Last Battle その㉝
「んなッ...」
靫蔓は、銃弾に身を襲われながらもマスコット先生の方へ特攻した。銃弾を浴びせられたものは死亡するが、それは当たった瞬間ではない。靫蔓は、銃撃されてなお、最期の力を振り絞り、マスコット先生の持つ銃に噛みつき破壊したのだ。
───が、破壊した拳銃はまるで自爆攻撃のように靫蔓を巻き込んだ。
銃も、最後の最後に銃弾を1発放ち、噛みついている靫蔓の口の奥を貫いては、靫蔓の拍動を完全に止めたのだった。
拳銃は使えなくなったが、靫蔓も動かなくなってしまった───要は、二度目の死を果たしたのだった。
「なんで...どうしてそこまで体が張れるんだよ...死んじゃって...」
俺の目から溢れそうになるのは、溢れそうになるのは涙だった。
───が。
{泣くなよ主人公。俺はやりたいことをやって死ねたんだ。笑え}
俺の涙は、溢れ出るギリギリで止められた。俺は、それを拭ってマスコット先生を睨む。
「お前を守る銃は無くなった!」
「そうですね。でも、アナタを守る強者だっていなくなったぞ」
「───だな。だが、お前の方が圧倒的に不利だ」
「まだ、私は銃を持っているかもしれねぇぞ?」
「ハッタリなことくらい、気付いてるよ。だって俺は、主人公だぞ?」
「全く...靫蔓のせいで変な影響を受けてんじゃねぇかよ...」
マスコット先生はそう呟く。
「うるせぇ、放っておけよ。お前は、ここで負けるんだ」
俺は、ズボンの右のポケットに入れておいた青いボールを取り出す。これを投げれば、マスコット先生にも俺にも新たに3球が配布される。次の1球で止めればいいだろう。
両者、完全にボロボロな状態。だから、もう避けるようなこともできないだろう。できるのは、ここに存在する手札を切ることくらい。だからこそ、マスコット先生は叫んだ。
「生徒会メンバー、全員集合!」
「呼ばれて飛び出てにゃにゃにゃにゃーん!」
3階の床───要するに2階の天井を破って登場してきたのは上階で康太達6人と戦闘していた猫又一心不乱であった。
「にゃあが相手を───ひでぶッ!」
華麗に着地して登場した猫又一心不乱。その猫又一心不乱を襲うのは、上階にいた康太達───ではなく。
「妾に指図をするな、マスコット」
先程まで、柊紫陽花の戦いをしていた森愛香だった。
「クッソ!邪魔が入りやがった!」
「あ?誰が邪魔だと?物を言う時は場所を考えろ。妾の前で妾の悪口を言うなど...万死に値する!」
どこか、柊紫陽花のような感覚を覚える森愛香。もしかしたら、戦闘している間に手癖が移ったのかもしれない。
まぁ、どちらも元からキラキラ傲慢お嬢様───と言った感じだったので、これが森愛香の素でもなんらおかしいことはなさそうだった。
「にゃ...にゃんとまた知らにゃいやつが登場だにゃ...面倒だ───ぐへぇ!」
森愛香が苛立っているのか、猫又一心不乱に疲労が溜まっているのかわからないが、猫又一心不乱は森愛香の動きを避けられていない。
「栄!猫又一心不乱がそっちにいった!」
康太が、ポッカリと空いた2階と3階を繋ぐ穴から顔を覗かせて、そう述べる。
「なんでこんなに鈍いんだ?」
「化学実験室で水酸化ナトリウム水溶液を一心不乱の目にかけたピョン!だから、目がほとんど見えてないピョン!」
「人の所業じゃねぇ...」
水酸化ナトリウム水溶液───というか、アルカリ性の液体にはタンパク質を溶かす性質がある。目にかけたら、目の中にある水晶体が溶けて、最悪失明してしまう。
「クッソ、役に立たないじゃねぇか!帰って目でも洗っておけ!そのまま首を洗って、怒られることを待ってるんだな!」
「お、お先に失礼するにゃあ!」
そう言って、その場から姿を消す猫又一心不乱。
「どいつもこいつも役立たずめが!第2回生徒会メンバーは集合できないのかよ!」
マスコット先生がそう怒鳴れども、誰も現れることはない。
大神天上天下は、依然として森宮皇斗と激しい戦闘を続けているし、鼬ヶ丘百鬼夜行は安土鈴華が相手をしているし、人間甘言唯々諾々は津田信夫が憚っている。
だから、誰もやってこないのであった。
「どうしてだ、どうしてだ!どうしてこうもことが悪く回る!俺は、俺は!」
「残念だな、マスコット先生。これが主人公補正だよ。俺の勝ち───」
”キィィン”
一瞬、世界にそんな音が響く。耳鳴りのような、そんな一瞬の違和。
そう、違和感ではなく”違和”。
「───」
次に、俺が目を開けた時にいたのは、体育館。その体育館のステージの壁にぶつかって、動けなくなっていたのだった。
───死。
これまで、一度も感じることのなかったほどの明確すぎる死を感じた。何かに何者かに殺されるような生ぬるい感覚ではなく、自然の摂理としてあくまで自然に、自然に殺されるような感覚があった。
俺が状況を呑み込めずに唾も飲み込めずにいると、目の前に現れたのは一人の人物───人間甘言唯々諾々であった。
「───デッドラインか...」
そう言うと、俺に攻撃を仕掛けようとしていた人間甘言唯々諾々は、その場から姿を消した。
「───助...」
俺がそう声を出そうとすると。
「よくやったぞ、人間甘言唯々諾々!栄をあそこからここまで吹き飛ばすだなんて!この世界に滞在できる時間を超えてしまったが問題ない!後は俺一人でも勝利できる!」
「栄、大丈夫?大丈夫?」
遠く───体育館の入口の方からは、マスコット先生の声が。近く───体育館ステージに寝っ転がる俺を基準に、マスコット先生のいる方向が12時だとすると2時の方向からやってくるのは智恵の声が。
───ラストバトルの最終決戦は、体育館を舞台に、マスコット先生vs第5回デスゲーム参加者全員という形で行われるのが決定したのだった。
【補足】
唯々諾々に課されてる時間制限の話です。
唯々諾々は、存在しているだけでこの世界に存在している様々な人間では勝てないような「神話生物」や「超生命体」と呼ばれるようなものを退ける役割を持っています。
だけど、一つのところに留まりすぎると、その「神話生物」や「超生命体」に別の世界線の地球が侵略───否、太陽系が瞬く間もなく破滅に導かれてしまいます。
なので、別の世界線の地球を守るためにも、唯々諾々は色々な世界線を股にかけています。
尚、その「神話生物」や「超生命体」及び唯々諾々を作った・産んだのもGMこと池本朗な模様。
全く、栄の父親は何をしようとしているのだか...