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Last Battle その⑱

 

 ───そして、視点は三次元にいる九条撫子と西村誠の2人を映すものに戻る。


 何故ならば、敗北へと導かれていくような大きな亀裂が生まれることの発端は、この2人の戦闘からだったからだ。

 彼ら彼女らの勝負を、全て見届けてから、我らが主人公である栄に視点を返上しようと思っている。


 時間軸としては、2人がお互いに名前を述べた直後。

 九条撫子は、擦り傷や打撲の多い体で尚、受難から逃げずに必死に立ち上がり、戦闘と続行を選択し。

 西村誠は、未だ一つだって傷ついていない肉体を、軽々と行使して、智恵を逃がすまでの───いや、智恵が九条撫子の手に落ちて囮になるまでの時間を少しでも稼ぐために戦闘の続行を選択し。


「───さぁ、来い」

「もちろん!」

 誠の言葉に対抗するように、誠の方へ走っていく、今年で28歳になる九条撫子。

 第3回デスゲームからは、もう既に10年が経っていて女性において戦闘においてもお世辞にも全盛期とは言えない年齢だったが、彼女は全盛期の若者を戦うことを選択していた。

 彼女は、諦めたくなかったのだ。中途半端なところで諦めたくなかったのだ。


 九条撫子は、誠から数歩手前のところで空中にジャンプする。もちろん、十数メートルとかいう、4階までやって来た時に披露したバグのようなジャンプではない。誠へ、攻撃を食らわせるために、ジャンプをしたのだった。


 彼女が披露しようとするのは、大振りの拳。当たってしまえば、トラックだって粉砕するようなパンチだ。

「───」

 誠は、その攻撃を避け───






 ───ない。


「───うぐっ」

 大振りの拳が当たるより前、ジャンプした為に空中にいる九条撫子の腹部に、誠の拳がめり込んだ。

 拳が大振りだと言うのであれば、そこに隙が生まれるのは当然だった。


 九条撫子の拳は、命中することなくそのまま後ろに拭きとび───、



「───なんだとッ!」

 一瞬。


 九条撫子にめりこむ誠の拳を掴んだのは、殴られた九条撫子自身だった。

「この時を、待っていたわ!」


 空中に浮いた状態で、九条撫子は誠の腕を掴む。そして───


 ”ブオンッ”


 そんな音を立てて、誠を後方に投げる。九条撫子の後ろにあったのは、ホワイトボードだ。


 先程、九条撫子が激突したホワイトボードに、誠も激突し───





 ───てしまう、などと言った愚行を誠は起こさなかった。


「───んなっ!」

 当に、一進一退の攻防。どっちが勝つか、どっちが負けるかわからない戦い。


 誠は、ホワイトボードに激突するその直前、ホワイトボードの粉受け───ペンなどが置かれている場所に、手をかけて、自分の動きを制限したのだった。そして、ホワイトボードを宙で蹴り、そのまま投げられたスピードのまま、孫悟空が空を飛ぶような感じで、九条撫子に顔から接近していったのだった。


「くっ!」

 既に地面に着地していた九条撫子は、自分に迫ってくる誠を避ける。誠は、地面に両手で着地すると、前転を披露して、見事に着地したのだった。


「靫蔓の戦いから、攻撃には慣れていてな」

 誠は、九条撫子に背を向けたままそう口にする。


 ───その言葉が、命取りだった。


「靫蔓が...なんだって?」

 誠は、背中でその悲しみを、その慈しみを、その怒りを感じる。そして、自分に向けられた感情が明確過ぎる「憎悪」であることを知った。


「お前が...お前が殺したのか...靫蔓を!」

「───ッ!」


 刹那、誠の背中にぶち当たる3連撃。先程まで、一度だって傷の一つも付けられなかった誠の背中に、傷を付けることに成功したのだ。


 怒りで覚醒する姿は、まるで孫悟空。

 もちろん、髪が逆立ち金色に光り、超サイヤ人になる───だなんて、漫画のようなことは起きないし、靫蔓ではないから起こさなかったけれども、九条撫子は確かに、靫蔓を殺した共犯が目の前にいることを知り、覚醒した。


「私は絶対に...お前を赦さない!」

 怒りで覚醒する九条撫子の姿は、まるで主人公だった。


 ───そう、彼女は「まるで主人公」なのだ。


 いつだって大切なものは守れないし、いつだって一番大切な時に失敗してしまう。

 だから、彼女は絶対に「主人公」ではないし、主人公にもなれそうになかった。彼女は、「まるで主人公」なのだった。


「私は、更に...更に!」

 バトル漫画のように表すのであれば、彼女は『憤怒』を纏っていた。


 自らの持つ『憤怒』を増幅させて、それを覚醒に使用したのだった。もちろん、『憤怒』を纏うだなんてものは比喩だし、『憤怒』はその人が持つ人間の本質であるので増殖するようなものではない。だが、そう表現するのが最適だと思えるほどに、思わせてしまうほどに彼女は怒り怒っていた。


 そして、九条撫子は誠の首根っこを掴んで、そのままマスコット先生が登場する際に落とした床の瓦礫に、誠の頭蓋をぶつけた。


「───クッ...ソ...」

 誠は、いつだって一人では生徒会メンバーには勝てない男だった。


「───残念だが、貴様を殺すのは後回しだ。今は、智恵を人質にすることが優先だ」

 口調も変わり、どこか高圧的に───傲慢になった九条撫子は憤怒しているのにも関わらず、冷静だった。


「さらばだ、誠。そこで死ぬ時を待っていろ」

 九条撫子は、そう強い口調で告げると、戦いの舞台だったB棟4階生徒会室から出ていってしまう。


 ───そう、誠の敗北が───否、九条撫子の勝利が、敗北へと導かれていくような大きな亀裂が生まれることの発端になるのであった。

キリがよすぎるので、本来書きたかったところまで行っていませんが終わりにします。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 撫子、確かに主人公だ。 超サイヤ人化は流石にしない……か。 撫子の勝利がどのような結果を招くのか、楽しみです。
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