Last Battle その㉘
7人の隙をついて、校舎裏側にある窓へ体当たりしてその場から逃走するのは猫又一心不乱であった。
「───おい、逃げるなッ!」
拓人が、一心不乱を追いかけるようにして駆けていく。スピード自慢の彼の足は、確かに速かった。
だが、それ以上に一心不乱は速く、まるでチーターのような速さで逃げていった。
外で待機していたのは───
「マスコット先生!」
拓人は、そう口にする。そして、一心不乱はマスコット先生を背に乗せて地面と垂直に立っている校舎の壁を爪を使用しながら器用に登っていった。
そう、マスコット先生は信夫の投擲から逃れた後、校舎裏に移動した。そこで、一心不乱がこちらに来れそうな時をずっと待っていたのだった。
「───まずいッ!」逃げられるッ!」
そして、一心不乱と、その背中に乗るマスコット先生は康太達が戦っていたA棟の最上階───4階の窓を割って侵入していったのだ。
***
”パリンッ”
窓が割れる音がした刹那、俺の目の前を通り抜けるのは赤色のボールだった。ヒュンと、一瞬呼吸が漏れる音がしてしまう。
「なん───ッ!」
飛んでくるのは、マスコット先生の2球目。今度は、もう外さないと言わないばかりに正確なフォームで俺の方にボールを飛ばした。
「マスコット先生がッ!」
俺にボールが当たる前に、その間に健吾が割り込んだために俺にボールが当たることはなかった。
「栄、今度こそお前をぶち殺してやるよ!」
「クッソ、窓を割ってくるとは思わねぇよ!」
マスコット先生と、ラストバトルの中で4階で邂逅するのはこれで2回目だった。
1度目は、ゲームの開始と同時。天井を突き破って、屋上から俺を潰そうと落下してきていたのだ。
今思えば、マスコット先生が素直に階段を上がって4階にやってくるなんて思わないほうが良かっただろう。
俺達が今立っている床に穴を開けていたかもしれないし、謎の瞬間移動の能力を使用して、俺達のところまでやって来ていたのかもしれない。
「───あぁ、クッソ!邪魔だよ、クソガキ!」
健吾が肉壁となったことで、俺にボールが当たらなかったので健吾に暴言を吐くマスコット先生。最後の1球になった今、保身の為にも安易には投げられないのだろう。
俺は、すぐにこの場からの逃亡を選択する───
───と、思った時。
「にゃはははははは!逃がすわけにゃいニャン!」
「───ッ!」
俺の進行方向に割り込んでくるのは、猫又一心不乱であった。
俺の背中に大きな傷をつけた張本人である猫又一心不乱。俺は、体に染み込んだ恐怖からか、背中の傷が傷んだのか思わず竦んでしまう。
直後、俺に飛んでくるのは猫パンチ。俺の顔面一直線に、猫パンチが飛んできたのだった。俺は、それを受け止めることも避けることも受け流すこともできずに、直で食らってしまう。
”ドンッ”
「───がッ!」
俺は、パンチに吹き飛ばされて壁に当たってしまう。鼻は折れてしまっているかもしれない。
「栄!」
智恵が、俺の方へ駆けつけてこようとする。だが、マスコット先生が、智恵のことを突き飛ばして俺の方へ迫ってくる。
「食らえ、栄!」
「おい、何やってんだよ!クソ野郎!」
マスコット先生が、ボールの持つ手を上に挙げて、俺にボールを叩きつけようとしたその時。俺は、壁際から移動してマスコット先生にボールを当てようと行動する。
「───ッ!」
マスコット先生は、俺の投げたボールを───否、俺の投げるとみせかけたボールを避けるために体を回転させた。
「残念、馬鹿野郎!」
「んなっ、投げないだとッ!」
マスコット先生は、どうやら俺がボールを投げて反撃するとでも考えたのだろう。まぁ、「智恵を傷つけたら栄は怒って反撃してくる」という方程式は、間違いではない。
俺は、マスコット先生に突き飛ばされていた智恵の手を無理矢理引っ張り、抱き寄せて下の階に逃げることを選択する。
猫又一心不乱がいるということは、康太達が敗北したか、または猫又一心不乱が逃げてきたかの二択だった。
前者であればもうどうしようもないけれど、後者であればきっと、康太達がこっちに向かってきているはずだった。
「今度は逃がすか、栄!」
そう言って、俺と智恵の降りる階段に、続いてくるマスコット先生と猫又一心不乱。
「残念、お前らに階段は下らせにゃいにゃ───に!」
目の前に立ち塞がる猫又一心不乱を、全く気にせず俺はタックルするように階段を降りていく。
猫又一心不乱も、その行動には驚いたのかタックルしてくる俺を避けることはできない。
そのまま、俺と猫又一心不乱は抱き合ったような状態でゴロゴロと回転していった。そして、俺達は3階に到着したところで止まった。
俺は、猫又一心不乱を振りほどいてそのまま2階へ向かおうとする。
智恵も、俺に着いてきてくれていた。
「何やってんだ、一心不乱!」
一心不乱に怒鳴り声をあげながら降りてくるマスコット先生。
「───栄!」
そこで合流したのは、康太達7人であった。やはり、一心不乱は康太達から逃げてきていたのだろう。
「康太!一心不乱は3階にいる!誰でもいいから智恵を任せたい!」
俺は、動きを止めること無く手短にそう伝える。
「わかった!」
「じゃあ、智恵さんはオレに任せて!」
俺は智恵を拓人に任せることにした。そして、俺と智恵・拓人の3人は2階に。康太達6人は3階に移動していった。
そして、俺達3人が2階の3年Α組の教室で見たのは───。
「嘘...だろ?」
教室の真ん中で釣り上げられていた、本日は休んでいてデスゲームに参加していなかった、四肢を切り落とされている橋本遥の首吊り死体だった。