5月8日 その⑥
森愛香の両親が、デスゲームに関連していることを知る。祖先と言っているが、流石に祖父母がデスゲームに参加している───とか言うわけではないだろう。
いや、もしかしたらGMなのかもしれない。
GMが老人だというのは、あるあるだろうか。俺が読むデスゲームものでは、主人公の両親がGMであるため、今回は特例なのかもしれない。
いや、それは俺が「主人公」である時の仮定だ。森愛香が主人公であるならば、両親=GM説が十分に成り立つことになる。
「愛香がデスゲームに関連しているのなら...」
第2ゲームである『スクールダウト』の本戦が思い出される。
スクールダウトは、5つ出される情報の内、2つが本物で、他の3つが嘘というゲームであった。
その中で森愛香に出た選択肢は以下の5つだった。
1.両親は仕事をする上で、政治家に根回ししている。
2.親はデスゲームの運営に関係している。
3.デスゲームに参加する以前に人を殺したことがある。
4.暗所恐怖症だ。
5.平塚ここあを殺した。
これで、森愛香の「真実」となる情報が2と4で確定したのであった。
2は、今の父さんの証言から。4は、ゲーム内で公表された。
これにより、森愛香が殺人を犯したことがないことが証明されたのであった。
「もう一つ質問だ。愛香の両親がGMか?」
「いえ、違います。GMは森愛香さんの両親ではございません」
「───本当か?」
「はい、本当です。GMは森愛香さんの両親ではございませんよ」
マスコット先生が強調する「では」。これは、きっと誰かの両親がGMであるということだろうか。
「それじゃ、俺を中心にデスゲームを行おうとするのは、何かを隠すためなのか?」
「いえ、違いますよ。私は、池本栄君を中心にデスゲームを行うことだけを決めて、それを実行していきました」
「じゃあ、GMの息子は?」
「デスゲームに参加していますよ」
「うーん、意味がわからない...どうして、GMの息子を中心に行わず、俺を中心に行ったんだ?」
「質問の意味がわかりません」
「え?」
「はい?」
「えぇ...」
俺の父さんと、俺の話が一切合わない。どこかで、齟齬が生じてしまっている。
父さんの言い分をまとめよう。
1.デスゲームは俺中心で行われている。ここでの中心は物語で言う主人公と同義。
2.デスゲームの主催者側の子供は、俺と森愛香・GMの息子の3人。
俺がした質問は「どうしてGMの息子を中心にしなかったのか」という疑問だ。マスコット先生は、それを理解していない。
「えっと、言葉を変えます。どうして、デスゲームの中心を俺にしたんですか?」
「GMの決定だからです」
「GMは、自分の息子か娘を可愛がるために中心にしなかった?」
「いいえ」
「え、じゃあ...」
───俺は、マスコット先生の息子ではなく、GMの息子だということになってしまう。
「どういうことですか?それじゃ、その理論じゃ俺はマスコット先生の息子ではなく、GMの息子だということに───」
言っていて、気が付いた。
マスコット=GM
この方程式に。
「マスコット先生。アナタは、GMですか?」
「はい」
「───本当に?」
「はい」
「おいおい、まじかよ...」
ここで行われた話し合いの齟齬も、「マスコット先生=GM=俺の父親」が成り立つとするのであれば納得がいく。俺の両親は、マスコット先生とGMという一人二役をやっていたのだ。
さっきまとめた情報の2である「デスゲームの主催者側の子供は、俺と森愛香・GMの息子の3人」は、2人に変わる。
デスゲームに参加していた人物の子孫は、俺と森愛香だけであったのだ。
「なんだか、色々と話し過ぎな気がしますが...まぁいいでしょう」
マスコット先生こと、GMこと、俺の父さんはそんなことを口に出している。
だが、マスコット先生=GMだとするのであれば、色々と齟齬が生じるのではないか。
「これまで、デスゲームを考えていたのは、GMだったんじゃないですか?」
「はい。役柄上『マスコット先生』ではなく『GM』が考えておりました。その他にも、『マスコット先生』と『GM』のあたかも2人が別々の人物であるように演じていました」
「そう、だったのか...」
「はい、そうです。アナタは、マスコット先生の子供である以上に、GMの子供なんです。ゲームマスターの子供であるから、アナタは靫蔓から主人公だと認められたんです。まぁ、私もアナタのことを主人公として第2回デスゲーム以降を行ってきたので、正解なのですがね」
「じゃあ、過去のデスゲームは?」
「池本栄君、アナタが活躍するための前座です。先程も言った通り、第5回デスゲームで、池本栄君の敵として使えるであろう人物を選別していたんですよ」
「デスゲームで?人が死ぬんですよ?」
「はい。わかっています。デスゲームの主催者に倫理観を問うのは間違っていますよ。第2ゲームの『スクールダウト』でもそんな話をしましたね、懐かしい」
「そうかよ...じゃあ、真の天才ってのはなんなんだよ?」
「感情を持たずに理性だけで動く人物のことです。人造コンピューターなんて言ってもいいかもしれませんね」
「中心は俺だが、俺をそんなものにしたいのか?実の息子だぞ?」
「実の息子だから、行っているんですよ。人様の息子にそんなことできると思いますか?」
「おかしい...おかしいよ。人は殺していいくせに、人様の息子を真の天才にはできない。なんだよ、それ!話が崩壊してる!人格が破綻してるよ!」
「まぁ、好きに言ってください。ただし、そんな酷い人物とあなたを産んだ人物が同じであるということを忘れずに」
「あぁ、もう...話をしていると嫌になってくる...」
俺は、目の前の人格破綻者こと、マスコット先生こと、GMこと、実の父に嫌気が差してくる。どれだけふざければ気が済むのか。
「そうだ、最後に聞かせてくれ。デスゲーム、どうやって行っているんだ?禁止行為とか、何もせずに殺す方法とか、教えてくれよ...」
「デスゲーム参加者に、そんなもの教えてあげるわけないでしょう。テスト中に教科書を開いていいのですか?テスト中に、先生に質問をしていいのですか?」
「教えてくれないのか...じゃあ、いいですよ。一先ず、聞きたいことはある程度聞けました」
俺はそう言うと、立ち上がる。どこかに、苛立ちが残っていた。
「そうだ、池本栄君。アナタの母親は保健室にいます。森愛香さんに会うついでに会ってきたらどうですか?」
「───」
俺は、返事をしなかった。言いなりになるのは癪だったが、俺はこれまで話し合っていた生徒会室の3つ下の階にある保健室へと向かった。
とりあえず、今出していい情報は出したつもりです。
GMの件は、出す予定なかったけれど。