Last Battle その⑥
「───それでだ、栄。お前は靫蔓と大和の2人をげに殺したのか?」
俺は、目の前にいる柊紫陽花と、鼬ヶ丘百鬼夜行とグラウンドの中央で対面して接敵している今、柊紫陽花の口からそう問われる。
「結果的には死んじゃったけど...俺が直接殺したわけじゃない。両方、マスコット先生が殺した」
「そうか。貴様が嘘をつくような人物だとは思えない。少なくとも、マスコット先生よりかは」
なぜだか、俺は柊紫陽花に信用を得ているようだった。
「もし、俺がデスゲームに勝利したらマスコット先生はこれまでデスゲームに救うことを約束した。だから...マスコット先生を裏切って俺達の手伝いをしてくれ」
「協紫
力陽
な花
ど、
言騙
語さ
道れ
断る
だな
。よ」
「妾もわかっているわ。裏切りを許さないことも、裏切りが許されないことも、裏切りに許されようとしていることも。だが、妾は...」
迷いを見せる柊紫陽花。もしかしたら、彼女は俺達の仲間に引き込めるかもしれない。
「お耳
いを
、傾
紫け
陽る
花な
。!」
引き留めようとするのは、ペストマスクを付けたパン一の男───第2回生徒会メンバーの鼬ヶ丘百鬼夜行だった。
「希若
望い
は芽
詰と
ん同
でじ
お位
こ危
う険
。だ」
直後、そのパン一の男───百鬼夜行は動き出した。どこに隠し持っていたのかわからない───というか、隠せるところが必然的にパンツの中しか無いために、パンツの中に隠されていたがわかってしまう、百鬼夜行の手に持たれている箸のような2本の棒。
百鬼夜行は、その2本の棒を1本ずつ両手に持って、俺の方へ突っ込んでくる。スピードは、猫又一心不乱に劣るも、彼女と同等の力を持っていることは俺に迫ってくるまでの地響きで、自明だった。
俺は、後ろに下がることで百鬼夜行から距離を保とうとする。が───
”ヒュンッ”
「───」
俺の瞳目掛けて、正確無比に投げられる箸のような1本の棒。長さも、硬さも食事で使うような箸と同じようだった。
───が、そんな形状だからこそ凶悪なのだ。
まるで、矢が放たれたようなスピードで迫ってくる棒。俺には、その棒を避けるような能力など持ち合わせていた無かった。
「視えた」
その刹那、俺と飛んでくる箸の間に割って入ってくるのは、一人の女子生徒───右目に眼帯をつけた、俺のクラスで一番ロングスカートの制服が似合うだろう、驚異の回復能力を兼ね備えた喧嘩っ早いが仲間であるなら頼りになる人物───安土鈴華だった。
「よォ...栄。お前、負けそうになってんじゃねぇかよ?」
右手の親指と人差し指だけで、飛んできた箸をキャッチしている鈴華。
「鈴華...どうしてここに?」
「茉裕が栄を助けに行けと言ったからな。オレはお前を救いに来た」
鈴華の言う茉裕は、俺のクラスにいる出席番号14番の園田茉裕のことだろう。
今回は、茉裕の判断に助けられた。茉裕の決断は、英断だっただろう。
「面
倒
な」
そして、鈴華は目の前にいる百鬼夜行のことをマジマジと見て、頬を赤らめる。
「んな...なんで、コイツはパンツしか履いていないんだ?す...凄く視線に困るんだが...」
鈴華は、チラリと俺の方を向いてそう呟く。スケバンだけど、異性関係とかは無さそうなのが見え透けて、なんだか可愛く思えてくる。
「鈴華、コイツの名前は鼬ヶ丘百鬼夜行だ。相手をお願いしてくれるか?」
「あ、あぁ...目のやりどころには困るが、それは引き受けよう...」
「作
戦
通
り」
なんて、口に出している鼬ヶ丘百鬼夜行。パン一で、相手の目のやりばを無くさせるってのは作戦とは言わないだろう。
俺は、その場から離れるようにして、仲間に引き込めそうな柊紫陽花の方へ移動する。
「えっと...紫陽花...さん、でいいですか?」
「妾に敬語を使ったことは褒めて使わす」
「あ、ありがとうございます。それで...俺と一緒に抗いませんか?死んだ靫蔓や廣井兄弟の為にも...復讐しませんか?」
俺は、柊紫陽花に言葉を投げかける。柊紫陽花は、その美貌を少し歪ませて考えるような仕草を取る。歪んで尚、それは異性を惹き付けるような美貌だった。俺は、智恵がいるのでそんな浮気のようなことはしないけれど。
「靫蔓は、第4ゲームの最中マスコット先生に敵対しました!マスコット先生がルールを勝手に改変したのを理由に、マスコット先生との敵対を選択しました!その日の晩、マスコット先生に勝負を挑んだようですがマスコット先生にボコボコにされたらしく...」
「その話は本当なのか?」
「あぁ、本当だ!それに、俺達は第3ゲームで敵として憚った廣井兄弟も殺そうとせずゲーム終了時まで捕らえていた!マスコット先生が手を下さなければ、生きていた!」
俺は、どうにか柊紫陽花を仲間にするために言葉を重ねる。
「靫蔓とマスコット先生が戦っていなければ、きっと俺は靫蔓に負けていた!靫蔓は、マスコット先生に挑んでいなければ、大怪我を負わなかったんだから俺は完膚なきまでにぶちのめされていた!後、俺は靫蔓にライバルとして認めたんだ!昨日の敵は今日の友、一緒にマスコット先生に打ち勝とう!」
「───それは本当か?」
「あぁ、本当だ」
「ならば、貴様がいなければ靫蔓は最初から死ななかったのではないか。それに、靫蔓とライバル?貴様...頭が高いぞ」
「───え」
突如、激昂。
俺はどうやら、柊紫陽花の地雷を踏んでしまったようだった。
「妾は運だけの女だ。だが、それでも貴様程度なら一捻りだ。愚物が」
”ダッ”
俺は、柊紫陽花から逃げるようにして、その場から走り出す。鈴華と百鬼夜行の戦場から離れて、皇斗と大神天上天下の戦場とは反対側の方向へ走っていく。
───と、速い。
金色のワンピースに身を包んでいるのに、紫陽花は素早かった。絶対に、運だけではないだろう。
「妾の運で、貴様をねじ伏せる」
その直後、俺に向かって放たれる強烈な蹴り。俺は、今度こそ避ける術など持っておらず、その蹴りは俺の逃げる背中に直撃する───
───ことはなかった。
「───貴様は...」
「おい、栄...マス美先生から聞いたぞ。妾のファーストキスを奪った代償は用意できているのだろうな?」
紫陽花が放つ強力な蹴りを受け止めていたのは、第4ゲームの裏で行われたマスコット先生と靫蔓の戦いに、靫蔓の仲間として参加して敗北し、俺がキスをしない限りは数ヶ月眠ったままだと予測されていた美女───森愛香だった。
待望の森愛香、復活!!!!