人間甘言唯々諾々と激しい戦闘を繰り広げた信夫は、それ以外の話は楽しくしてくれるのに、人間甘言唯々諾々の話になると、急にテンションが下がって何を聞いても「それは...そうやな」みたいな感じではぐらかされてしまう。
何があったのかは、俺にはわからなかった。
まぁ、今回のラストバトルで色々と謎は残った。一つ一つ、解していかなければならないだろうけれど、今はしっかりと療養することが大切だろう。
───と、戦いが終わって数日が経った時、病室にやって来たのは一人の女傑であった。
「栄、マスコット共のことについて、話がある」
智恵が退院した為に、今は空となったベッドにドスリと傲岸不遜に座るのは、女傑───森愛香であった。
「愛香、元気になったのか?」
「何を...お前が元気にさせたのだろう?」
「おいおい何だ?栄、恋人がいるのに痴話喧嘩か?」
「あ?貴様、妾と栄の会話に口を出してくるな!」
鈴華と愛香が喧嘩しそうな雰囲気。これまで交わらなかった女子最強候補の2人が、今直接対決しそうになっていた。俺は、この喧嘩を止めるしかない。
「ストップ!愛香は挑発に乗らないし、鈴華は挑発をするな。俺と愛香は真面目な話をするんだよ」
「へいへい」
「───んで、愛香。話ってのは?マスコット先生───いや、マスコット大先生がどうかしたの?」
「妾が靫蔓と一緒に唯のマスコット先生を倒そうと別の世界に行った時のことだ。妾と靫蔓は、マスコット先生を瞬殺したんだ」
「───そうなの?」
「あぁ。だけど、マスコット先生は増えた。なにもないところからあのふざけた被り物を付けて現れては、大群で妾と靫蔓を襲ってきたのだ」
「増えたって...影分身みたいな?」
「影分身───とは少し違うだろうな。影分身ではなく、影実身といったところだろうか。一体一体マスコットがいる───まぁ、中身が全員池本朗であるから、一体一体が全て池本朗なんだ。分身ではなく、本物の肉体なんだ」
「───ってことは、つまり?」
「そのつまりだ」
俺と愛香が辿り着いた結論。きっと、この部屋にいる全員が気付いているだろう。
───池本朗は何人もいる。
「俺の父さんは、何人もいるのか?」
「妾が見たものが事実だとするのであればそうだ。全員クローンだとは思えないほどに”人間”であった」
愛香の言葉を信じない訳がない。愛香は、真面目なところで冗談を言うような性格ではないのだ。
「俺の父さんが何人もいるのであれば、死んでも死んでもマスコット先生が湧いて出てくるのは納得できる。でも、根本的にあり得なくないか?」
「そうだな。だけど、靫蔓等加古の生徒会メンバーの言い分を信じるとするのであれば、妾がマスコット先生と戦ったのは四次元だ」
「四次元か...ポケットみたいな?」
「違うな。靫蔓の言葉を借りると{自由に移動できるものに縦横高さの他に、時間という概念も追加された場所}らしい」
「───時間を自由に移動できる、か...」
───何がなんだかよくわからないけれど、その四次元にマスコット先生の持つ不思議な力に解決策があるような気がした。