Last Battle その㉟
2話連続更新1話目
体育館にて。
俺は、智恵に支えられてゆっくりと立ち上がる。
その時、俺は初めて体育館の全貌を見ることができた。体育館の、入口───現在、マスコット先生が立っているところの、教室の2階くらいの高さに大きな穴が空いていたのだ。
どうやら、あそこから俺は吹き飛ばされたようだった。そして、このステージに衝突だか激突だかして止まったようだった。
「お前がボールを投げねぇと新しくボールを投げれねぇんだよ...」
お互い、満身創痍の状態。どっちも、今すぐに倒れてしまうような状態だろう。
───と、体育館の左右にある扉から、純介と拓人・紬だったり、園田茉裕と、彼女にお姫様抱っこされた鈴華だったり。
「待て、マスコット!」
その言葉と同時に、体育館に乱入してきたのは森愛や康太達だった。その他にも、津田信夫だったりも左右の入口から入ってきていた。
───ここに集まったのは、第5回デスゲーム参加者だった。
俺はステージの上から立っているが、体育館にいる全員の顔が見えている。だからこそ、誰がいて誰がいないかも確認できていた。
今、この体育館にいないのは森宮皇斗と西村誠・細田歌穂。そして、山田稜だった。
皇斗は、きっと今でも外で戦闘しているだろうし、誠は生徒会室に放置されている状態だ。そして、歌穂は体育館でマスコット先生の相手を頼んでから一度も見ていない。
稜には、少し姑息だけどマスコット先生を戸惑わせるためには最適なとある物を任せたのだけれど間に合うだろうか。
「ほとんど全員がここに集まってるじゃねぇか。栄、そこから降りて正々堂々戦おうぜ?」
ここで、他のメンバーに手を出させてもあまり意味はなさそうだった。
「───わかった、正々堂々戦おうぜ」
「栄、やったれ!」
「そうだ!頑張れ、栄!」
マスコット先生を応援するものは、ここにはいない。俺は、英雄になったような気分だった。
「栄...」
心配そうな声で、俺に声をかけてくれるのは智恵。
「大丈夫だよ、智恵。俺は負けない。もう、一人で立てるよ」
「───わかった」
俺は、智恵から離れてステージの下に降りる。そして、体育館の中央にいるマスコット先生の方へ近付いていった。
「───始めようぜ、最終決戦」
「もちろんだ。買っても負けても笑っても泣いてもどれだけ圧勝でもどれだけ卑怯な手を使っても恨みっこなしだぞ?」
「あぁ。これ以上お前を恨めないからな」
そう。これだけ、人を苦しめたマスコット先生へ対する恨みはこれ以上無いほどに膨らんでいた。
俺は、ここで勝ってマスコット先生にこれまでの全ての償いをさせる。ここで、終わりにするんだ。
10m程の距離を保った現状。先に動いたのは、ボールを持った俺だった。
3球の内の最後の1球。これを避けられたら、マスコット先生にも俺にも新しく3球が追加される。
そうなれば、マスコット先生に武器を渡してしまうことになる。だから、この1球で必ず決めたい。
───だから、用意した。
「いるんだろ、稜!」
「あぁ!」
俺は、マスコット先生の方へ走って移動しながらそう叫んだ。マスコット先生の後ろから声がして、第5回デスゲームの参加者の群衆をかき分けて、マスコット先生の後ろに接近した。
「何が稜だ───ッ!」
”シュウウウウウ”
稜の方へ振り向いたと同時、マスコット先生の顔にかけられるのは俺が稜に頼んで用意させた”とある物”。
───そう、スプレー缶に入ったインクだった。
それが、マスコット先生の被り物にかけられてマスコット先生の視界が塞がれる。被り物をしているマスコット先生の弱点は、視界を塞いでしまうのが容易だったことだ。
ガムテープを貼るのでもよかったのだけれど、戦闘中にそんな余裕など無いだろうから、俺はスプレー缶であるインクを用意してもらったのだった。
「クッソ、視界が!」
マスコット先生は、そう言って被り物を擦っている。そして、追加でこう叫んだ。
「命令だ!第5回デスゲーム参加者!栄の動きを止めろ!」
マスコット先生はそう叫ぶ。
───だけど、それだってもうお見通しだった。
「残念、お前を助けるやつなんかいないよ」
俺はそう口にした。実際、マスコット先生を助けようと生徒会メンバーは誰だって動かなかった。
「───何故ッ!」
「確かに校則には『生徒会は、ゲームの主催者及びGM・教師の言いなりにならなければならない。それを破った場合は死に値する』という記載がある。だけどな、その校則は全部俺が無くしたんだよ」
「───ッ!」
だから、生徒会メンバーはマスコット先生の味方をする必要などない。俺は、確実にマスコット先生にボールを当てるために組み付いた。そして、マスコット先生を仰向けにして俺がその上に馬乗りになった。
「───さよなら、マスコット先生」
「───ッ!」
俺が、マスコット先生にボールを当てようとしたその時だった。
───バンッ。
「───え」
ボールを当てようとした俺は、後ろから誰かに押される。倒れると同時に、俺はボールを落としてしまった。
俺を押したその正体は───
───俺の恋人である智恵だった。
「───んなッ」
俺が、驚いた表情をすると智恵は歪な笑みを浮かべた。その直後───
───智恵とマスコット先生を下敷きにするように、体育館の天井が落下してきたのだった。
もう1話あるよ。