5月14日 その⑬
第5ゲーム予戦『投球困窮四面楚歌』のルール
1.このゲームを行う際は、4チームに分かれる。
2.ゲームは、「田」の形となるような4つの正方形が組み合わさり大きな正方形となるような形のコートとする。
3.ゲームの時間は25分で1ゲームのみ行われる。
4.小さな正方形の中にいる人物を「内野」と、外にいる人物を「外野」と呼称する。
5.「内野」にいる人物が敵チームの「内野」及び「外野」にいる人物にボールを当てられるとその人物を「外野」に移動することになる。尚、当たるの定義は、ボールが地面に付かない間に、人物に接触したこととする。故に、一度バウンドしたボールに接触したり、ボールに当たった後に別の人物がキャッチした場合は「外野」に移動しなくてもよい。
6.「外野」にいる人物は、「内野」以外の場所は好きなように移動することができる。
7.「外野」にいる人物が敵チームにボールを当てれば、自分のチームの「内野」に復帰することができる。
8.1つのチームのメンバーが全員「外野」に移動した場合、その人物の正方形は「外野」が侵入することが可能となる。メンバー全員が「外野」に移動した場合は、「内野」の人物を当てたとしても「内野」に戻ることは不可能となる。
9.勝利条件は、チームの誰かが「内野」でいること。
10.もし、全チーム「内野」が一人でも存在していた場合は、「外野」にいた人物全員が敗北となる。
11.敗北したら、第5ゲーム本戦への参加が決定する。
12.試合開始時に、「外野」は最低1人・「内野」は最低4人必要。
13.「内野」がボールを取る際、自分の領土より外に触れた後にボールに触れた場合はボールの所有権を無くすが、ボールに触れた後に自分の領土の外に触れた時はボールの所有権を有することとする。
14.ボールは、最初に触れた人が30秒以内に必ず投げることとする。30秒以上故意に保有していた場合は、死亡とする。
15.顔面に当たった場合は例外的に「外野」への移動はしなくていいこととする。
正面 ホワイトチーム
右 イエローチーム
左 レッドチーム
ブルーチーム 池本栄・菊池梨央・村田智恵/阿部健吾・奥田美緒・斉藤紬・西森純介・山田稜(外野)
イエローチーム 岩田時尚・東堂真胡・西村誠・森宮皇斗・山本慶太/橘川陽斗・津田信夫・成瀬蓮也(外野)
ホワイトチーム 安土鈴華・園田茉裕・竹原美玲・細田歌穂/田口真紀・三橋明里・綿野沙紀(外野)/橋本遥(欠席)
レッドチーム 宇佐見蒼・柏木拓人・杉田雷人・結城奏汰/秋元梨花・佐倉美沙・中村康太・渡邊裕翔(外野)
ホワイトチームの竹原美玲と細田歌穂が支えとなり、安土鈴華の放つ閑雲野爆の準備が行われた。
残念だが、俺にこのボールを取る術は、ほぼ皆無と言っていいだろう。
───ならば、俺は避けに徹するしか無い。
「ごめんな、智恵、梨央。頑張って避けてくれ」
「「わかった」」
2人は、頷いてくれる。
「死ね!」
その言葉と同時に放たれる閑雲野爆。それは、これまでよりも力強い一撃となっていた。
だが、このボールも避けれないことは───。
「マジかッ!」
俺が、横に移動しようとしたその刹那、ボールが小さくカーブの軌道を描いた。このまま、避けたらボールが当たってしまう。幸い、このボールをバウンドなしに取ろうとする人はいないので、俺がやったように後ろにいる人物を利用してアウトを取る───という方法は無いので外野にボールを渡してしまってもいいだろうが、それでも危険は絶大だった。
俺は、直前で横への移動から後ろの移動に変更しようと考えた。が、その考えはすぐに消される。
ボールの進むであろう方向にいるのは、智恵だった。鈴華が投げたボールを食らえば、もしかしたら骨が折れるかもしれない。実際、それだけの威力があるボールだと言われてもすんなり納得できるような強さだった。
もし、これが漫画ならば炎が出ていたり、金色に光るなどの演出が施されているのかもしれない。
「ひ───」
「智恵!」
俺は、結果としてボールの進行方向に飛ぶ。もし、ボールが当たって大きな痣ができようとも、智恵に一生消えないような傷ができるよりかはマシだった。
”バンッ”
俺は、智恵を守ろうとボールの方へ向き肉壁となることを選択する。が、体からアドレナリンが出ていたのか無謀にもキャッチをしようとしてしまったのだ。自分でも、こんな力強いボールが取れるとは思っていない。が───
「───受けて立ったぜ、鈴華!」
「おいおい、マジかよ...」
俺の手には、ボールが収められていた。俺の皮膚を摩擦で削り、俺の血がついたボールが俺の手の中には存在していた。
「───クッソ、痛ぇ...」
俺の口から、思わずそんな言葉が出てきてしまう。左の掌を見てみると、全面がピンク色になっており表面の皮膚が全て削られていた。それだけの摩擦があったのだ、恐ろしい。
「───が、誰もアウトになっていない」
両方の掌の全面が、チクチクと針に刺されるような痛みがある。きっと、早急に冷やしたほうがいいのだけれど、今そこまでの余裕はない。
「とりあえず!」
俺は、外野の方へボールを投げる。そして、そのボールをキャッチする健吾。
「健吾、頼んだ!」
「任せろや!」
「───ひ」
健吾が狙うのは、ホワイトチームの園田茉裕だった。彼女は、キャッチしようとする素振りもなくすぐに避ける選択をした。
「茉裕!」
鈴華が、園田茉裕の名前を呼んで彼女の方へ走る。そして、健吾が投げたボールをキャッチする。
「オラッ!」
その直後、自分一人で力任せに投げる鈴華。俺達ブルーチームの方向ではなく、森宮皇斗のいるイエローチームの方だった。
皇斗は、そのボールを片手で軽々とキャッチした。
「随分と、いいボールじゃないか...余と、勝負をしよう」
「売られた喧嘩は全部買うって決めてんだ。怯まずに来いや」
「余は鈴華───お前を信用してるぞ」
「───あ?」
その刹那、皇斗が鈴華目掛けて飛ぶ。もちろん、その腕にはボールがあった。190cm以上ある皇斗が高々と飛ぶ姿は、かなり驚きが大きかった。
「───何を...」
いつボールを投げるのか皇斗のことを睨んでいる鈴華。だが、皇斗はボールを投げることはなかった。
「マジかよ...」
そう、皇斗は自分の全体重を鈴華に任せる選択をしたのだ。というのも、皇斗はボールを右手に持ったまま、ぶつける。そして、ボールを離さずに左手では鈴華の肩に手を置いてそのまま力を込めて再度空中に戻っていったのであった。
皇斗の体重を一身に受けた鈴華であったが、それでも転ぶことはせず仁王立ちのままだった。
「鈴華。お前の真っ向から喧嘩を買う姿勢を利用させていただいた」
「───」
鈴華は、その場から動かないし一言も喋らない。猛烈に怒っている───と思ったら。
「ハーハッハッハっハッハッハ!おっもしれぇ、オレの負けだ!」
そして、満面の笑みを浮かべるのは鈴華であった。どうやら彼女は、皇斗の驚くべき行動を認めたようだった。
「まさか、ドッジボールで直接ボールを当てるとはな。そして、足場をオレ自身にするとは───こりゃあ、たまげた!こいつは傑作だ!」
鈴華はそう言うと、そのままルンルンで外野へと出ていった。本人が楽しければ、なんでもいいのだろうか。
「───すまないが、余は容赦はしない」
そう言うと皇斗は、今度はしっかりと投球した。ボールを持っていていい30秒の時間というルールと、体の強い鈴華だからこそさっきの技はできたのだろう。
そして、ホワイトチームの内野にいた全員───園田茉裕・竹原美玲・細田歌穂にボールが当たった。
───10分32秒 ホワイトチーム、敗北。
皇斗、須らく翔ぶ───。