5月14日 その⑪
第5ゲーム予戦『投球困窮四面楚歌』のルール
1.このゲームを行う際は、4チームに分かれる。
2.ゲームは、「田」の形となるような4つの正方形が組み合わさり大きな正方形となるような形のコートとする。
3.ゲームの時間は25分で1ゲームのみ行われる。
4.小さな正方形の中にいる人物を「内野」と、外にいる人物を「外野」と呼称する。
5.「内野」にいる人物が敵チームの「内野」及び「外野」にいる人物にボールを当てられるとその人物を「外野」に移動することになる。尚、当たるの定義は、ボールが地面に付かない間に、人物に接触したこととする。故に、一度バウンドしたボールに接触したり、ボールに当たった後に別の人物がキャッチした場合は「外野」に移動しなくてもよい。
6.「外野」にいる人物は、「内野」以外の場所は好きなように移動することができる。
7.「外野」にいる人物が敵チームにボールを当てれば、自分のチームの「内野」に復帰することができる。
8.1つのチームのメンバーが全員「外野」に移動した場合、その人物の正方形は「外野」が侵入することが可能となる。メンバー全員が「外野」に移動した場合は、「内野」の人物を当てたとしても「内野」に戻ることは不可能となる。
9.勝利条件は、チームの誰かが「内野」でいること。
10.もし、全チーム「内野」が一人でも存在していた場合は、「外野」にいた人物全員が敗北となる。
11.敗北したら、第5ゲーム本戦への参加が決定する。
12.試合開始時に、「外野」は最低1人・「内野」は最低4人必要。
13.「内野」がボールを取る際、自分の領土より外に触れた後にボールに触れた場合はボールの所有権を無くすが、ボールに触れた後に自分の領土の外に触れた時はボールの所有権を有することとする。
14.ボールは、最初に触れた人が30秒以内に必ず投げることとする。30秒以上故意に保有していた場合は、死亡とする。
15.顔面に当たった場合は例外的に「外野」への移動はしなくていいこととする。
正面 ホワイトチーム
右 イエローチーム
左 レッドチーム
ブルーチーム 安倍健吾・池本栄・奥田美緒・菊池梨央・斉藤紬・西森純介・村田智恵・山田稜
イエローチーム 橘川陽斗・津田信夫・東堂真胡・西村誠・山本慶太/岩田時尚・成瀬蓮也・森宮皇斗 (外野)
ホワイトチーム 安土鈴華・園田茉裕・竹原美玲・三橋明里・綿野沙紀/田口真紀・細田歌穂 (外野)/橋本遥 (休み)
レッドチーム 秋元梨花・佐倉美沙・杉田雷人/宇佐見蒼・柏木拓人・中村康太・結城奏汰・渡邊裕翔 (外野)
蓮也にボールを当てたことにより、俺は内野に戻ることに成功した。
「栄、ナイスだ!」
そう言って、俺に向けてサムズアップしてくるのは、ボールをパスしてくれた健吾であった。
「渡す」は駄目だけど、ボールを「投げる」のはルール上いいらしい。かなり、判別が難しいところだったが、マスコット先生が何か野次を飛ばしてこないということは、問題なかったということだろう。
「全く、油断していた」
そう言って、イエローチームの中でボールを手に取ったのは誠であった。
第4ゲームの最終決戦にて一緒に戦った人物でもある誠は、俺を睨むことも褒めることもせずに、ただ無表情でボールを投げる動作をした。そして───
「無回転!」
俺は、咄嗟にその判断をしてボールをキャッチする方針から避ける方針に変更した。ボールを、恐るべきカーブをして曲がっていった。そして、そのボールは誰にも当たること無くレッドチームの内野に落ちる。
「よし来た」
飛んでいったボールをキャッチして、すぐに投げる行動を取るのは、第3ゲームにて臨時教師との戦いに共に臨んだ人物である結城奏汰であった。
そして、レッドチームにボールが渡ったということは誘いの五角形が行われてしまう。
「行くよ」
そう言うと、奏汰の手からボールが離れて一直線に外野である康太の方へ飛んでいく。康太は、それをキャッチすると同じく外野の蒼の方へ投げられる。
「またこれぇ?」
紬が、嫌そうな声を出すが、レッドチームにボールが渡されてしまったのであればしょうがない。
俺達は、右に左に移動し続けるボールを避けることしかできなかった。
───と、運悪く蒼の投げたボールが美緒に当たってしまう。
「マズい!」
美緒にボールが当たったことに真っ先に気がつくのは健吾であった。健吾は、もうすぐ地面につきそうなボールに飛び込むようにして移動する。が───
ボールは、地に落ちる。
「奥田美緒さん、アウトです!」
マスコット先生は、煽るようにその言葉を口にした。この言葉に健吾が含まれないことからも、健吾はボールに触れられていなかったのだろう。
「やったピョン。美緒ちゃん、ありがとうだピョン!」
「コイツら...」
コートに入ったばかりの蒼に向けられてボールが放たれる。
「きゃー、こわーい」
蒼は、棒読みでそのボールをキャッチする。蒼は、そしてケラケラと笑った。
「随分と、必死ピョンね。もしかして、健吾きゅんは美緒ちゃんのことが好きなの?」
「───ッ!」
「油断大敵だピョン」
直後、蒼からボールが放たれて事実を皆の前で突き付けられた健吾にボールが当たってしまう。
「ハハハ、よかったピョンね!一緒に、本戦に参加できるかもしれないピョン!」
「このクソ野郎...」
「健吾、蒼の挑発には乗るな」
蒼が人のことを小馬鹿にして挑発するのは日常茶飯事だ。イラッとくるが、相手にしてはならない。
「健吾、蒼はマスコット先生ほど相手にしちゃならないぞ」
「え、皇斗きゅん!どうしてそういうことを言うピョン!?」
───と、そんな話をしている蒼の背中に向けて俺はボールを手に取り蒼の方へ投げた。
油断していたのか、蒼の頭にコツンと当たった。残念ながら、アウトではない。理由は顔面セーフだから。
「栄きゅんまで...皆、勢揃いして僕を狙ってひどいピョン...まぁ、顔面セーフだからいいけど」
一瞬見えた、蒼の真っ黒な笑顔。そして、その後に蒼の手からイエローチームの方へボールが飛んだ。
そのボールは、誠がキャッチした。
「誠、そのボールを余に」
「了解した」
森宮皇斗の声を聴き、誠は皇斗のいる外野の方へボールを投げる。どうやら、外野に行ってからはほとんど静かだった皇斗が、再度動き出すようだった。
「誘いの五角形───などと言っていたが、余にそんな煌びやかな名前を付ける才能はない。故、余は今から披露する技を曼荼羅と呼ぶことにした。もちろん、便宜的だがな」
───曼荼羅。
皇斗は、そう言った。その技は───
「───マジかッ!」
皇斗は、空を翔ぶ。本来であれば、ボールが内野の上空を飛び交うのだろう。だが、曼荼羅は違う。翔ぶのは、皇斗自身であった。内野には足をつけぬよう、ジャンプで内野の上空を移動する。
そして、その手に持たれているボールで誰かをジックリと狙っているのであった。
ずっと、皇斗がボールを手にしているので実質的には誘いの五角形とほぼ同義であった。だって、誘いの五角形と同じくボールがコート内を縦横無尽に移動しているのだから。
「───ここだ」
「キャッ!」
狙われるのは、ホワイトチームの園田茉裕であった。園田茉裕は、今行われているゲームの途中で、鈴華に投げられた人物である。
皇斗が園田茉裕を狙った理由は不明だ。もしかしたら、ボールを30秒しか持てない───という、時間制限を気にしての行動かもしれない。
「させるかッ!」
茉裕にボールが当たる刹那、茉裕に覆い被さるようにしてボールから守るのは、鈴華であった。
皇斗が、茉裕に投げるとわかっていないとできないような行動だったが、鈴華の瞬発力は異常なのかもしれない。
”バンッ”
結果的に、鈴華にボールが当たって鈴華が外野行きになる。そのまま、皇斗は俺に当てた時と同じように、自分の所属するチームの内野───要するに、イエローチームの内野に着地した。
皇斗の使用する曼荼羅もまた、かなりの強さを持つものだった。
皇斗、更に翔ぶ───。
曼荼羅の由来は、試合を上から見た時に皇斗の動きが曼荼羅のような複雑なものになるからです。