Last Battle その㉓
校舎裏、純介がEXゲーム『モールスしりとり』で対峙しているのは、一人の女性───深海ケ原牡丹であった。2人は校舎にもたれるように座っていた。
そして、『モールスしりとり』を行っていたのだ。今は、8周目の純介のターン。
純介は「--」から始めなければならなかった。
「- -・ ・・(無駄)」
「・・-・・ ・- ---(トイレ)」
そして、ここから9ターン目が開始して、文字の後ろから取られる音が1つ増える。今回で言うと「---(れ)」であった。
もちろん「-」と「--」に分けるなどという方法もある。
純介は、深海ケ原牡丹の嫌がらせのような戦法に、眉をひそめつつ、言葉を紡いだ。
「- --・ ・・・-(無力)」
「・・- --・ ----(売り子)」
「---- --・-・ ・・・・ -・--(腰抜け)」
「・-- -・・- --・- ----(ヤマネコ)」
「ッチ」
純介は、舌打ちをする。深海ケ原牡丹が行っている「---」攻めは、かなりウザいものだったのだ。まだ、3音ならば太刀打ちできている。だが、これから4音・5音・6音を増えていくとどんどん返せなくなっていく。
純介は、ギリギリの試合を強いられていたのだった。
「---・- -・-- ---- -・・- --・-・(スケコマシ)」
「・-・・ ・- ----(蚕)」
「---- ・-・-・ --・-・ ・・ ・・- ・-・ --・-・(根性なし)」
「・-・ ・・・(奈良)」
「───」
純介は、「---」から「・・・・」に変わったことにより、一瞬驚いてしまう。「・」が4音続くのは、かなり限られてくる。
「・ ・・ ・-・-・ -・-・・(便器)」
「・-・・ -・--・ ・・・(カルラ)」
「・・・ ・・・- -・ ・・ ・-(落第)]
「───」
深海ケ原牡丹の言葉が詰まる。彼女の頭の中では「・・・-」で繋がる単語が出てきていないのだ。
いや、正確には「・・・-」から始まり「・・・・」及び「----」で終わる単語が、出てきていない。
「さぁ...どうする?」
純介は、急に言葉が出なくなった事に気づいて、若干の煽りを含みながらそう呟いた。彼がこれまで出てきた言葉は、基本的にマイナスな言葉だった。深海ケ原牡丹に、暴言をぶつけて動揺しないかどうか探っていたのだ。
「・ ・・-・・ ・ ・・-・・(ヘトヘト)」
制限である10秒が経つ直前、深海ケ原牡丹はそう口にした。
15ターン目が開始し、純介に回ってくるのは「・-・・」であった。
「・-・・ --・-・(瑕疵)」
「-・-・ ・・・(ニラ)」
「・ ・・ ・-・-・ --・-・ ・・-(弁償)」
再度、純介は「・・・-」で深海ケ原牡丹にパスを回した。純介は、深海ケ原牡丹の苦手な部分を攻めるのだった。
卑怯に感じるかもしれないが、しりとりであるならばそれは正攻法でもある。
「・・・ - -・-・ ・・・-(ラム肉)」
深海ケ原牡丹は、もう同一の音で攻めるのは諦めたのか、普通の答えで繋げる。
そして、16ターンが終了し、最初につける必要がある文字は5音に増えた。今回でいうと「・・・・-」だった。
「・ ・・・ ---・- ・・ ・・・- ・・-・(減らず口)」
ここまで来てなお、純介は言われて嬉しくないようなネガティブな単語で『モールスしりとり』を続ける。純介にはまだまだ余裕があるのだろうか。それとも、出てくるような語彙がネガティブなものしか無いのだろうか。それは、純介にしかわからないだろう。
そのまましりとりは続き、深海ケ原牡丹が頭につける必要があるのは「-・・-・」であった。
「-・・-・ ・-・-・ -・ ・・ ・- ・-・-- ・-・-・(問題点)」
ここに来て、深海ケ原牡丹が投げかけるのは「・-・-・(ん)」であった。
「・-・-・(ん)」のままでは、繋げられないので必然的にどこかで分割して音を作り出さなければならないのだ。純介は、目の前にいる深海ケ原牡丹の狡猾さを知り、歯にギュッと力を込めた。
「・- ・-・- -・・・- ・-・・ ・・ --・-(色眼鏡)」
深海ケ原牡丹の「・-・-・(ん)」で攻めようと試みるも、一切焦りを見せなかった純介。カウンターで、「・-・-・(ん)」で繋げることこそしなかったものの、純介はまたマイナスな言葉で続けることに成功したのだった。18回目の深海ケ原牡丹のターンの頭につくのは「・--・-」なのであった。
この「・--・-」は実にいやらしく、この一音で表すことができるのは「ー(長音)」であり伸ばし棒なのだ。
だから、伸ばし棒で言葉を始めることができないのでこちらも「ん」と同じように、必然的に変えなければならないのだった。
「・- -・- ・-・・ ・-・-・(違和感)」
深海ケ原牡丹も、簡単に乗り越えて更には再度「ん」で返すことに成功していた。19ターン目、純介は再度言葉を選ぶ必要があったのだ。
「・- ・-・- ・-・-・(異論)」
純介の行う「ん」返し。
「・- ・-・ -・-・- ・・・-(稲作)」
「-・・・- ・- -・- ・・・-(迷惑)」
「-・・・- ・・・ ・-・-・ ---- --・ ・・・-(メランコリック)」
そして、やってくる21ターン目。20ターンを過ぎたがために、次から頭に文字は6文字となるのだった。
よって、純介が必要なのは「-・・・・-」は頭に付けて始めなければならない。
───まだ、勝負は続く。
モールス信号でしりとりさせるの大変過ぎる...
もうこんな時間に...