Last Battle その㉖
───こちらは、『モールスしりとり』が終了して、深海ケ原牡丹がいなくなった校舎裏。
純介は、一人安堵して校舎に背中を付けてほっと息をついた。
「よかった...助かった...僕でも勝てた...」
ジョーカーでも尚、これまで多くのゲームで勝利を掴んできた純介。だが、彼を狙う次なる刺客は───
「じゅんじゅん!」
純介のことを、唯一あだ名で呼ぶ人物───紬であった。
「紬!」
純介は、名前を呼ばれたために紬の方へ向かう。
「大丈夫だっ───
”グサ”
”グサグサグサ”
「───」
純介の顔が、青くなっていく。
「───え?」
純介は、その音の正体を確認するために後ろを確認した。先程まで、純介が座り込んでいたところに刺さってたのは、4本の棒切れだった。
次なる刺客───というか、純介を狙う次なる刺し棒は、紬の登場によりたまたま避けることができたのだった。
「何...今の...」
「わからない...けど、ここは危険だ。逃げよう」
「う、うん」
純介は、紬の手を引いて校舎裏から体育館の裏の方へ移動する。
鼬ヶ丘百鬼夜行の投げた棒切れは、純介達のはこうして避けられたのだった。
***
九条撫子が智恵を襲撃した後にしたことを知った俺。
俺は、A棟の4階にある美術室の真ん中で、智恵と健吾の3人で少し休憩していた。
「栄、背中大丈夫?」
「うん、痛むけど動けないほどじゃないよ」
現在、マスコット先生が敵として憚っている以上、保健室の教諭であるマス美先生だって信用ならない。
だって、マスコット先生の嫁がマス美先生だからだ。
───と、その時。
”パリンッ”
窓が割れる音が聞こえて、美術室に窓から侵入してくるのは弾丸のようなスピードの棒切れだった。
「───ッ!」
俺は、咄嗟に智恵を庇うように抱きしめる。智恵がいるから、俺だけが逃げるということもできない。
棒切れに背を向けて、俺は智恵が傷つかないように守ろうとする。
”ザク”
”ザクザク”
そんな音がする。
”ドンッ”
そして、何かが倒れる音がした。
「あ...ぶねぇ...ギリギリ間に合った...」
俺と割れた窓に乱入してきていたのは、大きな絵画。今は倒れているので額縁の裏が見えていて、何の作品かはわからないが、健吾がその絵画を咄嗟に投げて助けてくれたようだった。
「健吾、ありがとう」
「当たり前だ。仲間だろ?」
「あぁ、そうだな」
こちらでも、鼬ヶ丘百鬼夜行の投げた棒切れは防御されたのだった。
「とりあえず、この部屋にいるのは危険だ。なにせ、もうバレてるようだからな」
「そうだね、他の部屋に行こう」
俺は、智恵と手を繋いで美術室から移動することにした。だが、どこに移動しようか。
グラウンドでは、森宮皇斗と大神天上天下・森愛香と柊紫陽花・安土鈴華と鼬ヶ丘百鬼夜行・津田信夫と人間甘言唯々諾々が戦っているのだ。
そして、今いるA棟の1階では、康太達7人が、猫又一心不乱と戦っているのだ。
俺達が移動できるところとしては、かなり限られてくるだろう。
「うーん、どうにかして屋上にでも行ってみる?階段がなくて行けないだろうけれど...」
俺は、そう提案してみる。まぁ、非現実的な案だということはわかっている。まさか、垂直の壁を登って置く上に行く───というわけにもいかないだろう。
「さて、どうしようか...」
俺達は、廊下でそう話し合っていた。マスコットが来る時は、音がするから大丈夫。
───そう、油断していたのだ。
マスコット先生は───正確には、マスコットが俺を倒すために連れてきた過去の生徒会メンバーは、誰も彼も人間離れした人間であることを、忘れて油断していたのだった。
***
目まぐるしく動く戦場の中、安寧というものは存在していなかった。
もし、現在栄達がいる校舎の周辺に安寧が存在しているとするのであれば、それは寮くらいだろう。
───だが、その寮には現在誰もいなかった。
誰一人として、そこに身を潜めて息を殺して息をしている人はいなかったのだ。
破壊音や拳がぶつかる騒音が響き続ける戦いから遠ざかり、静謐に包まれている寮。
そこは、いつだって皆の帰りを待っているのだった。
───と、場所を変えよう。
場所は四次元。栄達のいる「帝国大学附属高校」の校舎を、水晶のようなモニターで眺めているのは、一人の人物。
その人物の元に帰還するのは、2人の少女だった。
「───あら、随分と早いお帰りですね」
その人物は、2人の少女に声をかける。少女達は、逃亡と敗北のことに関することで気まずいのか口を聞こうとはしなかった。
「ははは、無視とは酷いですね...私も嫌われたものです。いや、私達───と言ったほうがいいでしょうか?」
その人物は、乾いた声で笑う。
「大丈夫ですよ、ここで失敗したからと言ってあなた達を咎めたりはしません」
「本当ですか!?」
その言葉を聞き、嬉々として声を上げたのは九条撫子であった。
「えぇ、その代わりまた別の時に行ってもらいますけどね」
「───え、まだデスゲームを続けるつもりですか?それじゃ、栄と決めた条件は反故にするんですか?」
「いえ、反故にはしません。理不尽に否定します」
それを「反故にする」と言うのだ、と九条撫子はツッコむことができなかった。
その人物は、マスコット先生よりも理不尽で屁理屈な人物だ。その人物の正体は───
───現在「帝国大学附属高校」を駆け回って栄と戦っているマスコット先生と同じ、池本朗なのである。