Last Battle その㉜
銃を取り出しては、発砲を繰り返すマスコット先生を目の前にして、俺達は逃亡することを余儀なくされた。
もう既に、紫陽花と靫蔓を庇うようにして動いていた大和は銃に穿たれ死亡していた。
「紫陽花、お前も逃げろ!」
「いや、妾はこのクソ野郎の相手をする!靫蔓は栄を連れて逃げろ!」
「だが...」
「行けッ!妾はもう味方が死ぬ姿も味方が悲しむようなこともしたくはない!」
紫陽花の遠回しすぎる言葉。
「───紫陽花...」
靫蔓は、紫陽花の言葉を聴いてすぐに行動を開始する。立ち上がるのがやっとだった俺の手を掴むと、そのまま教室の外に逃げ出していた。
「───ここは妾が相手だ。貴様がワラワラ湧いてこようと、妾が全てを倒してやる!」
「残念だが、そんな大勢俺は必要ねぇよ。お前は、すぐに殺せる」
その言葉と同時に、紫陽花は銃にも臆せず動き出す。紫陽花の持つ特異な体質は「豪運」であった。
だからこそ、彼女はここに残ることを選択した。
「───おらッ!」
”パンッ”
マスコット先生の発砲。拳銃なのにも関わらず、残弾数も気にせずに発砲していた。
だが、紫陽花は既にマスコット先生が狙った方向にはいなかった。放たれた銃弾は避けれないが、放たれる前の銃弾であれば避けることができるのだ。
「死ねやッ!クソ教師が!」
紫陽花が、マスコット先生の首に肘打ちを食らわせる。
「───うぐっ!」
マスコット先生はそんな悲鳴をあげるも、紫陽花の方へ再度銃口を向ける。そして───
”パンッ”
「───ッ!」
紫陽花は、発砲されてから避けることを選択するも、間に合わない。
そして、紫陽花の首に銃弾が掠った。
「───」
”ドサッ”
紫陽花は、その場に倒れる。銃弾を掠っただけなので、死亡ではなく失神だった。
「───後は、栄と靫蔓の2人!」
この1発で、紫陽花が見逃されたのも紫陽花の豪運───
”パンッ”
”パンッ”
”パンッ”
”パンッ”
”パンッ”
”パンッ”
”パンッ”
追加で放たれる7発の銃弾。合計8発の弾丸が、紫陽花の体にめり込んだ。
喉仏、右胸、左胸、下腹部、鳩尾、右脚、左足。
それらが銃弾が埋め込まれた場所だった。
彼女の豪運はマスコット先生の前に敗れ───。
そのまま、マスコット先生はすぐに教室の外に出て俺と靫蔓の2人を追ってきたのだった。
「待て、栄!靫蔓!」
「おいおい、紫陽花がこんなにすぐにやられちまうのかよ!」
チラリと、俺を牽引する靫蔓の瞳に涙が映った。靫蔓は、すぐにそれを拭くと俺を庇うようにしながらマスコット先生にファイティングポーズを取る。
「───拳銃を前に抵抗するのか?俺の軍門に下れば、まだ赦してやる」
「おいおい、お前...俺と何年も一緒にいるのに俺ってのをわかってねぇな。ニワカが」
「───んだと?」
「一つ!俺はお前の事が嫌いだ!だから仲間にはならない!
二つ!俺はライバルが主人公と共闘する展開が好きだ!
三つ!俺は仲間を傷付ける奴を赦すつもりはない!」
靫蔓は、マスコット先生の前にそう宣言する。マスコット先生は、静かに銃を向ける。
「───お前、主人公とライバルのペアに勝てると思ってんのか?」
「───お前、作者に勝てると思ってんのか?」
”パンッ”
靫蔓に向けて放たれる銃弾。靫蔓は、それをまるで漫画の強キャラのように見切って、避けることを選択した。
───が、靫蔓は銃弾に吸い込まれるように戻っていく。
「───んなッ」
靫蔓の腹にめり込むように進んでいく銃弾。靫蔓の口からは、驚きが溢れた。
「残念だな。俺の持つ銃は特殊だから何発でも打ち続けることが可能だ。お前らがどれだけ抵抗しようと無駄死になんだよ。弾切れを待っても無駄だぞ?」
マスコット先生は、銃弾に腹を裂かれた靫蔓に向けてそう告げる。俺は、銃を目の前に動くことができなかった。
「お前、何をしたっ!」
「何もしていない。ただ、お前はここで死ぬのが作者の意志───俺の意志だ。お前の馬鹿げた妄想に───この世界が漫画だというシミュレーテッドリアリティに付き合ってやってるのだから、俺の現状を前に従って死んでくれや」
靫蔓がライバルで、俺は主人公だとするのであれば、マスコット先生は作者だと言う。実際、これが漫画であれば、なんでもありな設定がマスコット先生にはあるだろうし、マスコット先生は全てを知っているだろうから登場人物且つ作者である可能性が大きかった。
「打ち切りエンドだよ、栄」
靫蔓が、腹をやられてその場に膝をつく。マスコット先生は、無情にも俺に拳銃を向けた。
───死ぬ。
「何、言ってんだよ...栄は、死なねぇよ...」
その時、靫蔓が動き出す。拳銃を持つマスコット先生へ特攻して肉弾戦へ持っていこうとしたのだった。
「馬鹿めッ!お前が到着するまでにお前のことを何度殺せると思っている!」
マスコット先生が、靫蔓に何発も発砲する。だが、靫蔓は止まらなかった。
「───なぜッ!」
「ライバル補正だよ、馬鹿が」
そう言った刹那、靫蔓はマスコット先生の持つ銃に噛みついた。そして、金属が握りつぶされるような音が聞こえて───。
”パンッ”
───その発砲音を最後に、マスコット先生が持っていた銃と、靫蔓は動くことは無くなった。