Last Battle その⑯
校舎のB棟、4階にて誠と相対する九条撫子は、拳をギュッと握りしめた。
身体能力の高い彼女だったが、目の前にいる「七つの大罪」を持たない少年───誠に、攻撃を食らわせることができなかったのだった。
いくら破壊力があろうと、一撃必殺だろうとその攻撃が当たらなければ意味はない。九条撫子は、誠に再度向かっていった。
「次こそは」
その直後、九条撫子は躍動する。
「───」
誠は、それを横っ飛びで避ける───が、九条撫子はそれまでを見越したのか空中で足蹴りを食らわせようと試みる。
「既視感だ」
誠がそう呟くと同時、広げられた足を、両手を使って掴んだ。
「───ッ!」
そして誠は、九条撫子の両足を掴んでからその場で回転する。プロレスだと、ジャイアントスイングと呼ばれる技だろう。
「まだまだッ!」
九条撫子は、腹筋を使って誠に急接近を試みる。回転されていて尚、九条撫子は一撃を食らわせることを考えていたのだ。
相手に捕らえられているということは、相手を捕らえていることの逆説だった。
「───」
誠は、九条撫子が接近してきて危険を察知したのか、九条撫子に投げられるその刹那、九条撫子を投げ捨てた。
九条撫子は、生徒会室のホワイトボードに背中を打ち付けた後に、そのまま床までずり落ちた。
「クッソ...よくやってくれるわね...」
九条撫子は、目の前にいる七つの大罪の1つだって持たない人物───誠に悪戦苦闘する。
七つの大罪が見えるという彼女の特異な能力に身を任せていたこれまでの経験が、ここに来て裏目に出ていた。
きっと、誠に1発食らわせるだけならば、七つの大罪を見極める能力を持っていない一般人の方が簡単だっただろう。
───そう、後にも先にも九条撫子は、どう足掻こうと困難しかやってこないのだった。
それもまた、彼女の本質であった。死ぬまで───いや、死んでも苦労し続ける彼女は、人生への挑戦者であり、抵抗者であった。
「次は...負けないッ!」
九条撫子は、懲りることもなく誠に接近する。誠は、表情一つ変えることなく、自分に迫ってくる九条撫子のことを躱しては、反撃を叩き込む。
幾度も、九条撫子は攻撃を受けている。
───が、九条撫子は諦めなかった。
彼女が、こんなところで諦められるような性格ではなかったのだ。
***
───ここで、九条撫子の昔話をしておこう。
前述の通り、九条撫子は生まれつき困難に巻き込まれやすい体質だった。
それ故に、人の感情の機微を読み取れる機能の延長線上である、七つの大罪を見極めるという能力を手に入れることができたのだろう。
彼女の生まれは、今から27年ほど前。
九条撫子は出産され、数カ月後にはコインロッカーの中に入れられていたのだった。
そう、九条撫子は望まれずに生まれてしまったのだ。
───が、コインロッカーに入れられていた経験があって尚、彼女は生きている。
何かの奇跡か、マスコット先生の差し金か、コインロッカーに入れられるところを一人の人物が見ていたのだ。両親がどこかに行った後に、コインロッカーの扉は破壊されて、中にいた九条撫子は取り出されたのだった。
そして、九条撫子はその人物に育てられることになったのだ。名前がわからなかったので、九条撫子という名前は、そのコインロッカーを破壊した人物───名を九条昇が付けたのだった。
───そして、九条撫子は九条昇に育てられることになるが、九条昇という男には致命的過ぎる欠点があった。
それは、全てにおいて高望みしすぎているという点だった。
九条撫子は、そのために「優秀」であることを求められたし「完璧」であることを強制されたし「完全」であることが確定されていた。
彼女は、九条昇の要望に答えるかのように努力をし続けることを求められたのであった。断続的に襲いかかる困難に、九条撫子は応え続けたのだった。
だが、それが彼女を人生への挑戦者であり、抵抗者と言わせる所以には成り得なかった。
───彼女が人生への挑戦者であり、抵抗者と呼ばれる所以は、第3回デスゲームにある。
彼女は、御存知の通り生徒会メンバーに属することになったのだが、驚くべきことに4月3日には、漆苦玲に、生徒会メンバーだということが疑われたのであった。
九条撫子が、七つの大罪を見極める能力を持っているように、漆苦玲もまた、特異な能力を宿していたのだった。
それを端的に表すと、「裏切られる能力」というものだ。
漆苦玲は、森羅万象から裏切られやすい、「超裏切られ体質」だったのだ。
漆苦玲の人生も、壮絶であり非常に語りたいのだけれど、九条撫子の過去を回想するには、全くの余談なのでまた別の機会にとっておく。
漆苦玲は、森羅万象から裏切られやすい体質であるがゆえに、「裏切り者」が目に見えてわかったのだった。
それにより、九条撫子は生徒会であるということが疑われたのであった。
だが、彼女が生徒会メンバーであることが完全に露呈することはなかった。理由は簡単。彼女が、バレないように隠し通したからだった。
クラスメイトと信頼を積んで、信用を得てなんとかバレずに頑張ったのだった。
デスゲーム終了後は、彼女の困難は落ち着いたが、第5回デスゲームが始まることになって、再度ぶり返して来たのだった。
───そう、主人公・池本栄の仲間に勝つために。
彼女はいつだって人生への挑戦者であり、抵抗者だった。
そして、彼女はいつだって「諦める」ことはなかったのだった。
漆苦玲の過去回想は、書かれることはないと思います。
もしあるとしても、ここではなく短編として投稿されるでしょう。