First Genesis その①
「やっと...やっとだ...」
勝利。俺は、稜と協力することによってマスコット先生にボールを当てることに成功した。
俺は、ボールに当てられて試合が終わったと同時に脱力してその場にうつ伏せに倒れたマスコット先生のことを無視して、落下してきた体育館の天井に潰されてしまった智恵の救出を試みる。
「智恵、智恵!」
1分は、智恵を瓦礫の下に放置してしまっただろうか。まだ、クラッシュ症候群は引き起こさないだろうから、俺は急いで智恵の救出を決行する。
「───皆、手伝ってくれ!」智恵が!」
最終決戦を傍観で貫いていた皆に、そう声をかける。俺の声を聞いて、勝利の余韻も浸ることもせずに智恵の救出するために動いてくれたのは、稜に健吾・純介だったり梨央や美緒・紬だった。
「行くよ、いっせぇの!」
稜と健吾・純介・美緒の4人が掛け声に合わせて体育館の天井を持ち上げた。
「───ッ!」
そこで見たのは、体が潰れていたうつ伏せに倒れていた智恵だった。瓦礫の外へ伸ばされた右手が、マスコット先生の足を掴んで離していない。最後に、智恵が掴んでくれていたのだろう。
「───嘘だろ、智恵!智恵!」
俺は、智恵に声をかける。体を揺すっても、返事は返ってこない。
「どうしよう...どうしよう、どうしよう...」
俺の動揺。
「一先ず、智恵をそこから引きずり出してくれ!」
「───わ、わかった!」
俺は、瓦礫を抑えている健吾の声を聴いて、俺と紬の2人は智恵を引きずり出した。梨央には、その場で倒れているマスコット先生をどかしてもらった。
「クッソ...智恵!智恵!」
俺は、智恵のことを呼びかける。智恵のことを仰向けに変えて、心音が聞こえるか確認する。
───トクン。
───トクン。
血濡れた智恵の体操服に手を当てて、弱々しいが心音がすることが確認する。智恵の意識は無いけれど、まだ生きていることが明らかになった。
「───まだ、生きてる!」
「わ、私マス美先生呼んでくる!」
そう言って、誰かが体育館から出ていく。皆が動いてくれるみたいだった。
「智恵、待ってろよ。お前だけは絶対殺させない!」
俺はそう言って、智恵のことを回復体位にした。呼吸があるなら、人工呼吸は必要ない。
だから、マス美先生の到着を待って───
そう思った刹那、俺達がいる学校に閃光が走る。視界が白く染まり、辺りが何も見えなくなる。俺は、その異常事態に智恵だけを守るようにして智恵の体の上に手をおいていた。
そして、光が収まると───。
「───第5回デスゲーム参加者の皆さん、ラストバトルお疲れ様でした」
俺達の視界は、一点───ステージの上に顕現した黒いローブに身を包んだマスコット先生と同じ被り物をした人物。
「───きゃあああ!」
そして、梨央の叫び声が響いた。引きずって移動させていた、マスコット先生の方を見ると───。
そこには、脳天を穿たれて死亡しているマスコット先生の姿があった。
「───んなッ、なにが!」
「───さか...え?」
弱々しい声で、俺の名前を呼ぶ智恵。俺は、智恵の肩を抱く。みると、智恵の怪我は完治とは言わないまでも、ある程度は治っていた。
「智恵、智恵!」
俺は、智恵のことをガバリと抱きしめる。
「よかった...よかった...」
出てくるのは安堵の言葉。智恵が急に復活した理由も、マスコット先生が急死した理由も俺にはわからない。
非現実的で、屁理屈と理不尽が溢れていそうな中、俺達にこの状況を説明してくれそうな人物は、ステージの上でフヨフヨと空中を揺蕩いながらこちらを見ている───いや、マスコット先生と同じ被り物をしているから厳密にこちらを見ているかどうかは断定できないが、光とともに現れたその人物の言葉に耳を傾けるしか無いだろう。
「───皆さん、静かになったようですのでこれまでの話とこれからの話をしようと思います」
マスコット先生と全く同じ声で、そう口にした。俺達は、その異質な感覚によって沈黙を貫くことにした。
きっと、この話は聞く必要がある。
「まず、これまで紆余曲折がありましたがあなた達は確かにラストバトル『ジ・エンド』でマスコット先生に勝利しました」
そう、俺達はマスコット先生にボールを当てることによって勝利した。
「よって、池本栄君が出した条件である『これまで行った及びここにて行われている他、これから行う予定のデスゲームの被害者全員を救え』というものが実行されま───せん」
「「「───は?」」」
この場にいるほとんど全員が、顕現した黒いローブをしたマスコット先生の被り物をした人物の言葉に驚いてしまう。
「池本栄君が出した条件は、マスコット先生へのものです。ですが、今現在マスコット先生は死亡しています!ならば...その条件を飲み込む人はいなくなりましたよね?」
「───お前がいるだろ!」
「私がマスコット先生?いいえ、違いますよ」
ステージの上にいるマスコット先生と同じ被り物をした人物は、俺の言葉を否定した後に、こう告げた。
「───私の名前は、マスコット大先生です!」
伏線回収もまだなのに、ここで終わるわけがない。
後数年はお付き合いください。