5月14日 その㉓
第5ゲーム本戦『キャッチ・ザ・リスク』のルール
1.このゲームは、2チームに分かれて行う。
2.ゲームは、どちらかのチームがコートの中からいなくなったら終了する。
3.試合開始時にディスクを持つ人物は、それぞれのチームの代表者1名ずつがじゃんけんをして勝った方とする。
4.「リスク」が決まっていない際、ディスクを投げる人物はその裏に「リスク」を書いた紙を挟んでから投げる。
5.ディスクは必ず、自チームと相手チームの境界線から3m以上離れた地点から投げなければならない。
6.ディスクを投げて、相手チームのメンバーがキャッチし損ねて地面に落下してついた場合は、どこに落下しようとも最後にディスクを触れた人物が「リスク」を受けることになる。
7.投げたディスクが、誰にも触れられずに相手コートの中に落下した場合は、落下したディスクに一番近かった人が「リスク」を受けることとなる。
8.投げたディスクが、誰にも触れられずに相手コートの外に落下した場合は、ディスクを投げた人物が「リスク」を受けることとなる。
9.ディスクをキャッチした場合、「リスク」を変更することなく勝負を実行する。
10.「リスク」を受けることとなった人物は、コートから退場することになり、それ以降に試合に参加することはできなくなる。
11.「リスク」は、相手に不利益をもたらすものでないとならない。 いい例:死ぬ、目を潰す等 悪い例:リスクなし、デスゲームから抜け出せる等
12.「リスク」は全てマスコット先生が責任を持って試合終了時にくだすこととする。
13.死亡したなどの「リスク」をくだされない/くだせない/くだすまでもない状態になった際は、「リスク」が免除される。
14.「リスク」は勝負終了時に、「リスク」を受けた人物全員に下される。即ち、「リスク」を受けた時点で、その人物はルール13が適用されない限りは、試合の勝敗に関係なく「リスク」を受けることとなる。
「遥ちゃんのためにも、自分もためにも、ワタシは勝つ!」
そう言って、力強くディスクを投げる美玲。力強くも尚、しっかり調整されているらしくキャッチする必要があるだろう。すると───。
「───ッ!」
俺達ブルーチームのコートの中に入ったと思った瞬間、急に右折する。多分、急にではなく少しカーブをついていたのだろう。まぁ、そんな誤差も微差もどうでもいい。
問題は、このディスクを取ることができないということだった。ディスクの落下予測地に一番近いのは純介。
「取れ、純介ッ!」
「わ、わかった!」
俺よりも先に声を出す稜の言葉に驚きつつも、返事をする純介。まだ、ディスクは宙に浮いているから取ることは可能だ。
「───間に合わない!」
純介は、空飛ぶディスクのキャッチを諦め───ることはしていない。
その場で取れないと判断して尚、純介はそのディスクの方へ飛びつく。純介は、自分が罰を受けないためにも食い下がっていた。
「───クッ!」
だが、諦めなければ取れるというものではない。諦めなくても、できないものなんてのはこの世にごまんとあった。この純介の努力も、無駄になってしまったのだ。
───そう、ディスクはネットに当たって軌道を変えてそのまま地面に落ちたのだ。
「西森純介君、アウトです!リスクを見てもいいですよ」
「嘘...嘘でしょ...」
純介は、恐る恐るディスクを裏返して「リスク」を確認した後に、そんな言葉を零した。
「純介、何が書いてあったん...だ...」
俺が、純介のところに駆けつけると、そこに書いてあったのは「四肢を全て切り落とす」という文字だった。
「嫌だ...嫌だよ!こんなの...こんなのッ!」
このリスクを書いたのは、鈴華だった。
「鈴華!どうしてこんなリスクを!」
「理由を聞いてるのか?ならば、覚悟だよ。こちとら、お前らとは違って人の命背負ってんだ。腕失っても足失ってもいい覚悟がオレ達にはあんだよ!」
「んな...」
俺は、右手で顔の半分を覆う。鈴華のことを、俺は信じすぎていたようだった。
───いや、違う。俺は、このゲームを甘く見すぎていたのだ。
全員が、優しい「リスク」を選んで書くなどと思っていたのだ。だけど、そんなことはなかった。
昔行った喧嘩で、片目を潰して現在は眼帯を付けている鈴華。彼女のその怪我もまた、なにかに対する覚悟により負った怪我なのかもしれない。
相手のコートにいる傑物が、俺には怪物に見えてきた。その傑物を、怪物を例えるのであれば山だった。
巨大すぎるが故に、膨大すぎるが故にその”凄さ”を明確に理解できていなかったのだ。
登山をしたことがない人物が、エベレスト登頂の話を聞いて何となく「凄いなぁ」などと思うのと同じような感じだった。俺にとって、鈴華はエベレストだった。
「ちょ、ちょっと!鈴華ちゃん!そんなリスクにしたの?ワタシ、投げるの失敗してたらどうしてたの!」
「失敗していないから問題ねぇ!」
「それは...まぁ、いいや!どうせ何を言っても聞き入れてはくれないだろうし!ワタシだって、そのくらいの覚悟背負えるわ!」
「当たり前だ!それにもし、オレが書いたリスクを受けることになったら、オレも一緒に受けてやらァ!」
鈴華の覚悟は、俺達の持つような覚悟とは違った。俺達の持っている薄っぺらな覚悟ではなく、鈴華の持っている覚悟は芯の通った本物だった。
「───お前ら、容赦はしねぇからな?」
「ほら、早く!西森純介君はコートから出て行ってください!」
「は...はい...わかりました...」
純介は、マスコット先生の指示に従ってコートから出ていく。これで、俺達が勝とうと相手が勝とうと確実に純介は四肢を失うことになってしまった。
ぶわり。
直後、俺の背中に汗がかく。そこには、恐怖があった。怖い、怖かった。
自分が四肢を失うという想像をしてしまったのだ。四肢を失ってしまった純介を想像してしまったのだ。怖い、怖かった。
「やり返してやる...やり返してやる!」
そう言って、稜はディスクを拾って熱心に付箋に文字を書いてそれを貼り付けた。
「これでも食らえ!」
稜が投げたボールは、物凄いスピードで飛んでいった。
「これは取れる!」
「取るな、美玲!」
「え、あ、はい!」
美玲が取ろうとしたものの、鈴華が怒声を飛ばしたために美玲はキャッチすることをしなかった。
「稜、あれは...」
「嘘、だろ?」
稜の顔面が蒼白する。稜は、あのディスクに何を書いたと言うのか。
誰もキャッチしないリスクは空を翔び、そのままホワイトチームのコートの外に着陸してしまう。
それにより、ルール8:投げたディスクが、誰にも触れられずに相手コートの外に落下した場合は、ディスクを投げた人物が「リスク」を受けることとなる───が適用されることになった。
「山田稜君!残念ですが、罰はアナタが受けることになりました!」
「嘘、嘘だ!嘘だろ、おい!」
「稜、あのディスクには...あのディスクにはなんて書いたんだよ!」
「同じ...同じだ!」
「まさか...」
「そのまさかだよ!俺は、鈴華にやり返そうと思って...あれには四肢を全て切り落とすって書いたんだよ...」
稜は、その場にヘナヘナと倒れ込む。
「あーあーあー、馬鹿らしい...やり返せると思ったんだけどなぁ...そんなの、無理だったみたいだ...」
稜の虚しい笑い声が、グラウンド中に響いた。稜の仕返しは失敗に終わり、俺達ブルーチームも、ホワイトチームと同じ6人にまでメンバーを減らされたのだった。