4月2日 その⑨
「では、全員の演奏が終わりましたし次の美術室に行くことにしましょうか!」
マスコット先生の指示があり、俺達は教室を出る。
「純介、さっきの演奏凄かったな!」
「あ、あ、ありがとう...」
廊下で、純介の近くまで近付き声をかけた。
「じゅんじゅんすごかった!」
じゅんじゅんと純介のことを呼ぶのは、紬だった。
「さっきの演奏、すごい上手かったよ!」
「あ...ありがとう...」
紬に手を握られて、少し緊張している純介。そんな中、俺たちは美術室の中に入った。
「ここでは、絵を描いたり焼き物を作ったり。美術に関することならばできます。彫刻もここですね」
教室の天井には、天使の絵が飾られていた。
「サイゼリ◯かよ...」
そんなコメントを残しつつ、俺は教室を見回す。
「───ッ!」
教室の壁に飾ってあったのはレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたモナ・リザやヨハネス・フェルメールおが描いた真珠の耳飾りの少女。ミケランジェロが創ったダビデ像などがある。
「レプリカ?」
「いえ、レプリカではございません!全てが本物!本物でございます!」
「な、本物ォ?」
口から漏れ出てしまう驚き。ルーブル美術館やマウリッツハイス美術館・アカデミア美術館から奪ってきたのか。
「あ、皆さん今、こう思いましたね?{それは嘘}だとか{奪ってきた}とか」
「───」
心の声が読まれているのかと思ったが、本物だと言われて嘘だと思うか、驚かないはずがないので予想は簡単だろう。
「盗んでませんし、大丈夫ですよ。公正───かは、わかりませんがしっかり違法ではございませんので」
マスコット先生は、真面目な顔───と言っても、被り物をしているのでいつもと変わらないのだが。
真面目な顔で、マスコット先生は「盗んでいない」と弁明した。
「───まぁ、それでは次の教室に行きますよ!」
先生は、手を叩いて教室の外に出る。美術室の壁の絵は、結局本物かはわからなかった。
まぁ、最近のレプリカは精密だから精密機械を使わなければレプリカかどうかも判別できないんだが。
「では、B棟の1階に行きますよ!」
俺らは、今4階にいる。A棟からB棟へは各階から行くことが可能だ。なのに、何故B棟4階からではなく、B棟1階から行くのだろうか。
───そんなことを思いつつ、俺らはA棟の階段を降りて、1階にまで到着する。
「では、こちらに」
俺達は、上空から見ると正方形となるデッドスペースを通ってB棟に移動した。
「ここが、B棟です。下駄箱はありませんが、出入り口はB棟にもありますので」
そして、俺達は一つの部屋に入った。
「ちょっと、狭いので奥につめてくださいね!」
俺らは、ズケズケと部屋に入っていく。見ればわかった。ここは、保健室だ。
「はい、ここは保健室となっております。即死以外の傷は、ここにくれば大抵治せますので」
「即死以外って...」
精密機器が小さな保健室に詰まっていた。通りで狭いわけだ。
楽器ばかりの音楽室よりも、ものの密度が高いような気がする。
「まぁ、怪我をしたらここに来てくださいね。禁止行為での死は免れることができませんので、注意してくださいね」
「すげぇな、学校の保健室じゃありえないぞ...」
健吾がそんなことを言っている。
「前に見た実験室も普通の高校のレベルじゃないだろ」
「それはそうだけど...レントゲンも撮れるし、乳がん検診もできるぞ?」
「健吾の言い分は正しかったようだ」
「てか、この学校。全てが規格外だろ。なんで、デスゲームなんてしちゃうんだよ...」
「安倍健吾君、その疑問については前に答えましたよ。真の天才を作るため、と何度も何度も」
「そう...ですけど...」
「将来世界中に名を馳せる天才が現れる高校の設備を整えないでどうするんですか?真の天才が階段で躓いて怪我なんてしたら危ないでしょう!」
「擦り傷は駄目なのに、死ぬのはいいのか?」
「死んでしまった人は、真の天才ではなかったという事ですね」
「───ッ!それじゃ、昨日死んじまった金髪の少女は真の天才じゃないって言いたいのか?」
「そもそも、彼女に真の天才になる資格はないですよ。そもそも、天才でもございません」
「それは、死人をバカにし過ぎじゃないか?」
「いえ、安倍健吾君。あなたは全てを間違えておりますよ。まず、バカになんてしていません。私は事実を述べているだけです」
「そうかよ...じゃあ、もう話にならねぇ!」
「健吾、そんなに怒るな...」
「じゃあ、昨日死んじゃったあの子はどうなるんだよ!チュートリアルみたいな感じで殺されて、バカにされて!」
「そう言われても...」
俺は、言い返すことができなかった。健吾の言い分は正しい。
昨日死んでしまった名前も知らない金髪の少女が報われないのは事実だ。
それに、マスコット先生が酷いことを言ってるってこともわかっている。
「健吾...君。まぁまぁ、落ち着いて。デスゲームの運営が、死者をバカにすることなんて当たり前だよ。だから、生きて生きて生き延びて先生をギャフンと言わせようよ」
そう、健吾に言ったのは純介だった。
「そうか...そうだな...」
純介の言葉によって、健吾は冷静さを取り戻した。
「では、次の部屋に行きますか」
先生は、健吾が冷静になったのを見て、保健室を出ていった。
───マスコット先生の、「絶対に健吾は生き延びれない」という嘲るような感情が俺には見えた。
優しさは人を殺す





