4月2日 その⑥
学校ツアーを行う中、俺達は生物実験室に向かった。
そこには───
「あ、ハムスターだ!」
教室の廊下側の壁の近くに置いてあったのは、ハムスターのいるゲージだった。
他にも、周りを見るとカエルやヤモリ・カメに観賞魚など多種多様な動物がいた。
また、生物の研究を行うために必要な人体模型や顕微鏡などの設備もしっかりと準備されていた。
「こんなにたくさん...スゴイな...」
思わず、驚きの声をあげてしまう。そして、外には植物の植えられている鉢がおいてあった。
「多種多様な生物を飼育しております。できれば、ブタやウサギも用意できればよかったんですが...」
マスコット先生は、少し悲しそうな顔をする。
「まぁ、まだこの学校は始まったばっかりなのでブタやウサギが仲間にやってくるかもしれませんので。あ、ここにいる動物の解剖は自由に行ってもらって構いませんので」
「解剖だなんて、可哀想だよ...」
「え、自由にやっていいんですか?」
解剖は可哀想だと女子生徒から声が上がっている中、「解剖」という単語に反応したのは山本慶太だった。
「はい、ご自由に行ってもらって構いませんよ。解剖に資格はございませんから」
「え、じゃあ授業が終わったら早速ここに来よう!」
そんな、嬉しそうな声を山本慶太はあげた。
「山本君の怖さ...わかってくれた?」
と、後ろから声をかけてくれたのは俺よりも背が高い美少年の東堂真胡であった。
「あぁ、若干サイコパスというか、何というか...」
「でも、本人は至って真面目だから...」
少女のように可愛い顔をした真胡が眉をひそめる。綺麗だった。
「では、3階の教室はこれにて終了。皆さん、4階に行きますよ!」
俺たちは、B棟に近い方の階段から、4階に上がった。
「では、一番近い家庭科室から行きますよ!」
家庭科室か。調理器具でも置いてあるのだろうか。
と、思いながら家庭科室の中に入る。
「なっ!」
そこにあったのは、巨大なグラフだった。横軸には2/1・3/1・4/1と書かれており縦軸には25500から29000まで、500ずつに分けられ書かれていた。そして、グラフ中には赤と青の2本の線が流動的な形で表されていた。
グラフは、映像として壁に投影されていた。
横軸は、数字。縦軸は何かの値段だろうか。
「これは───」
「───日経平均株価...だな」
俺の疑問にいち早く答えたのは、西村誠だった。
「西村...君だっけ?」
俺は、思い切って西村誠に話しかけてみる。
「いや、誠でいい...」
「誠君...これは日経平均株価なの?」
「あぁ、青い線が5日移動平均で、赤い線が25日移動平均と言ったところだろう...」
眉一つ動かさず、誠はそう答えた。
「博識だね」
「そんなでもないよ」
謙遜しているが、多分彼の知識の引き出しが多いのだろう。じゃなければ、学生なのに日経平均株価を一目でわかるわけがない。
「どうしてわかったの?」
「ただ、家庭科と2本のグラフで関連のあるようなものが株しか考えられず、学校の教室にデカく投影するような物は株の中でも日経平均株価だろうと考えただけだ」
「そうか...」
一瞬で、そこまで導き出させる彼は、かなりの秀才と言っていいだろう。俺が、上から目線で何かを言う立場ではないけれど。
「かなりの考察力だな」
「池本君だって、昨日死ぬかもしれないのによくジェンガを倒せたな、アレは流石だよ」
「そう...かな?」
「あぁ、素晴らしいよ。俺には、自らの命を投げ売ってでも友達や仲間を助けようなんて思えないから。人間として、道徳的には正しいんじゃないかな」
「そうか...ありがとう?」
「こちらこそありがとうな。これからもよろしく」
「あ、あぁ」
俺は、誠と握手をする。その手は、かなり冷たかった。まるで、人間じゃないかのように。
家庭科室には、きちんと調理をする道具も場もあった。他にも、ミシンやアイロンだっておいてあった。
「食材も、揃っていますのでご自由にお使いくださいね!あ、作った料理は持ち帰っていいですが、具材をそのまま家に持ち帰るのは禁止ですよ?」
そう、マスコット先生が言った。食材は、自分で購入しろと言いたいのだろう。
「それでは、次の教室に行きますね!」
俺達は、マスコット先生の案内で家庭科室の隣の技術室にまで移動する。
教室の奥には、数台の糸鋸が確認できたし、教室にある机の4隅にはしっかりと万力がついていた。
「皆さん、知ってるとは思いますが万力に指なんて挟まないでくださいよ?」
先生は、ポケットから消しゴムを取り出し、万力を回して消しゴムを挟んだ。
”パァァン”
そんな、大きな音をならして消しゴムは破壊された。破裂し、地面に散乱したゴム片がその威力を明らかにする。
「こんな風になってしまいますので。セルフ指詰めをしたい人はこれを利用してくださいね」
「指詰めしたい人なんかいないだろ...」
技術室には、他にもドライバーやヤスリ・ペンチなどの工具が大量に置いてあった。
「ここに置いてある工具も、自由に使用してもらって構いませんので」
マスコット先生はそう手を叩くと、技術室の外に出る。
「それでは、続いては音楽室に行きましょう!」
続いて、俺達は技術室の隣りにある音楽室へと向かった。





