Last Battle その⑳
人間甘言唯々諾々と相対する長身の、バッドを持った人物───津田信夫は、そのバッドを人間甘言唯々諾々の方を見て口角をあげた。
「何が嬉しい...」
「別に嬉しい訳やない。ワイやって、戦う必要が無ければ戦いたくないし、殺す必要が無ければ殺そうとは思わへん」
「そうか」
人間甘言唯々諾々は、そう呟く。
「───貴様、人を殺めたことが有るだろう」
「な...なんやてッ!」
人間甘言唯々諾々は、津田信夫の抱えていた秘密───人を殺したことがある、という秘密を口に出す。
それは、第2ゲーム『スクールダウト』によって、Α組に属する全員に知れ渡ったものの、それを指摘されるのは信夫にとってまだ地雷だったのだ。
「まぁ、斯く言う俺も何万と殺しているから文句は言わないがな...」
「何万やと?」
「ははは、冗談だ」
冗談を言うような姿には見えない人間甘言唯々諾々は、冗談を言った。そして、その上更にこう付け加えた。
「本当は、93億人だ」
「───は?」
「これまで、俺が殺してきたのは93億人だよ。正確には、93億6325万8672人だ」
「なんやて?そんなに人を殺せるんか?今、地球上に人類はおらへん!それに、法律はお前を赦したんか?」
「法律は法律自身を裁けない。よって、法律は俺を裁けない」
「何を言って...」
「俺は夜神月ではないが、俺はこの世の法で秩序だ。神から授けられた俺の力で、世界は成り立っているんだ」
「何を言っとるんや。貴様...」
「俺は今まで、27京630兆5629億3261万4037年と245日6時間19分32秒生きているのだ。俺こそが、神に選ばれた人物に決まっている」
「何を言って───ッ!」
その直後、信夫の頭を駆け巡るのは人間甘言唯々諾々がいなかったであろう世界線の世界。そこに映るのは、見ただけでもおぞましく正気を失ってしまいそうな巨大生物だったり、宇宙全土どころか、そこら周辺の別の宇宙までをも覆い尽くすような巨大な煙状の生物。また、数メートルほどの長さの白い棒が地面に突き刺さった直後、地面と海が入れ替わるような現象。
───それ以外にも、科学的技術でも、人間の言語でも言い表せないような映像が、「人の妄想から完全に逸脱したような世界」が見えてしまったのだった。
「なん...や...これは...」
「お前が今見たのは、俺がいなかった場合の世界だ。今のが、俺がこの世の───三次元の、法で秩序である証明だ。別に逆らってもいいが、勝てないぞ?」
本来であれば、彼の真価を人間ごときの、一生物の使う言語で扱うことができないのだが、人間甘言唯々諾々を言葉で表すとするのであれば、「神話生物」と言っていいだろう。
まるで、強大過ぎるその力が故に、猛者であれば対面するだけで、その力の差がわかってしまい、正気が削られる。
そう、森宮皇斗や大神天上天下が焦ったのは、それが理由だった。
人間甘言唯々諾々は、人形の生物を93億6325万8672人殺していたし、彼が本領を発揮すれば───要するに、十字架に張り付けられている状態から解放されれば、この学園にいる全員は、一瞬で消し炭になるどころか、この小説を呼んでいる読者さえも、消え失せて、この小説を知った者から順々に死んでいくだろう。
そんな、他の世界にも影響を与える人間甘言唯々諾々が人の姿をしているのも、全て池本朗が人間であるから───という言葉だけで、納得していただきたい。
「───で、お前は俺と殺し合うんだったな...いいぞ。1/1028の1028乗の1028乗の1028乗の1028乗の1028乗程の力しか出せないが、相手をしてやろう」
信夫は、猛者ではないので人間甘言唯々諾々の姿を見ても、その恐ろしさはわからなかった。
───が、先程脳内に流されたその力にビビり散らかしてしまったのだ。
「無理や...勝てへん...絶対に、コイツには勝てへん...」
本能的な恐怖。理性的な恐怖。信夫の体の全てが、警鐘を鳴らす。圧倒的過ぎる生物───否、神仏を前にして体が文字通り爆発しそうになる。
───が。
「ワイは約束したんや...栄と約束したんや!」
信夫は、決意する。諦めないその不撓の心が不屈の精神が、信夫を突き動かす。
「キャッチボール、しようや」
───信夫は、バッドをスイングさせる。
彼はやはり、勇者であった。
***
九条撫子は、A棟4階に辿り着く。
「出てこい、智恵!貴様を人質にしてやる!」
その声と共に、家庭科室・技術室・音楽室のドアを蹴破っていく。だが、中に智恵の姿は無かった。
九条撫子は、七つの大罪を見極める能力を持っている。だが、それがあったがために、七つの大罪を1つも持たない誠の相手に戸惑った。だけど、靫蔓を殺した共犯だということを知り、覚醒して勝利したのだった。
今現在も、その覚醒は続いており、智恵と健吾に出逢えば、健吾は一瞬で殺されて、智恵は一瞬にして人質とされるだろう。
───そして、九条撫子はA棟4階最後の一室───美術室の扉を蹴破る。
「───あ」
そこにいたのは、智恵と健吾。その直後、九条撫子は2人接近して、健吾の首を蹴り落とし───
───てしまうようなことはなく、九条撫子はその場でうずくまり、嘔吐してしまう。
「お...お前、お前はァ!どうして...どうしてッ!」
涙目になり、九条撫子はその場で絶望する。目の前にいるのは───
───目の前にいる智恵は、七つの大罪を全て保有していた。
人間甘言唯々諾々、勝てる生命体はいません。
能力を持っている───とかではないけれど、「比較」ということができない。
テーマが”絶対的”です。絶対的に[最上級]の敵。
「ワンパンマンと戦ったらどっちが強いの?」とか聞かないでね。
相手が猛者だと、人間甘言唯々諾々の強さを知って、体が文字通り爆発するから。