Last Battle その㉒
校舎裏にて。西森純介と対峙するのは、一人の黒髪の少女───深海ケ原牡丹であった。
深海ケ原牡丹は、第3回生徒会メンバーであった。
その彼女も、九条撫子の持つ七つの大罪を見極めるという突出した他人の感情を読み取る能力だったり、柊紫陽花の、見る者の誰もがイカサマを疑ってしまうほどの豪運を持つ柊紫陽花と同じように、天才と呼ぶに相応しい───いや、彼女の持つ能力に関しては天才ではなく天災のような能力なのだけれど、凡人には持たない能力であることは確かだった。
「・-・ ・・・ -・・・ ・・ ---・- -・- ・-・-- ・-・・・ -・・・ ・-・ --・-・ --・-・ -・・- --・-・ ・・-(ならば、座ってお話しましょう)」
「───はぁ?」
栄に届けるとある物を稜に任せて、純介は深海ケ原牡丹と勝負をするつもりでいたから、そんな提案は頓珍漢過ぎるものだったのだ。純介が、素っ頓狂な声を出してしまうのも無理はない。
───と、深海ケ原牡丹が九条撫子や柊紫陽花と違い、勝負を積極的に投げかけなかったのには理由がある。それが、彼女の持つ能力───勝利できないという「弱者体質」に関係がある。
深海ケ原牡丹は、これまでの人生で一度だって勝ったことはない。じゃんけんをすれば、100回やろうと相手に勝つことはないし、サイコロを振っても自分に都合の良いデメが出るわけなどない。それどころか、いつでもどこでも彼女のカーストは最下層で実の家でも犬のように扱われていた。
───と、深海ケ原牡丹の過去の話をするのはまだ早いだろう。
「-・- -・ --・-・ -・・・ -・ -・ ・-・・ ・-・・・ ・・- ・・-・・ ・-・ ・-・-・ ・-・-- ・-・・・ -・・-・ -・- ・-・ ・-(私は、無理して戦おうとなんて思わない)」
深海ケ原牡丹が口にするのは、紛れもない真実。
だけど、第3回生徒会メンバーである以上、純介がそのことについて、その言葉について疑うのは当然だった。
「何を...言っているの?勝負しに来たんじゃないの?」
「--・-・ ・・- --・・ ・・ -・-・- ・---・ ・・・ --- -・-・ -・-・・ -・ ・・--(勝負させられに来たの)」
「じゃあ...負ければ帰ってくれる?」
「-・・-・ ・・-・ ・-・- ・-・-・(勿論)」
「───じゃあ、勝負だ」
「-・- ・-・・ -・ -・-(わかったわ)」
「内容はどうしたらいいかな?」
「---・ --- -・・・ --・-- ・-・ -・ ・-・・ ・・ -・-・・ -・・・- ・-・-- ・・-・ ・・- -・ ・・ ・-(それは貴方が決めて頂戴)」
「わかった...じゃあ、こうしよう」
純介が提案したゲーム。それは───
「そうだな、EXゲームにしよう。EXゲームのルールは、次のとおりさ」
EXゲーム『モールスしりとり』のルール
1.モールス信号でしりとりをしていく。
2.最初から4ターン目までは、お尻の一つ信号を。5ターン目から8ターン目からはお尻の2つの信号を取る。
3.10秒以内に言葉が出なかったら敗北。
「───どうかな」
「-・- -・ --・-・ ・-・・ ・・ -・・-- ・・- --・ -・ ・・ -・-- ・・-・・ ・・ ・- ・- ・・--?(私が有利だけどいいの?)」
「ゲームだもの、楽しまなくちゃ」
純介はそう言って、笑みを浮かべる。そして、純介と深海ケ原牡丹は校舎に立てかけるように座る。
このゲームは、本来のしりとりをモールス信号の符号で行うゲームだった。
従来のしりとりがりん「ご」→「ご」り「ら」→「ら」いらいらくら「く」→くる「ま」……と続いていくように、このゲームも-・・-- -・・・「-」→「-」・- ・-・・ -・・・「-」→「-」 ・- --・-・ ・---・ ・・ ・-・-「・」……というように続いていく。
そして、4ターンが終わると、続くのがお尻の一文字ではなく、2文字・3文字へとに変化していくのだった。
「僕が勝ったら帰ってくれ。君が勝ったら...どうする?」
「--・-・ ・・ --・-- --・-・ ・-・-・ ・-・-- ・・(じゃあ、死んで)」
「よし来た、決定だ」
───こうして、EXゲーム『モールスしりとり』の開催が決定する。
「それじゃ、僕からでいいかな。モールス信号の・・-の-から行くよ」
純介がそう口にして、深海ケ原牡丹が頷く。その頷きが、開戦の合図だった。
「-・-・・ ・・・ ・-(嫌い)」
「- ・・・ -・-・- -・-・・ ・- -・・-・(紫芋)」
「・-- ・・・- -・ -・ ---・- ・・(役立たず)」
「・-・-- ・・-- --・・- ・・・(掌)」
「・-・-- -・-・・(敵)」
「・・・ -・・・ ・・--・(ラッパ)」
「・-・ -・-・・ - --・-・(泣き虫)」
「・・・ ・- -(ライム)
純介と深海ケ原牡丹がモールス信号で言葉を繋げる。これがもし、日本語で行われているものだったら、脈絡のない単語を交互に羅列している集団だっただろう。
───と、深海ケ原牡丹が答えたことで、4ターン目が終わり、5ターン目に入る。
ここからは、お尻の2文字を───今回でいうと「--」を繋げた状態で言わなければならないのだ。
「-- -・- - --・-・(弱虫)」
「-・-・ -・・-・ ・・--(煮物)」
「---- --・-・ ・・ -・-・・(乞食)」
「・・-・・ ・・--(殿)」
「--・-- --・-・ ・-・-- ・・ -・・- ・・-・・ ・-(足手まとい)」
「・--・ -・---(杖)」
純介は、深海ケ原牡丹から「--」攻めを行われている。
「--」が続くのは、日本語で言うと「あ」「こ」「し」「す」「そ」「ね」「ひ」「よ」「り」「れ」であった。もしくは「-」一つの「む」の後に「-」で始まる一語を繋げればいいだろう。
───だが、このまま、特定のもので攻められてしまったら純介は敗北してしまうだろう。





