Last Battle その㉗
猫又一心不乱は、栄の背中を引っ掻いた後に再度、康太達7人との戦闘の続行を強いられた。
そう、猫又一心不乱と戦っている7人は、この学校にいるからこそあまり「強者」という感覚がないが、一般のところで考えれば学校一になれるほどの実力者ばかりであった。
康太をリーダーにして蒼や拓人・雷人と真胡、奏汰に裕翔がいた。
「にゃははは...本当にしつこい男だにゃあ。女の子から嫌われるよ?」
「失礼だピョン。僕の可愛さに女子は皆メロメロだピョン。あ、オバさんに若いものは似合わないから僕のことを毛嫌いしてるピョン?」
一つの発言ごとに、相手を苛つかせることができる蒼。敵を作りやすいし、敵になればかなりイライラするだろうけれど、今回に限っては味方だ。これ以上、心強いことは───いや、これ以上心安らぐことはないだろう。
「お前の冗談は面白くにゃいにゃあね...もう、退場していいにゃ!」
そう言うと猫又一心不乱は、蒼に飛びかかる。
「うわーん、怖いピョーン」
そう言って、蒼は兎のような跳躍力で前に飛んだ。猫又一心不乱は、先程まで蒼がいたところに、シュタッと着地して、その隣にいた裕翔と康太に攻撃されないように大振りで振るう。
「───残念、上だよ」
「───ッ!」
猫又一心不乱の頭上にいるのは、校舎の壁を蹴って空中にまで飛び越えてきた自称”雷神"の雷人であった。
空中で、猫又一心不乱に向けて振るわれる雷人の蹴り。猫又一心不乱は、即座に逃げることを選択して音一つ立てずに、その場から移動した。
「───こっちで対処する!」
猫又一心不乱の移動先に、突っ走るのは一人の爽やかなイケメン───拓人だった。
「つぎからつぎへとうざったいにゃあ...」
そう愚痴をこぼす猫又一心不乱。実際、1vs7という人数差が大きすぎる戦場にて、猫又一心不乱は圧倒的に不利だった。
獣のフリをした───いや、半ば獣人とも言える彼女のその異常な性能があって尚、7人の強者を相手するのは強かった。
「くらえッ!」
猫又一心不乱を、どうにか捕まえようと画策する拓人。
そして、彼女の前足を一つでも掴もうと彼女の方へ飛び込んだ。
が、ピョンと見た目通りネコのような動きで避けられてしまう。
「反転攻勢は難しいにゃー、どこかでタイミングを掴まにゃいと...」
そう呟く猫又一心不乱の背後に、ノッソリと現れる影。そして、そのまま彼女に組みついた。
「───にゃに?!」
「どうして僕は気付いてくれないのかなぁ...僕、そんなに影薄い?」
少し悲観的に声を出すのは、猫又一心不乱に組み付く結城奏汰であった。
別に、彼は影が薄い訳では無い。他が強すぎるのだ。それで、結果として影が薄いように見えてしまう。
奏汰は、1つの手を一心不乱の顎の下から回して、横襟を握る。そして、もう片方の手を一心不乱の脇の下から回し襟を握った。そして、頸部を極めようという作戦だった。
『送襟絞』
「首が...絞まッ!」
語尾も言葉尻も忘れて、その場から逃げようと画策する一心不乱。だけど、奏汰は離そうとしない。ここで殺してもいいという気概なのだ。
「残念だね、まだ辛いよ」
そう言って、一心不乱の目の前に立ちはだかるのは一人の長身の美少年───真胡だった。
「ごめんなさい」
真胡はそう一心不乱に謝った後、一心不乱の腹部に大きすぎる衝撃が走る。
「───かは」
真胡は、いつもは弱々しい美少年だけど、喧嘩になる時は違う。友達を守る時に限っては、本当に心強い味方となってくれるのだろう。
真胡は、一心不乱の腹部を蹴りつけては、その一心不乱の体にダメージを蓄積させる。
「ひどい...ひどい...」
一心不乱は、そう呟くも抵抗できていない。7人もいなければ、こんな集団リンチにはならなかっただろう。
「まだ...負けにゃいにゃあ...」
「───嘘」
一心不乱は、奏汰の組み付きから脱出する。奏汰はすぐに組み直そうとするも、失敗してしまう。
「なんで!」
「知ってるかにゃあ?猫は液体にゃんだにゃあ」
「組み付きから出れるなんて、あり得ない!」
「奏汰、何やってるピョン!全く...逃げられちゃったピョン!」
そう言うと奏汰から解放された一心不乱に向けてドロップキックを行うのは蒼だった。
全くよそ見していた一心不乱は、そのドロップキックをもろに食らってしまう。
「にゃん、もう!」
ドロップキックを食らってでも、ただでは倒れない一心不乱。
一心不乱は、ふらつきつつも蒼の足を掴んではその場でグルグルと回転した。蒼は、遠心力でそのまま地面と並行になる。
「うわぁぁ...目が回るピョーン」
そんな声を出す蒼。蒼が掴まれて回っているから、迂闊に近付くこともできない。攻撃して、地面に落とされては問題だった。
「飛んでけにゃー!」
そして、一心不乱の手からこぼれ落ちて遠くへ吹き飛んでいく蒼。
「吹き飛ばされた!」
「大丈夫、僕なら間に合う」
蒼の救出へ動いたのは、『雷神』の雷人。そして、蒼が壁にぶち当たる前にキャッチしてお姫様抱っこをしたのだった。
「大丈夫かい、可愛い可愛いウサギちゃん」
「きゅん!惚れたピョン!」
「んなことやってる場合か!」
康太が、2人のくだらない茶番にツッコミを入れたのとほぼ同刻。
一心不乱は、耳をピクピクと動かした後に、この学校の正門がある方向とは反対側の窓の方へ───要するに、校舎裏と呼ばれる方向にある窓へ体当たりしてその場から逃走を選択したのだった。
戦場が動きます。