First Genesis その③
───マスコット先生とのラストバトルが終わり、俺達に一時の安寧が約束された今。
激動の一瞬に手に入れた情報、起こったことを少しばかりまとめようと思う。
箇条書きにすると以下の通りだった。
・橋本遥は死亡した。
・マスコット先生は死亡し、マスコット大先生がやってきた。
・GMは、死者を蘇生する方法を所持している(本人はそうではないと言っているが)
・デスゲームからは抜け出せない。
・デスゲームを安心安全に行うために、5月31日まで禁止行為もなくなり休み。
───ということだろう。
俺達のクラスである『3-Α』で遥の死体を見てから、これだけ多くの情報が手に入っていた。
途中、靫蔓の復活等々もあり、場も俺も混乱していたのだけれど、デスゲームに常識なんか通用すると思っていちゃいけないだろう。
とりあえず、俺達は禁止行為もなく5月31日まで過ごせることに歓喜したほうがいいだろう。デスゲームから抜け出すことはできないけれど、2週間ほど必ず安心できる時間があるのは素晴らしいことだった。
───と、俺は体育館の天井に潰されたはずなのに、同じくGMの不思議な力で元気になった智恵の方に驚きが隠せない。
「智恵の方は大丈夫なのか?」
俺は、ベッドの上で藻掻きながら隣の智恵にそう質問する。
「私は大丈夫。押し潰されて痛かったけど...なんだかもう平気なの」
智恵は、体がひしゃげていたから急に治って俺自身びっくりしていたのだ。
「───そうだ。ラストバトルが始まる前にした約束、どうしよっか」
智恵が、頬を少し赤くしてそう口にした。俺は智恵と「ラストバトルで勝って学校を出たら同居して結婚する」という約束をしていたのだ。
ラストバトルに勝ちはしたけれど、学校から解放されることはなかったので、少し微妙な部分である。
「まだ俺は17だから結婚はできないとして、同居はできそうじゃないか?」
「本当?」
「だって、あくまで寮に自分の部屋があるだけで俺の部屋にずっと滞在しちゃいけない訳じゃない。まぁ、もちろん自由に出入りはできないけどさ」
「それは...そうだね。栄がいないと部屋の出入りもままならなくなっちゃう」
「すごい不便ではあるだろうけれど、それでもいいっていうのなら同居はできると思うよ」
俺だって、智恵とできれば長い時間一緒にいたいと思っている。不便ではあるが、同居という形でもいいだろう。
まぁ、することはないと思うけれど喧嘩した際もお互いの寮に部屋はあるから追い出すことも逃げ出すこともできる。
「───って、同居の話の前に怪我を治さないとな」
俺は、ラストバトルで背中などに怪我ができてしまっている。自分でその怪我を見たわけじゃないけれど、これだけの痛みがある怪我がキレイに治るとは思っていない。
背中の傷は剣士の恥というが、俺は拳士ではない。背中の傷は英雄の証だ。
まぁ、自分で英雄と言ってしまうのもバカバカしいけれどね。
「栄きゅん、ここは病室だピョン。静かにして欲しいピョン...」
「げ、嫌な声」
「嫌な声ってなんだピョン?僕の天使の歌声のような可愛い声が嫌ってどういう事ピョン?」
悲しいことに、この病室は俺と智恵の2人きりではないようだった。声の主である蒼は、智恵のいる方向とは反対側のパーテーションの方だった。
「智恵、動けそうか?」
「うん、大丈夫だよ」
「なら、俺の代わりに誰がいるか見てきてくれない?」
「うん、わかった」
俺は、体が痛くて動けないので智恵に誰がいるか見に行ってもらうことを頼んだ。
「えっと...宇佐見君と...」
「蒼きゅんって呼んで欲しいピョン」
「智恵、気にしなくていいぞ」
「誠君は...失神してる。後は鈴華ちゃんも───ッ!」
「どうした?」
智恵の小さな悲鳴が聞こえてきてから、返答が無くなる。ダッと、今にも転びそうな走り方で戻ってきた智恵は、俺の手を握ってこう伝えた。
「───いる...いるの!第3回生徒会メンバーの柊紫陽花が!」
智恵の少し恐怖の混じった声。智恵は第4ゲームで誘拐された時に、柊紫陽花と面識があるようだった。
「柊紫陽花って...本当か?」
「栄も知ってるの?」
「あぁ...知ってる。柊紫陽花は死んだはずじゃ...」
マスコット先生に、銃を発砲されて柊紫陽花は死んだはずだった。いや、まだ死んだのではなくギリギリ生きているのかもしれない。
銃弾を打ち込まれて尚、脈を残して生きているのかもしれない。柊紫陽花は、マスコット先生に反逆をした人物だ。だから、俺達に敵対することは少ないだろうけれどマスコット大先生達に生かさせて貰っていることに驚きだったのだ。
「とりあえず、智恵。大丈夫。柊紫陽花は敵じゃない。第3回生徒会メンバーだけど敵じゃないから安心してくれ」
俺は、そう言って智恵をなだめる。
「柊紫陽花と鈴華はどうだったんだ?意識はあったか?」
「ううん、なかった」
「そうか、ありがとう。智恵、俺の代わりに見に行ってくれてありがとう」
俺は、俺の手を握る智恵にそう感謝を伝えた。
そして、その後マス美先生がやって来て俺達一人一人に治療を施していったのだった。